災魔の誘惑 第14話
コツーン…。コツーン…。
真っ暗やみの中に響き渡る靴音。そして、
「…フッ!!…ククク…!!」
と言う笑い声と共に、キラキラと黒く光る丸い眼鏡を掛けた男が姿を現した。呪士ピエール。災魔一族に仕える執事だ。
「…随分と溜まりましたね…!」
中世ヨーロッパの貴族のような服を身に纏い、鼻の下から生やした髭が先端で曲線を描いている。その手には、濃白色で強烈な異臭を放つ液体を入れた小瓶が握られていた。
「…私の、…いえ、私達のことに全く気付かず、ズブズブと快楽に堕ちて行くとは…。…ゴーグリーンもただの人間だった、と言うわけですね…!!」
眼鏡の奥の瞳がギラリと光り、手にしている小瓶をしげしげと眺めている。
「…だが、まだ足りない…!!…大魔女グランディーヌ様の復活のためには、ゴーゴーファイブのような強靭な肉体と精神力を持つ者のエネルギーが大量に必要なのですから…!!」
ゴーグリーンとして災魔一族から地球を守るために日々戦う巽ショウ。もとは首都消防局の航空隊ヘリコプター部隊員だった彼は、父親である巽モンドの鶴の一声で強制的に仕事を辞めさせられ、ゴーゴーファイブにさせられたばかりか、航空隊ヘリコプター隊員を辞めた退職金まで巻き上げられた。
遊ぶ金に困窮したショウに目を付けたピエール。いや、単なる偶然だったかもしれない。だがピエールは、言葉巧みにショウをアダルトビデオへの出演へと引き摺り込んだ。
当然、そんなことは出来ないと一度は断ったショウ。だが、ピエールはそのビデオが通常のルートでは出回らないような特殊なものであること、それに出た場合、報酬として1本につき福沢諭吉の札束を1冊手渡すと言った。その大金の誘惑に抗い切れず、ショウは1本だけだと渋々、了承した。だが、そんなショウを災魔獣やインプスが快楽と言う武器で狂わせたのだ。1本目はショウの自慰行為を収め、その快楽の誘惑に負けたショウの2本目は、清楚可憐な人間の女性の姿をした災魔獣ツタカズラに相手をさせた。災魔獣ツタカズラとインプスは、ゴーグリーンに着装し、目隠しをしたショウの筋肉質な体を愛撫するだけではなく、その筋肉質な胸の2つの突起を舐めたり指で刺激したり、更には、ショウの男としての象徴でるペニスをもゴーグリーンのアンチハザードスーツを引き裂いて引っ張り出し、愛撫を繰り返した。そんな刺激に耐え切れず、ショウは大量の、濃白色で強烈な異臭を放つ淫猥な液体を飛び出させたのだった。その淫猥な液体を、ピエールが小瓶に収め、今、目の前で見つめていた。
「…ククク…!!…ゴーグリーンはもう、あの快楽から逃れることは出来ない…!!」
ピエールがニヤリと笑う。
「…そろそろ…、…最終段階と行きましょうか…!!」
「…グフッ!!…ヘヘ…ッ!!」
その頃、ショウはニヤニヤとしながら、街の中を歩いていた。
「…香…さん…ッ!!」
ショウは今、災魔獣が姿を変えていた女性・鹿鳴館香にすっかり心を奪われていた。その証拠に、迷彩柄のズボンに包まれた、ショウの男としての象徴であるペニスが大きく勃起し、大きなテントを張っていたのだ。
「ああッ!!また香さんにやられてえッ!!」
その時だった。
「ショウ君」
ポンと肩を叩かれた。
「…司従さん…!!」
まるでショウの心の中を読んだかのように現れたその男。スーツ姿のほっそりとした、髪はやや薄くなっているように見える、真っ黒な丸いメガネを掛け、鼻の下には中世の貴族かと思わせるほどの、触角のような長い髭を蓄えているその男。
ショウは一瞬、目を輝かせたが、すぐに真顔に戻ると、
「…ど、…どうかしたのか?」
と司従に問い掛けた。司従の顔が、どこか浮かない様子だったからだった。
「…いや、…ちょっと困ったことがありましてね…」
目を伏せるように言う司従に、
「何があったんだよ?」
とショウが尋ね返す。すると司従は、
「…いえ、…あなたに話しても、どうにもならないことでしょうから…」
と言った。だがショウは、そんな司従の両肩を掴んだかと思うと、
「オレに出来ることがあったら、何でも言ってくれ!!」
と真剣な眼差しで言った。
「…ショウさん…」
司従の目がキラリと光る。そして、
「取り敢えず、私の事務所へ行きましょうか」
と言うと、2人は連れ立って歩き始めた。
閑静な住宅街の一角に聳える古びたビル。その鉄の扉が相変わらず耳を覆いたくなるほどのけたたましい音を立てて開かれると、どこにでもありそうな応接セットと、撮影用のグリーンバックと、その目の前には大きな鉄のベッドが目に飛び込んで来た。その椅子に、1人の女性がぽつんと腰掛けていた。
「香さん!」
ショウの足取りが思わず早くなる。すると香は、
「…あ…」
と一声上げたものの、すぐに悲しげな表情を浮かべた。
「…ど、どうしたんだよ、司従さんも、香さんも…?」
ショウがそう言うと、司従はゆっくりと自分の席に腰掛け、
「…今、我が社ではこの香くんを売り出そうと戦略を練っているのですが、どうにも上手いアイディアが浮かばず、苦労しているんですよ…」
と言い、真っ黒な丸眼鏡をクイッと上げた。
「何か、こう、インパクトのあるような映像を作り出したいと思ってはいるのですがね…」
「ヘッ!そんなの、簡単じゃねえかッ!!」
ショウがそう言った言葉に、司従と香が同時に顔を上げる。
「…ショウ…さん…?」
やけに自信ありげに笑みを浮かべているショウに、香が思わず声を上げる。するとショウは、
「もう一度、オレがやる!」
と言ったのだ。
「…ショウ…君…?」
司従も驚いてショウを見る。ショウは、
「通常のルートでは出回らないような特殊なものなんだろ?だったら、とことんまで付き合ってやるよ!」
と言い切ったのだ。
「…だが、…君にこれ以上迷惑を掛けることは…」
司従がそう言うも、
「気にすんなって!一度、寄りかかった船だ!それに、オレはゴーゴーファイブなんだぜッ!?目の前にいる綺麗な人を救えなくて、ゴーゴーファイブが務まるかって言うんだッ!!」
とショウは言う。
「…ショウさん…」
香の目にうっすらと涙が浮かんでいる。
「…で?…今度は何をすればいい?」
そんな香に照れ隠しをするかのように、ショウは司従に尋ねる。すると司従は、
「ショウ君もゴーグリーンに変身し、2回出演してもらっている。言い換えれば、ヒーローが淫猥なことをしていることになる。それが随分、人気が出ているんですよ…。…ただ…、…何か、こう、インパクトに欠けて…」
と言うと、
「…これ以上、…ショウ君にお願いをしていいものかどうか…」
と再び言い淀んだ。
「ああッ、もうッ!!じれってえなあッ!!」
血気盛んなショウが苛立って声を上げる。
「司従さんと香さんを救うためだッ!!オレはどんなことだってするぜ!!」
「…本当に、…いいのですか?」
司従がすまなさそうに言うと、
「ああッ!!男に二言はないッ!!」
とショウが大きく首を縦に振った。
「…では…」
司従はそう言うと、引き出しから書類を取り出し、ショウに渡す。
「…正義の…、…ヒーロー…陵辱…?」
「ええ」
司従の丸眼鏡が光る。
「香くんに悪の女性幹部を演じてもらい、ショウ君にはゴーグリーンに変身してもらって、撮影が出来ればと思うのですが…」
「…フッ!」
その時、ショウはニヤリと笑い、
「こんなの、簡単じゃねえか!!いいぜ、やってやるよ!!」
と言い切ったのだった。