ヒーロー陵辱 第2話

 

 彼の名前は淳市。僕が勤める会社の後輩にあたる。年齢は20代後半、と言ったところだろうか。と言ったところだろうか、と言うのは、淳市とはあまり話す機会がないからだ。

 シフト制で、わりとすれ違うことが多い。年齢差もあり、さほど、話すテーマもない。

「いやあ。体を動かしている時が物凄く生きてるって言う感じがしますよ!!…それに…」

 不意に悪戯っぽい笑みを浮かべたかと思うと、

「かわいい女の子が多いんですよねえッ!!

 と眩しいくらいの笑みを浮かべて笑う。

 淳市は体を動かすのが好きだ。暇さえあれば、ジムに通っていると言っている。その体はガッシリとしていて、身長は180cmくらいだろうか。横幅が広いが、決して太っていると言うわけではなく、筋肉がしっかりと付いているような、いかにも美味そうな体付きと言った具合だ。ワイシャツの前の部分がぱっつんぱっつんに張り、彼の胸板の厚さを窺わせる。

 おまけに肌の色が黒い。寒い冬に外で日焼けをするわけでもないのに、体が黒い。地の色なのか、はたまた、日焼けサロンのようなところでこんがりと焼いているのかは分からない。だが、その日に焼けた黒い地肌の、筋肉隆々の腕が薄い白いワイシャツを捲くって出て来た時には誰もが目を輝かせた。

 そして、食事には必ずプロテインやら筋肉を作る様々な粉状のものをお湯に溶かし、ゴクゴクと喉を鳴らして飲んでいる。拘りが強いと言ってもいいのかもしれない。

「んしょッ!!

 重いものでも簡単に持ち上げてしまう淳市。その時、曲げられた腕にはしっかりと肉付きが浮かび上がる。

「こんなの、お安い御用っすよッ!!

 ニカッと笑うその表情もまさにイケメン。だが、どことなくあどけなさを残し、その笑みが目の前にいるスタッフをも射抜く。男女関係なく、だ。だが、本人にはそんな自覚は全くない。誰にでも、普通にその爽やかな笑みを向けてしまうのだ。

「困ったことがあったら、いつでも言って下さいッ!!オレが何でもしますからッ!!

 そう言うと、淳市は眩しい笑みを浮かべたのだった。

 それから彼のガッシリとした2本の脚。それはスラックスにピッタリと張り付くようにその肉付きを浮かび上がらせている。それが腰を落としたり、屈伸をするたびに浮き上がり、妙な感情を抱かせる。

「普段から鍛えてるんすよ、オレ!!

 いや、それはその体付きを見れば分かるし、暇さえあれば、会社のどこででもストレッチをしたり、腕立てや腹筋を繰り返している。

「…よ…ッ、…ほ…ッ!!

 真剣な眼差しで体を動かす淳市。だが、その目はキラキラと輝き、ストイックさを窺わせる。

 そして。

 そんなガッシリとした2本の脚の付け根部分に息づくふくよかな膨らみ。本人は全く自覚がない、その穏やかな膨らみ。彼の男としての象徴・ペニスとその下に息づく2つの球体。それは彼の体の動きに合わせるかのように時折、その姿を現す。ふくよかな膨らみが大きく見える時もあれば、ペニスが頭を出す時もある。

(…淳市のチンポとその下のタマを…、…食いたい…ッ!!

 そう思っている人間はどのくらいいるだろう。女だけじゃない。男だってそうだ。

 実際、僕は淳市が入社して来た時から、彼に目を付けていた。その体付きと言い、それと対照的なギャップを生み出す爽やかな笑み。それを見た時、僕の心の中にはおぞましい感情が瞬時に湧き起こった。

(…淳市が…、…ヒーローだったら…)

 誰もが憧れるヒーロー。地球を守る正義のヒーローが、もし、身近にいたら。逞しい体付きに光沢のある鮮やかな色のスーツがピッタリと密着するように纏わり付き、そのヒーローの体付きをクッキリと浮かび上がらせていたら。

(…それが…、…淳市…だったら…)

 屈託のない笑みを浮かべて笑う淳市。そのワイシャツから飛び出す筋肉隆々な腕だけではなく、その下半身をも曝け出したら…。

(…淳市を…、…襲いたい…ッ!!

 だが、真正面から向かったところで彼を襲うことは出来ない。逆にその強い力で捻じ伏せられるだろう。いや、それだけではなく、僕自身の出処進退に関わる問題になってしまうかもしれない。それだけは、避けなければならない。

(…どうにかして…)

 どうにかして彼を、身も心も抵抗出来なくし、屈辱に歪む顔を拝みながら、じっくりとその震える体を味わってみたいとさえ思っていた。

 

『ヒーローを精神的に抵抗出来なくし、その体を拘束。そして、ヒーローが感じる部分をねちねちと様々な方法で刺激し、男としての象徴を勃起させる。そして、その勃起した男としての象徴へも愛撫を繰り返し、屈辱と快楽の中で混乱して行くヒーローを演じたい人はいませんか?最後にはそこから溢れ出るエネルギーを一滴残らず搾り取りたいです』

 取り敢えず、そんな投稿を出会い系掲示板にしてみた。淳市のような、体付きがガッシリとした若々しい肉体の年下が反応してくれないだろうか。両手両足を拘束し、身動きが取れない中で屈辱的な行為を繰り返し、その意思とは裏腹に大きく勃起してしまったペニスを時に激しく、時に柔らかく愛撫する。その快楽に身悶え、混乱する中でペニスから溢れ出す淫猥なエネルギーを一滴残らず搾り取ってやりたい!!

 それがもし、本当に淳市だったら…。けれど、淳市がこっちの世界の人間かは分からない。

「いやあ。体を動かしている時が物凄く生きてるって言う感じがしますよ!!それに、かわいい女の子が多いんですよねえッ!!

 ジムの話をした時、そう言った淳市の鼻の下が妙に伸びていたのを覚えている。となれば、淳市はノンケに違いない。そんな彼が、僕が投稿したものに反応するわけがない。ましてや、そう言うサイトを見ることさえないだろう。

 

 数日経った時だった。

「…あれ?」

 仕事の休憩合間に見た携帯。そこにメールのアイコンが付いていた。

『掲示板見ました』

 自分でも忘れていた。そう言えば、ヒーロー募集の投稿をしていたんだっけ。そのタイトルを見て、僕はアイコンをタップする。

『はじめまして!じゅんと言います。投稿を見て興味を持ちました。ヒーローのオレのエネルギーを、一滴残らず搾り取って下さい!!

 じゅん、と言う名前にちょっと戸惑いを覚えた。だがすぐに、そんな名前はどこにでもあると思い、あまり深く考えないことにしていた。

 その後、いろいろやり取りを続けた。

 じゅんは身長が180cmを少し越えており、体格はガッシリとした体型であること、運動が好きなこと、暇さえあれば、体作りをしていることなどが分かった。

「…まさか…、…な…」

 確かに、淳市と似ている部分は多い。けれど、それで過度な期待をしてしまっても、後からガッカリする、なんてことはよくある。ましてや、こちらから淳市君ですか、なんて聞くことは出来ない。それをしてしまったが最後、逆にこちらの弱みを握られることになる。僕がそう言う趣味を持っていること、こっちの世界の人間であることが淳市の口から会社の中の人間に話されたが最後、僕の人生が狂ってしまうことにもなる。

『取り敢えず、一度お会いしてみませんか?』

『いいですよ!!早くやられたいです!!

 さすがに若いだけある。性欲バリバリで、やられる気満々のようだ。

『ヒーロースーツや道具はこちらで用意します。じゅんさんは身一つで来て下さい。場所は…』

 誰にも見られない、あまり人目に付かないところにある小さなホテルを指定する。すると、じゅんは、

『分かりました!!凄くドキドキするなあ!!

 と返信して来る。

『こちらもドキドキしています。何をしてもいいんですね?』

『はい!!痛いことや汚いこと以外で』

『もちろんです。痛いことや汚いことは嫌いなので、そこは安心して下さい』

『分かりました!!よろしくお願いします!!

 これが淳市だったら…。そう思うと、僕の男としての象徴は熱く熱を帯びるのだった。

 

 運命の女神は、イタズラな笑みを僕に投げ掛けた。

 僕の、いや、淳市の運命が大きく変わった日。

『着きました!!何号室ですか?』

 予定時刻よりも少しだけ早く、僕の携帯にメールが届いた。

『○○号室です』

 それだけメールをすると、暫くすると、コンコン、と言う部屋をノックする音が聞こえた。

「…ッッッッッッッッ!!!!!!!!

 部屋の覗き穴から外を窺ったその瞬間、僕はその場に凍り付いていた。

 ドクンッ!!ドクンッ!!

 心臓が大きく高鳴り、喉が一気に渇く。

「…あ…あ…あ…あ…!!

 目は大きく見開かれ、体はかあっと熱を帯びる。そして、小さく震えていた。

 コンコンッ!!

 外にいる人間が部屋の扉をもう一度ノックして来る。

「…まささん?」

 その声にも聞き覚えがあった。いや、あって当然だ。

 僕の名前は正樹と言った。だから、出会い系掲示板には「まさ」と言う名前で出しておいた。そして、部屋の外にいるのは「じゅん」。淳市そのものだった。

「…ククク…!!

 その時には、僕の心にはおぞましいほどの感情がぐるぐると渦巻いていた。僕は部屋の扉を思い切り開いた。その瞬間、

「うおッ!?

 と、扉の向こうの男・淳市は素っ頓狂な声を上げ、目を見開いて派手に後ろへ飛び退いた。

「びっくりしたぁ…!!

 そう言ったのも束の間、僕の姿を認めると、

「…え?」

 と声を上げ、その場に凍り付いたのだった。

 

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