秘密の契約と心の闇 第2話
「…ん…」
忍風館。ハリケンイエロー・尾藤吼太の部屋で、その少年は目を開けた。
「…良かった。…気が付いたみたいだね!」
目を開けるとそこには、吼太が彼を覗き込むように見ていた。
「わあああッッッ!!!!」
その少年が勢い良く起き上がった。その瞬間、鈍い音がし、少年の頭と吼太の顔面が激突する。
「痛てッ!!」
吼太が鼻の頭を押さえ、その少年は頭を押さえた。
「…痛ってぇ…!!…急に起きるなよぉ…!!」
目尻に涙を浮かべ、吼太が少年を睨んだ。
「ごッ、ごめんなさいッ!!」
その少年もどうしていいのか分からず、頭を押さえながら吼太に詫びた。
暫くすると2人は落ち着きを取り戻した。最初に沈黙を破ったのは吼太の方だった。
「そう言えば、名前を聞いていなかったね?」
吼太はそう言い、
「オレは尾藤吼太。疾風流の忍者だ」
と胸を張る。すると、その少年はクリクリしている目を更に大きくさせ、
「あの有名な流派の!?」
と言った。
「…いや、…有名なのかどうかは分かんないけど…」
吼太は照れ臭そうにポリポリと頭を掻いた。
「で、君の名前は?」
吼太が問い掛けると、その少年は、
「…サクヤ…」
と消え入るような声で言った。
「サクヤ君かぁ!」
吼太がニッコリと微笑んで、サクヤの肩を掴んだ。その瞬間、サクヤはビクリとなって体を硬直させた。
「ハハッ!別に何もしないよ!…でも…」
笑って言う吼太。だが、すぐに真顔に戻って、
「どうして、あんなことをしようとしたんだい?」
とサクヤに尋ねた。すると、サクヤの表情が曇り、目には涙が貯まり始めた。
「…サクヤ君も、忍者だよね?」
吼太が問い掛けると、サクヤは小さく頷いた。
「僕らは流れ忍者で…。…今、僕らは消えようとしているんだ…」
「…流れ忍者?…消える?」
正直、吼太はそれらを聞いたことがなかった。
「…僕らは忍者の素性を隠して、静かな山里でひっそりと暮らしていたんだ。…それなのに…」
そう言うと、サクヤの目から涙が一気に溢れ出した。
「…ジャカンジャが襲って来た…?」
吼太がそう言うと、サクヤは大きく頷いた。
「あいつら、僕らに血筋の存続を望むなら、あいつらに従えって言って来たんだ!そして、やつらの首領のタウ・ザントに強大な力を与えるために、この世界に住む人間の生体エネルギーを奪え、それが出来なければ、一人ずつ消して行くって脅して来たんだッ!!」
「…それで、あんなことをしようとしたのか?」
吼太が優しく問い掛ける。すると、サクヤは涙をぽろぽろと流し、
「しかも、それを僕にやらせようとしたんだ!」
と叫んだ。
「…僕は、…この血筋を繋げる跡継ぎなんだ。…だから、僕がやらなきゃ、仲間や家族が消されてしまうんだ!…でも…!!」
そこまで言うと、サクヤの目からは再び涙が溢れ出した。
「でもッ、僕は本当はやりたくなかった!やりたくなかったんだッ!!でもやらなきゃ、みんなが消されちゃうッ!!」
サクヤは、吼太にしがみ付いて泣き出した。
「…うん、…分かってる…」
吼太はそう言うと、サクヤを起き上がらせ、涙を指で拭ってやった。
「…サクヤ君の動きに、躊躇いが見えた。…あぁ、本気じゃないな、って分かったよ。その証拠に、あの弾丸はフルパワーじゃないよね?」
「…吼太さん…。…僕、…どうしよう…!!…どうしたらいいのッ!?」
大声で泣き喚くサクヤ。
「おッ、落ち着けよッ、サクヤ君ッ!!」
吼太が慌ててサクヤを抱き起こそうとする。だが、サクヤは胡坐をかいている吼太の太腿に顔を乗せたまま、泣き止もうとしない。
「サクヤッ!!」
吼太はやや声を荒げ、サクヤを無理矢理抱き起こした。
「…?」
サクヤはしゃくり上げながら吼太を見つめる。すると、吼太は、
「サクヤ君の仲間や家族と、オレ達が力を合わせて戦うんだ!そうすれば、ジャカンジャにだってきっと勝てるさ!」
と言った。すると、サクヤは大きく首を振り、
「…出来ないよ…」
と力なく言った。
「…ダメなんだよッ!!…僕らは逆らえないんだッ!!…僕の家族や仲間の魂が、ジャカンジャに人質として取られてしまっているんだッ!!」
と泣き叫んだ。
「…なん…だって…!?」
吼太が呆然とする。
「やつら、特殊な忍法で、僕の家族と仲間の体から魂を抜き、傀儡化したんだ!!そして、本体である魂は特殊な箱に閉じ込めているんだ!!もし、僕が生体エネルギーを一定の時間までに持って行かなかったら、家族や仲間の魂がそのたびに消されてしまうんだよッ!!」
「…ッ!!」
ブルブルと怒りに震えるしか出来ない吼太。その時だった。
「…そうだ…」
不意にサクヤが声を上げた。
「…サ、…サク…ヤ…?」
吼太が呆然としてサクヤを見ている。嫌な予感が頭を過ぎった。
「…吼太さん…」
サクヤの瞳の奥が不気味に光っていた。
「…吼太さんの生体エネルギーを、…僕に…、…下さい…!!」