秘密の契約と心の闇 第3話

 

「…吼太さんの生体エネルギーを、…僕に…、…下さい…!!

 サクヤがじっと吼太を見つめている。それはまるで、恋する乙女のような表情で、その瞳の奥は不気味にギラギラと輝いていた。

「…え?」

 何となく予想はしていたのだが、こうもストレートに言われると答えに詰まる。

「…僕達忍者の生体エネルギーは、普通の人間の何人分にも充当出来る。それは吼太さんも知っているよね?。しかも、疾風流の忍者って言えば、忍者の中でも最強の流派だよね?」

「…い、いや、…最強かどうかは分からないけど…」

 素直に喜ぶべきなのか、複雑な思いのする吼太。すると、サクヤはニヤリと笑い、

「だからさ!」

 と言ったかと思うと、吼太に近寄り、

「ここから出る吼太さんの生体エネルギーを僕に下さい!」

 と言って、吼太の股間をいきなりキュッと握ったのである。

「んあッ!?

 突然のことに吼太が声を上げ、体をビクンと跳ねらせた。

「うわっ、でっけぇ!!

 サクヤが歓喜の声を上げ、吼太の股間全体を何度か揉み込む。

「あッ!!あッ!!…サ、…サクヤ…ッ!!

 突然の刺激、暫く感じていなかった刺激に思わず悶絶する吼太。

「…や、…止めろよッ!!

 吼太が何とかサクヤの腕を掴み、刺激を止める。

「…んッ!!…んん…ッ!!

 じんじんとした疼きが吼太の股間を襲う。顔が火照る。

 その横ではサクヤが、ニコニコとして吼太を見ていた。

「…な、…何だよ…ッ!?

 自分よりも遥かに年下の男の子に、自分の大事なところを握られ、吼太は困惑していた。心臓がドキドキと早鐘を打っている。

「…吼太さん。吼太さんのここ、普段でも大きいんだね。…ここが、もっと大きくなって、先端が弾けた時、一度に普通の人間の何人分の生体エネルギーが出るのかな…?」

「止めろぉぉぉッッッ!!!!

 突然、吼太が大声を上げて立ち上がった。

「…吼太…さん…?」

 荒い息をして自身を睨み付けている吼太を見て、呆然と呟くサクヤ。

「…そ、…そんなこと…!…出来るわけないだろうッ!?

「どうしてだよッ!?

 今度はサクヤが立ち上がって吼太を思い切り見上げて言った。

「吼太さんは正義のヒーローなんだろッ!?困っている人がいたら、助けなきゃいけないんじゃないの!?それに…」

 少しずつサクヤの目が潤んで行く。その顔に思わずドキッとする吼太。胸がズキンと痛む。

「…吼太さんが助けてくれなきゃ、…僕の家族は、…ジャカンジャに消されちゃうんだよ…?…僕は、…独りぼっちになっちゃう…」

「だからって言って…!」

 吼太もイライラしていた。

「…そんな、ジャカンジャの…、…タウ・ザントを助けるような…!!…そんなこと、出来るわけないだろうッ!?…オレの使命は、…ジャカンジャを倒すことなんだ…!!

「じゃあ、僕はどうなってもいいの!?

 サクヤの小さな体がブルブルと震えている。クリクリとした瞳からは大粒の涙が零れる。

「…僕は、…どうしたら…?」

 力なく項垂れると、サクヤがクルリと踵を返し、吼太を背にした。

「…サ、…サクヤ…?」

 吼太の右手がピクリと動く。だが、それをグッと堪えた。

「…帰ります…」

 サクヤがそう言った瞬間、サクヤの姿が目の前から瞬時に消えた。

 

 その夜――。

「…」

 吼太は眠れずにいた。サクヤの悲壮な表情が脳裏に焼き付いて離れなかったのだ。

(…助けられるのなら、…助けたい…!)

 ハリケンジャーの中でも兄貴格の吼太。手の焼ける弟や妹の面倒を見るように、サクヤのことも気にかけてやれれば…。だが、それはジャカンジャを調子に乗らせるだけだ。それどころか、タウ・ザントの復活を助長することになってしまう。

(…でも…)

 それをやらなければ、今度はサクヤの流派が途絶えてしまう。

(…クソ…ッ!!

 布団の中でブルブルと拳が震える。

(…ジャカンジャめ、…どこまでも汚ねぇ手を使いやがって…!!

 その時だった。

 ドクン!

 突然、心臓がドキンと高鳴り、吼太の目が闇の中でカッと見開かれた。

「…あ…あ…あ…!!

 体が急激に熱くなる。そして、下半身に妙な違和感を感じた。

「…うああ…!!

 吼太の下半身。2本の足の付け根に静かに息づいていた吼太の股間が大きく勃起していたのだ。

「…はぁ…、…はぁ…!!

 昼間、サクヤにそれを握られた時、それまでずっと忘れていたおぞましい感覚を思い出させられていた。

「…く…ッ!!

 その感情を鎮めるのは簡単なことだ。だが、そうはさせまいと、目の前にはサクヤの顔が浮かんでは消える。

(…サク…ヤ…!!

 吼太は居ても立ってもいられなくなり、そっと忍風館を抜け出した。

 

 サクヤが住んでいる隠れ里に着いたのは、空が完全に明るくなってからだった。

「…あれ…?」

 その里の中心部、部族民が集まるような広場に、サクヤがぽつんと立っていた。

(…!?

 その手には何と、小刀が握られていた。思い詰めたような表情のサクヤ。そして、ゆっくりとその刃を首元へ持って行く。

「やッ、止めろぉぉぉッッッ!!!!

 思わず飛び出した吼太。物凄い勢いでサクヤの腕を掴み、小刀を手刀で叩き落とした。

「…吼太…さん…?」

 虚ろな表情だったサクヤの目が見開かれた。次の瞬間、その両目からはボロボロと涙が零れた。

「…分かった…。…もう、…いいから…」

 大きく溜め息を吐き、吼太が言った。

「…オレの、…生体エネルギーを、…お前にやるよ…!」

 

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