秘密の契約と心の闇 第11話
「…あ、…あれ?」
気が付いた時、吼太はサクヤの住む、流れ忍者の里にいた。
「…オレ、…どうして、ここに…」
しぃんと静まり返った里。風だけがひょうひょうと吹き抜ける寂しい山里。その時、吼太はやけに息苦しいのを感じ、目の前の視界がかなり遮られているのに気付いた。
「…うわああああッッッッ!!!!」
その瞬間、思わず大声を上げた。
「…なッ、…何で、オレッ、…シノビチェンジしてんだ…ッ!?」
息苦しいのも、目の前の視界が遮られていたのも、全てはハリケンイエローにシノビチェンジしていたからだ。そして、
「…あ…!!」
と言うと、思わずしゃがみ込んだ。
「…オ、…オレ…!!…確か、忍風館で…!!」
ハリケンイエローのマスクの前部分を思わず解除する吼太。心地良い風が頬を撫でて行く。
「…う、…あぁ…!!」
体を見た瞬間、吼太は呻き声を上げた。
そうだった。
このところ、体の異変を感じていた吼太。精神的に落ち着きがないと言うか、常に何かが心の中を支配していた。毎日のように体が熱く、淫らな考えばかりが思い浮かんでは消えて行く。
その時、自身の男子としての象徴が大きく盛り上がっているのに気付いた。最初はただの欲求不満だと思っていた。そこで、自室で自慰行為に及んだのだが、一向に射精する気配がない。
そんな時だった。
「…サクヤ…様…!」
無意識に呼んだ少年の名前。その名前を呼んだ瞬間、何かが弾けたかのように吼太の中を駆け巡り、体が熱くなり、快感の電流が流れ、大きく射精したのだ。
そんな射精した跡、つまり、吼太の精液がハリケンイエローの光沢のある黄色のスーツの上に飛び散り、あるものはスーツの光沢を失わせ、あるものはその形をクッキリと残したまま、こびり付き、乾燥していたのであった。
「…オレは、…オレは…!!」
額に脂汗を滲ませ、体をブルブルと震わせる。
「…オレは一体、…どうしちまったって言うんだ…!?」
その時だった。
「あれ?吼太さん?」
やや高めの声が聞こえ、吼太はぎょっとなってその方向を振り向いた。
「そんなところでどうしたの、吼太さん?」
サクヤが笑顔で吼太に近付こうとしたその時だった。
「くッ、…来るなぁッ!!」
吼太が叫んでいた。
「…え?」
「…こ、…来ないで…くれ…ッ!!」
顔を真っ赤にして、泣きそうな表情で言う吼太。
「…ど、…どうしたんだよ、…吼太さぁん…?」
心配そうな表情で言うサクヤ。だが吼太は、
「…オレは、…オレは…!!」
と言い、蹲ったまま動こうとしない。
「…体調でも悪いの?」
ジャリ、と言うサクヤの靴と地面が擦れ合う音がする。
「だッ、だからッ、来ないでくれええええッッッッ!!!!」
吼太はサクヤを見ようともせず、叫んでいるだけだ。
「そんなこと言われたって…。…理由も分からないのに、来るなって言われても分かんないよ…」
そう言いながらサクヤが吼太に近付いて来る。
「…あ…、…あぁ…!!」
吼太は呻き声を上げ続けるだけで、動こうとしない。
「吼太さん」
サクヤの手が吼太の肩に触れた。その瞬間、
「ッあッ!!」
と言う声を上げ、吼太がビクリとなった。
「…吼太さん。…立ってよ…」
サクヤがそう言ったその時だった。
ドクンッ!!
吼太の心臓が大きく高鳴った。
するとどうだろう。
「…は…い…」
吼太がそう言ったかと思うと、静かに立ち上がったのだ。
「こ、吼太さんッ!?」
今度はサクヤが驚く番だった。
サクヤの目の前で、サクヤを見つめて立っている吼太。
「…こッ、…これ…ッ!?」
当然、サクヤの視線は、吼太のハリケンイエローのシノビスーツに付いていた吼太が射精した精液に行っていた。
「…ついさっき、…独りでした、…跡だ…」
顔を赤らめて言う吼太。だが、その目は光を失っているかのようにも見えた。
「ちょッ、ちょっと待っててッ!!」
サクヤは俄かに頬を赤らめると急いで家の中に戻り、小さな小瓶を持ってやって来た。
「これ、もらってもいい?」
サクヤが言うと、吼太は、
「…好きに、…しろよ…」
と言った。
「…あ…」
その時、不意にサクヤの顔が曇った。
「…サクヤ…?」
不審に思った吼太がサクヤに問い掛ける。
「…ダメ…だよね…?」
寂しげに笑うサクヤ。
「…僕は、…吼太さんと約束したんだ。…吼太さんの精液をもらうのは、あの時の1回だけだって…!」
その時、サクヤは吼太に抱き締められていた。
「…こ、…吼太…さん…?」
吼太の体の温もりと、汗の臭い、そして、その中に入り混じる独特の臭いがサクヤの鼻を掠める。
「…サクヤ…様…」
「…え?」
サクヤが驚いて吼太を見上げる。
「…オレを、…もっと甚振って…、…オレの精液を、…搾り取ってくれ…!!」
そう言った吼太の目はやはり輝きを失い、どす黒い欲望の闇が渦巻いていた。