ちぎれた翼 第3話
「…てんめぇ…ッ!!」
トランのサイコキネシスによって愛車であるバイクを操られ、そのハンドルを掴んだがために振り回され、しまいには地面にしたたかに体を打ち付けた結城凱。普段からお洒落に人一倍、気を遣う凱の茶色のジャケットと黒のジーンズは砂埃にまみれ、茶色く変色し、らしさのかけらもなかった。更に、ワックスで固めた髪の毛にも砂埃が舞い散っていた。
「どうしたの?早く遊ぼうよ!」
トランがニコニコと凱を見ている。
「…く…ッ!!」
握り締めた拳がブルブルと震える。黒の革手袋がギリギリと音を立てた。25歳の自分と、人間換算で9歳のトラン。年齢差がありすぎるどころか、普段から一匹狼の凱にとって、どうやって遊べと言うのだろうか。
その時だった。
トランがふぅと溜め息を吐いたかと思うと、
「遊んでくれないなら、こっちから行くよ?」
と言い、腕に装着しているキーパッド・メタルトランサーに触れた。ピッ、と言う高い音が聞こえた瞬間、凱の体がまるで見えない何かに引っ張られるかのように、背後へグンと引っ張られたのである。
「うおおおおッ!?」
ふわりと宙に浮き、そのままの格好で後ろへ引っ張られる凱。
「てッ、てめえッ!!な、何しやがるッ!?」
凱はそう叫びながら背後を振り返った。
「…なッ、何ぃッ!?」
凱の背後には大きなコンクリート製のトンネルのような物体が。
ドガッ!
と言う鈍い音がしたかと思うと、
「うわあああッッッ!!!!」
と言う凱の悲鳴が響き渡った。凱の体がそのコンクリートの塊に激しく打ち付けられ、その反動で大きくエビゾリのようにブリッジをしたのである。
「アハハハッ!!もう1回!!」
トランが嬉しそうに言い、再びキーパッド・メタルトランサーに手をかけた。ピッ、と言う高い音が再び聞こえた瞬間、崩れ落ちようとしていた凱の体が今度は前方へ向かって物凄い勢いで動き始めたのである。
「おわああああッッッッ!!!!」
超高速で体が移動する。そして、瞬く間にトランの目の前までやって来た。
「てめえええッッッ!!!!止めろっつってんだろうがッ、くそガキィィィッッッ!!!!」
凱が怒鳴りながらトランを憎々しげに睨み付けた。すると、トランはムッとした表情になり、
「ボクをいつまでも子供扱いするなよな!!」
と言い、三度、キーパッド・メタルトランサーに触れた。
その途端、トランの目の前まで迫っていた凱の体がぐいんと上空へ舞い上がり、そのまま上空で静止した。
「…んなッ!?」
これにはさすがの凱も焦ったようで、
「…おッ、…おいッ!!…おッ、下ろせよッ!!」
と上空でバタバタと足を動かした。
「アハハハ!!いい光景だねぇ!」
トランがケラケラと笑い、腕組みをしながら凱を見上げている。
「アハハ、じゃねぇッ!!下ろせっつってんだろうがぁッ!!」
顔を真っ赤にして怒鳴る凱。完全に冷静さを失ってしまっている。
それはそうだろう。
凱が嫌いなもの、男と納豆。そして、子供。自分が大嫌いなもののうち、2つに当てはまるトランにからかわれ、凱の我慢は限界を超えていた。
「う〜ん、どうしよっかなぁ…?」
トランは両手を前に差し出すと、両手の親指と人差し指をL字型にして合わせ、目の前で四角形を作った。まるで、デッサンを描くために構図を作り上げようとする画家のように。
「このまま君を、ゲームの的にしてもいいんだけどな…」
「ふっざけんなぁッ!!早く下ろせっつってんだよぉッ!!」
上空から凱の声が響く。
「じゃあ、ボクと遊んでくれるぅ?」
トランの勝ち誇った声。
「…ああ…」
凱が声を上げた。
「え?」
これにはトランも少し驚いたようで、思わず聞き返した。
「遊んでやるっつってんだよ!!」
トランを見下ろす凱。その目は憎悪に満ちていた。
「だからさっさと下ろせよッ、トランッ!!」
「わあい!!」
トランがはしゃぎ声を上げ、キーパッド・メタルトランサーにまたもや触れた。ピッ、と言う音が鳴った瞬間、
「ううッ!?うわああああッッッッ!!!!」
と言う凱の悲鳴が辺り一帯に響き渡った。凱の体が物凄い勢いで地面に向かって落ちて来ていたのだ。
トランがキーパッド・メタルトランサーを操作した瞬間、それまで上空で拘束されていた凱の体が不意に自由が利くようになった。そして、バランスを失った凱の体は、地球の引力に引かれるように地面に向かって一直線に落下を始めたのだ。
「アハハハハハハッッッッッッ!!!!!!いいよいいよ!!そのまま落ちちゃえぇぇぇッッッ!!!!」
トランは大声で笑い転げている。
「クロスチェンジャーッ!!!!」
その時、凱が大声で叫んだ。次の瞬間、凱の体は光の玉となり、トランに物凄い勢いでぶつかった。
「うわあああッッッ!!!!」
これにはトランも抵抗出来なかったようで、そのまま物凄い勢いで吹き飛ばされた。
「…く…ッ!!」
トランが体を起こす。すると光の玉はトランから少し離れたところで姿を現した。
それはトランに背を向けて静かに立っていた。肩から背中にかけて、鳥のようなデザインが施され、背中は黒一色。尻の部分までが黒一色で、そこから下は白。その間には黄色のラインが入っていた。
すると、それはゆっくりとトランの方を向いた。黒と白、黄色を基調とし、鳥をあしらったエンブレムと胸のVラインが入った上半身。白を基調とし、競泳水着のような形をした黒いパンツに黄色のラインが縁取られている下半身。それは全てきらきらと輝き、それを着こなしている人間の腕や足、胸などの筋肉を隆々と浮かび上がらせていた。そして、頭部には黒を基調とし、額の部分にはコンドルを模したデザインが施されたマスクが。
「…遊びは、ここまでだぜ、トラン…!!」
結城凱。ブラックコンドルにクロスチェンジした姿。頭部のコンドルの瞳が、鋭くトランを睨み付けていた。