ちぎれた翼 第4話

 

「…遊びは、ここまでだぜ、トラン…!!

 肩幅程度に足を開き、静かに立つ凱。ブラックコンドルに変身し、その鋭い視線をあしらったマスク越しにトランを見つめている。

「…ッ!?

 その姿は、先ほどまでの怒りに任せて怒鳴り続けていた凱とは異なっていた。それにはトランでさえも気付いていたのである。

「…遊んでやると言ったが、ただの遊びじゃねぇ!」

 そう言うと凱は、グッと腰を落とし、スタートダッシュの姿勢を取った。

「…お前を、…倒すッ!!

 次の瞬間、凱の姿がその場から消えた。

!?

 これにはトランも驚いたようで、キョロキョロと周りを見渡し始めた。と同時に、目の前に光の玉が見えた。そして、

 バアアアンッッッ!!!!

 と言う衝撃音と共に、

「ぎゃああああッッッッ!!!!

 と言う甲高い悲鳴を上げてトランが吹っ飛んだのである。

「あううううッッッッ!!!!

 衝撃音が聞こえた瞬間、トランが後方へ吹き飛び、ゴロゴロと地面を転がった。

「…クッ…!!

 普段、自身の顔を覆い隠しているゴーグルがその衝撃で外れ、あどけない少年の顔が現れている。と再び、あの光の玉が近付き、

 バアアアンッッッ!!!!

 と衝撃音が聞こえたかと思うと、

「ひぎゃああああッッッッ!!!!

 と言う悲鳴を上げてトランが宙を舞い始めた。

「おッ、下ろせよッ!!…下ろせええええッッッッ!!!!

 足をぶらぶらさせてトランが叫ぶ。トランは今、猫の首を掴むような格好で光の玉に持ち上げられ、宙を舞っていたのだ。と次の瞬間、

「ああああッッッッ!!!!

 と言う悲鳴を上げて、トランが真っ逆様に地面に激突した。その時、光の玉はスゥッと優雅な弧を描き、トランの遥か前方で姿を現した。

「…」

 光の玉はブラックコンドルに姿を変え、優雅な着地を決めたかと思うと、再び、トランをじっと見つめている。

「…これで最後だ…!!

 そう言うと凱は腰にぶら下げているブリンガーソードに手をかけた。パチンとロックの外れる音がして、そこから銀色に光り輝く刀身が姿を現した。それを静かに構える凱。

「…行くぜッ!!

 そう言うと、凱はトランへ向かって勢い良く走り始めた。そして、大きく上空へジャンプすると、

「食らえッ!!コンドルフィニィィッシュッ!!!!

 と叫び、ブリンガーソードを大きく振り被った。と、その時だった。不意にトランの口元が歪んだのを、凱は見逃さなかった。と同時に、ブリンガーソードが自身の両手からすっぽりと抜けたのである。

「…なッ、何ッ!?

 地面に着地した凱が驚いて上空を見上げる。ブリンガーソードは上空で銀色の刀身をキラキラと輝かせている。

「…ま、…まさ…か…!?

 凱の顔から血の気が引いて行く。

「…フ、…フフフ…!!

 トランの顔を見た瞬間、凱はとっさに身構えた。

 トランの笑み。あどけない幼子のトランだが、その笑みは単に悪戯っぽい笑みではなく、明らかに憎悪に満ちた、子供とは思えない笑みを浮かべていたのである。

 するとトランは、キーパッド・メタルトランサーに手を掛けた。

「…ブラックコンドル…!…ボクを怒らせた罰を受けてもらうよ…!!

 その時だった。

 上空で冷たい光を放っていたブリンガーソードが、まるで意思を持ったかのように動き始め、凱の周りを目にも留まらぬ速さで動き始めたのである。

「うおッ!?おごッ!!ああッ!!

 その剣先は凱のブラックコンドルのバードニックスーツを容赦なく切り付ける。

 パァン、パァンと威勢の良い音を立てて、バードニックスーツから閃光が上がる。

「うわああああッッッッ!!!!

 いくらバードニックスーツで身を守られているからとは言え、体中のあちこちを切り刻まれるような痛みが凱を襲う。そして、ブリンガーソードが真っ直ぐに自身に向かって突っ込んで来た瞬間、

 バアアアアンッッッッ!!!!

 と言う最大級の衝撃音がして、凱のスーツから派手な火花が飛び散った。

「うぅわああああッッッッ!!!!

 凱が悲鳴を上げ、後方へひっくり返り、腰をグンと突き上げ、ドサッと言う音を立てて地面に倒れた。そして、凱を切り付けていたブリンガーソードは、凱の足元で地面に突き刺さった。

「アハハハハ…ッ!!

 その時、甲高いトランの笑い声が、凱の耳を劈いた。

「…トッ、…トラン…ッ!!

 凱の足元でニコニコと笑っているトラン。その顔には大きなゴーグルが戻っていた。

「あのさ〜、ボクがそんなに簡単にやられるとでも思ってた?」

 トコトコと凱のもとへ歩み寄ると、凱の腹部を思い切り蹴り上げた。

「ぐふッ!!

 凱が呻いたと同時に、体が後方へ吹き飛んだ。そして、ズザザッ、と言う音と共に、地面に転がった。

「…バ、…バカな…ッ!?

 子供の力で蹴り上げられただけなのに、こんなに吹き飛ぶなんて…。

「あ〜、今、またボクのことを子供扱いしただろう?」

 トコトコと同じように凱のもとへやって来るトラン。するとトランは、今度は凱を仰向けにした。

「…な、…何しやがる…!?

 さっきまでの物静かな凱はどこへやら、威勢のいい言葉を放つ凱。するとトランは、ぴょんとジャンプしたかと思うと、勢い任せに凱の腹の上へ座り込んだのである。

 ドゴォッ!!

 と言う鈍い音が聞こえ、

「おごッ!?

 と凱が、カエルの潰れたような声を上げた。その反動で、凱の両足が大きく持ち上がり、凱の体がV字を描いた。

「ボクは君に吹き飛ばされながら、君の持っている武器にちょっと細工を施したのさ。君はボクに勝ったつもりでいたんだろうけど、実際に遊ばれていたのは君だった、ってワケだよ!!

「…くッ…!!

 その時、凱は自身の体が物凄く重いことに気付いた。いや、重いだけではない。何故か息苦しい。子供のようなトランを腹の上に乗せているとは言え、それだけでこんなに息苦しいとは思えない。

「…こ、…これもてめぇの仕業か…ッ!?

「当ったりィッ!!

 ニコニコとしながらも、瞳の奥はギラギラと不気味に輝いているトラン。

「…さぁ、…たぁっぷりと遊んであげるよ…!!

 

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