ちぎれた翼 第5話

 

 ブラックコンドルにクロスチェンジした結城凱。

 むしゃくしゃする気分を晴らすために、ひたすらバイクを走らせていた。そこへ、次元戦団バイラムの幹部の一人・トランが現れた。

「ねぇ、遊ぼうよ!!

 少年のあどけない笑み。だがその瞳の奥には、自分より弱い存在の人間を甚振ろうとする邪悪な欲望が見え隠れしていた。そして、トランは腕に付けているキーパッド・メタルトランサーを使い、凱のバイクだけではなく、凱にもイタズラを仕掛けて来た。

 それに怒った凱はブラックコンドルへクロスチェンジする。そして、トランを叩き斬ろうとしたその瞬間、自身が構えていたブリンガーソードがするりと凱の手を抜け、まるで意思を持ったかのように自身に襲い掛かって来たのである。そして、バードニックスーツを切り裂き、そこから火花を飛び散らせた。その目にも留まらぬ驚くべき速さに、凱は次第に追い詰められ、とうとう地面に倒れ込んだのである。

 全てはトランの仕業だった。腕に装着しているキーパッド・メタルトランサーでありとあらゆるものを自由に操る。凱の持っていたブリンガーソードとて同じことだった。

 そして今、トランは、地面に倒れ込んだ凱の腹の上にドスンと座り込んでいた。

「…さぁ、…たぁっぷりと遊んであげるよ…!!

 トランの目を見た瞬間、凱は思わず息を飲み込んだ。

(…こ、…こいつ…!?

 バイザー越しに隠れてはいるものの、明らかに悪意と憎悪に満ちた瞳をしているのが容易に窺えた。

「…どッ、…退け…ッ!!

 腹の上に子供を乗せているだけなのに、それ以上に息苦しさを感じる。と同時に、ゴゴゴ、と言う地鳴りを聞いたような気がした。

「フフフッ!!

 不意にトランの口元が歪み、トランが笑い声を上げた。

「遊ぶって言っても、ただの遊びじゃない。お前をボロボロにするのさ!見るも無残な姿にねッ!!

 とその時だった。

 ボゴォッ、と言う鈍い音が聞こえ、凱の周りで砂利が浮かび上がったのである。と同時に、自分の周りの砂利が隆起したように思えた。

「…あ…、…が…!!

 大の字に倒れ込み、息苦しさの中、凱が辛うじて声を上げる。

「…が…、…あああ…!!

 メリメリと体中の骨が軋む音が聞こえる。まるで、とてつもなく重いものが、上からぐいぐいと伸し掛かって来るような、そんな感覚だ。

「…や、…止めろ…!!

 トランを退けようと、体を動かしたくても、指一本たりとも動かせない。

「クククク…!!

 トランがほくそ笑む。その間にも、目に見えない何かが凱を押し潰さん勢いで伸し掛かって来る。

「…止めろ…ッ!!…止めろおおおおッッッッ!!!!

 本当に骨が粉々に砕け、内臓が潰れる、いや、それどころか、トランに殺される。意地とプライドだけで生きて来た凱に、恐怖と死と言う感覚が襲って来た。

「うがああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!

 凱が死を覚悟した、その時だった。

「…あ、そうだ!!

 と不意にトランが自身の体からぴょんと飛び降りたのである。

「…え?」

 凱が声を上げるのも無理はない。あれだけ憎悪の眼差しを自身に向けていたトランが、まるで自身に興味がなくなったかのように、ぴょんと飛び降りたのだから。

「…あ、…お…?」

 だが、凱の体はピクリとも動かせない。今までよりはいくらか軽くなったものの、体を動かせない程度の重力はかけられているようだ。

「…トッ、…トランッ!!…てめえッ!!

 何とか顔だけを起こし、怒鳴り付ける。

「アハハハハ!!

 凱の足元では、トランが勝ち誇ったような笑い声を上げている。

「どう?怖かった?」

 その言葉に、怒りが込み上げて来る。

「…だッ、…誰がッ!!

「本当?そのわりには声が震っていたように思うけどぉ?」

 トコトコと歩きながら、自身の枕元へやって来てぺたんと座り込むトラン。

「…てんめえええッッッ!!!!

 何とかして起き上がろうと懸命にもがく。だが、体はピクリとも動かない。

「…がぁッ、…くそぉッ!!…さっさと、…この拘束を解きやがれええええッッッッ!!!!

 辛うじて動く頭だけをブンブンと振り回し、凱が大声を上げる。だが、トランは、

「ダメだよ。逃がしたら遊べなくなっちゃうだろ?」

 と言い、凱の体をなめ回すように見始めたのである。

「…な、…何だよ…!?

 凱の体に悪寒が走る。

「うん!これを使おうっと!!

 トランの体が動き、凱の腰へ手を伸ばす。

「…ま、…まさか…ッ!?

 マスクの中で、凱の顔が真っ青になる。

「…お、…重い…けど…、いいねぇ、これ!!

 トランは、バードブラスターを手にしていたのである。

「…お、…おい!!…じょ、…冗談だろッ!?

 凱の声をよそに、トランがよろよろと立ち上がり、フラフラと凱の足元へ移動し始めたのである。

「…や、…止めろよ…!!…な…!?

 マスクの中で、凱の笑顔が引き攣る。

「止めなぁい!」

 そう言うとトランは、バードブラスターの照準を凱に合わせた。

「…止めろ…!!…止めろオオオオッッッッ!!!!

 凱は叫ぶ以外に為す術がない。

「…重たいから…、…変なところに当たったら、…ごめんね…!!

 トランがそう言った瞬間、バードブラスターの銃口が眩しく光った。

 バアアアアンンンンッッッッ!!!!

 爆発音と共に、激痛が凱を襲う。

「…あ…あぁ…!!

 意識が遠退きそうになる。だが、そうはさせまいと痛みが凱を襲う。

「…あああ…、…うぅわああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!

 凱の絶叫が、辺り一面に響き渡った。

 

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