ちぎれた翼 第6話
「ぐぅわああああああッッッッッッ!!!!!!」
激しい痛みがブラックコンドル・結城凱の胸を襲う。
「…あ…あ…あ…!!」
意識がぼぉっとなり、ブラックアウトしそうになる。
トランの策略に振り回され、重力で体の動きを封じられ、地面に大の字になっている。そして、そんな凱からバードブラスターを奪ったトランが照準を凱に構えた。いや、構えたと言う言い方は正しくないだろう。バードニックスーツを着た凱達ジェットマンなら、バードブラスターを構え、狙いを定めて撃つのは簡単なことだ。しかし、普通の人間やトランのような子供に持たせるのは、撃たれたものの命が保証出来ない。つまり、バードブラスターはそれほどまでに重量があり、ジェットマンだからこそ操れる代物だったのである。実際に、トランはよろめきながら、それを構え、引き金を引いたのだ。
「…命中!」
バイザーを上げ、嬉しそうな顔を見せるトラン。
「…ば、…ば、…馬鹿野郎ッ!!…なんて、…こと、…しやがるんでえ…ッ!!」
動けない体ながらも、頭だけを起こし、トランに怒鳴り付ける凱。
「…い、…一歩間違ったら、…危ねぇだろうがあああッッッ!!!!」
鋭いコンドルの眼差しが、トランを睨み付けている。だが、そのマスクの奥に隠された凱の素顔は、目に涙が浮かび、小さく震えていた。
「だってぇ、この銃、重いんだもん…!」
トランがぷぅっと顔を膨らませて言う。すると凱は、
「それはオレ達ジェットマンだけが扱えるものなんだ!お前が使えるような代物じゃねぇんだよッ!!」
と怒鳴った。しかし、トランは、
「う〜ん…」
と唸り、大きく首を捻っている。
「…な、…何だよ…!?」
凱が声を上げると、トランはちらりと凱を見やり、
「いやね、この銃なんだけどさ、どうやったら簡単に操作出来るかなぁって思ってさ」
と言った。
「だぁかぁらぁ!!」
トランはバカか、と凱は思った。
「オレ達ジェットマンしか使えねぇんだよ、その銃はよォッ!!分かったら、さっさとこの重力を解いて、それを返しやがれッ!!」
やっぱり今日はついていない。カジノで大金を使い、むしゃくしゃしてバイクを走らせていたらトランに出会い、更にイライラさせられている。こんなところはさっさと抜け出したかった。
「やだいッ!!ボクだってこれで遊びたいんだいッ!!」
小さな子供のように、地団駄を踏むトラン。凱はやれやれと大きく溜め息を吐くと、
「…お前の超能力なら、何とかなるかもしれねぇけどな…!」
そう言ってハッとなった。しまった、と思った時には既に遅かった。
トランが。それまで泣きそうな表情をしていたトランが不気味な笑みを浮かべ、そのギラギラと光る目を、凱に向かって投げかけていたのである。
「…やっぱり、キミはバカだね!ボクの誘導尋問に引っかかるなんて…!」
そう言うとトランは、バードブラスターを放り投げた。ガラン、と言う音がして、それが地面を転がる。
「…や、…や…め…ろ…!!」
ブラックコンドルのマスクの中で、凱の額に冷や汗が浮かぶ。重力で身動きが取れなくなっている凱。そして、目の前にはバードブラスターを構えようとするトラン。射撃の的になっていると言わんばかりの状態で、まさに絶体絶命とはこのことだと、凱は思った。
「…止めろ…!!…止めろオオオオッッッッ!!!!」
凱が大声を上げる。
「フフッ!」
トランは笑うと、腕に装着しているキーパッド・メタルトランサーに手をかけた。
ピッ!!
甲高い音が響いたかと思うと、地面を転がっていたバードブラスターがふわふわと浮かび上がる。そしてそれは、トランの目の前で、銃口を凱に向けて静止したのである。
「覚悟はいいかい、ブラックコンドルぅ?」
トランはそう言うと、バードブラスターの引き金に手をかけた。
「止めろオオオオッッッッ!!!!止めてくれええええッッッッ!!!!」
その時、バードブラスターの銃口が眩しく光った。そして次の瞬間、
バアアアアアンンンンンッッッッッ!!!!!!
と言う音と共に、凱の腹部辺りが爆発した。そして、
「ぐぅわああああッッッッ!!!!」
と言う凱の絶叫が響き渡った。
「アハハハハ!!!!もっとッ!!もっとだよッ!!」
トランが何度も何度も、バードブラスターの引き金を引く。そのたびに、銃口から眩しい光の弾丸が飛び出し、
バアアアアアンンンンンッッッッッ!!!!!!
と言う爆発音と同時に、
「がああああッッッッ!!!!」
「ぐぅわああああッッッッ!!!!」
「ひがああああッッッッ!!!!」
と言う凱の絶叫が響き渡る。
二の腕、胸、腹部、太腿、脛など、あらゆるところに弾丸がぶち当たり、バードニックスーツが爆発を起こす。そのたびに、凱の体には激痛が走り、ビクンビクンと体を跳ねらせた。
「アハハハハ!!!!」
トランがお腹を押さえて大笑いする。
「すっげぇ!!陸揚げされたお魚さんみたいだぁ!!」
そう言いながらもトランは、バードブラスターの引き金を引き続ける。バアアアン、バアアアンと言う爆発がひっきりなしに起こり、凱が寝転んでいる辺りにもくもくと砂煙が立つ。
「…もう…ッ、…止めてくれえええええッッッッッ!!!!!!」
凱が絶叫したその時だった。
パシイイイイインンンンンッッッッッ!!!!
さっきよりも軽快な音が辺りに響いた。と同時に、凱の体、特に下半身が最大限に跳ね上がったのである。
「…あ…あ…あ…!!」
凱の体がブルブルと震える。それだけではない。激痛は激痛でも、独特の痛みを伴う、形容し難い痛みが、じわじわと凱を襲っていた。そして次の瞬間、
「うぎゃああああああッッッッッッ!!!!!!!!」
と凱の絶叫が更に大きくなった。
「痛ってええええええッッッッッッ!!!!!!ぐわああああああッッッッッッ!!!!!!」
トランが放ったバードブラスターの光の弾丸が、大きく開かれている凱の股間に命中したのだ。
「ああああッッッッ!!!!ああああッッッッ!!!!はぐううううッッッッ!!!!」
じわじわと沸き上がって来る独特の痛みを押さえたくても、指一本動かすことが出来ない。
「おやおや!」
その動きに気付いたトランが素っ頓狂な声を上げた。
「これは大変なことをしちゃったみたいだねぇ!!」