ちぎれた翼 第7話

 

「ぐぅわああああああああああッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!

 どれくらい叫んだだろう。顔を真っ赤にして、喉が嗄れるくらい叫んでも一向に痛みは収まらない。

「ああああッッッッ!!!!ああああッッッッ!!!!はぐううううッッッッ!!!!

 体を動かしたくても動かせない。痛みを伴っている場所を押さえたくても、それも出来やしない。ただ自身に出来ることは、ずっと叫ぶことくらいだ。苛立ちと怒りが、ブラックコンドル・結城凱を支配しようとしていた。

「これは大変なことをしちゃったみたいだねぇ!!

 そもそもの元凶・トランが面白そうにケタケタと笑いながら言う。

「…トッ、…ト…ラ…ン…!!…てん…めぇ…ッ!!

 辛うじて動かせる頭を足元の方へやり、目の前で満足げに立っているトランを睨み付けた。

 トランが奪ったバードブラスターの弾丸が、男性の最大の弱点である急所にぶち当たり、絶叫を上げた凱。バードニックスーツを着ているとは言え、その部分はさほど強化されてはいない。バイラムとの戦闘でさえ、そんなところを狙う者はいないからだ。

 だが、トランは違った。あからさまに凱の急所を狙っていた。バードブラスターを自力では持てないと分かったトランは、キーパッド・メタルトランサーでそれを操り、重力で身動きの取れない凱を標的に、何発もそれを放った。そのうちの1発が、凱の急所を捉えたのである。

「…おやおや?」

 トランが凱を覗き込む。

「…ねぇ、ブラックコンドルぅ。…泣いてるの?」

 鋭いコンドルの視線をあしらった黒のマスクの中を覗き込むと、トランがそう言った。

「んなッ!?

 確かに目尻に涙が浮かんでいたのは言うまでもない。だが凱はギュッと目を閉じ、

「…ばッ、…バカ野郎ッ!!…誰が泣くかッ!!

 と威勢よく怒鳴った。するとトランは、ふぅん、と言う顔をして、

「あっそ。じゃあ、もう1発だね!」

 と言い、バードブラスターを浮かばせている場所へトコトコと歩き始めたのである。

「んなッ!?ちょッ、ちょっと待てッ!!おいッ!!

 慌てて顔を起こす凱。だが既にその時、バードブラスターの銃口が光を放っていた。

 バシィィィィィンンンンンッッッッッ!!!!!!

 爆発音がしたと同時に、

「うわあああッッッ!!!!

 と凱が叫び声を上げ、体を高く跳ねらせた。凱の股間部分で爆発が起き、次の瞬間、あの鈍い痛みが再び凱を襲い始めたのだ。

「…あ…あ…が…ッ!!!!

 体がブルブルと震える。声を出すまいと必死に歯を食い縛る。と、その時。

 バシィィィィィンンンンンッッッッッ!!!!!!

 ともう1発、凱の股間部分が爆発した。その瞬間、凱の体が再び高く跳ね上がった。

「…う…う…うぅ…ッ、…うぅぅぅぅわあああああああああああああああッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!

 とうとう、凱が絶叫を上げた。

「ああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!ああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!うおおおおおおおおッッッッッッッッ!!!!!!!!

 股間を押さえたい。だが、トランの重力が動きを封じてしまっている。

「ああああああああああああああああああああッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!

 マスクの中が暑い。目からは涙が伝っている。

「フフフッ!!どうだい、大事なところを狙い撃ちされた気分は?」

 トランが勝ち誇った顔で凱を見下ろしている。

「…あ…あ…あ…!!

 何かを言いたそうに、凱が声を上げる。だが、体がブルブルと震えているだけで、声が出ない。

「何だよぉ、ブラックコンドルぅ!ボクと遊んでくれるだろう?」

 そう言うとトランは、凱の足元へ行き、じっと凱を見下ろした。

「…や、…やめ…ろ…!!

 声が震える。

「…ん〜…」

 トランが考え事を始める。

「…も、…もう、…十分、…だろ?」

 これ以上、股間を攻撃されるのはたまったものではない。自分にとって、命の次に大切な場所なのだから。だが、トランの口からは信じられない言葉が漏れた。

「もっとやっていい?」

 ニヤリと口元が歪むトラン。

「…い、…いい加減にしやがれええええッッッッ!!!!

 我慢の限界。凱は、心に溜め込んでいた感情を一気に爆発させた。

「…んな…、…んな卑怯な手ェ使わねぇで、正々堂々と勝負したらどうなんだッ、このクソガキィィィッッッ!!!!

「…何だと…?」

 どのくらい沈黙があっただろう。じっと凱の怒鳴り声を聞いていたトランが、しゅんとなったように俯いたかと思った途端、ブルブルと体を震わせ始め、そう言ったのだ。

「…ッ!?

 凱は思わず息を飲み込んだ。

 青白かったトランの顔が俄かに紅潮し始める。そして、ギリギリと言う音が聞こえそうなほど歯軋りを始めたかと思うと、

「許さんッ!!このボクを侮辱するのは、絶対に許さんッ!!

 と叫び、凱の両足の間へ立った。そして、右足を大きく振り上げたかと思うと、目の前にある2つのボール、凱の股間目掛けて一気に振り下ろしたのである。

 ドゴオオオッッッ!!!!

 鈍い音が聞こえた。

「んぐ…ッ!!

 ブラックコンドルの体が弓なりになる。つま先から脳天にかけて、衝撃波が走る。

「…あ…あ…あ…!!

 再び凱の体がブルブルと震え始め、

「…ぁぁぁぁああああああああああッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!

 と絶叫し始めたのである。

「くそオオオオッッッッ!!!!くそオオオオッッッッ!!!!

 トランが叫び声を上げ、そのたびに右足を振り上げ、凱の股間に向かって一直線に振り下ろす。

 ドゴオオオオッッッッ!!!!ドガアアアアッッッッ!!!!

 凱の股間にトランの足がめり込み、盛り上がった睾丸の形がくっきりと浮かび上がる。

「ぐわああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!

「うぐおおおおおおおおッッッッッッッッ!!!!!!!!

「ひがああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!

 凱が絶叫を繰り返し、最後には声が掠れて聞き取れなくなっているほどだった。

「…はぁ…、…はぁ…!!

 どのくらいの時が経っただろう。トランがようやく足を振り上げるのを止めた。

「…く…、…ぐ…お…!!

 いつの間にか、凱を押さえ付けていた重力が消えていた。

 ゆっくりと腕を動かしてみる。そして、股間に手を伸ばしてみた。

 物凄い痛みが凱を襲っている。だが、2つの睾丸は形を残していた。そして、その上にある凱のペニスも。

 と、その時だった。

「あ、あれあれぇ!?

 不意に甲高い声が、凱を現実に戻した。

「…ト、…トラ…ン…!?

 さっきまでの怒りはどこかへ消え去ったのか、トランがニヤニヤしながら立っていた。

「ブラックコンドルぅ!!君のオチンチン、大きくなっちゃったね!!

 

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