ちぎれた翼 第9話

 

「うわあああああッッッッッ!!!!!!

 物凄い勢いで目の前の光景が変わって行き、気が付いた時には真っ暗な空間へ落ちて来ていた。

「ふんッ!!

 それでも華麗に着地を決めると、スタッと言う足音が辺りに響き渡った。

「…ここは、…どこだ…?」

 黒と白であしらわれたバードニックスーツ。光沢のある白い部分がキラキラと反射し、それを着ているものの肉付きを際立たせる。そして、コンドルをあしらったマスクの瞳がグルリと周りを見回す。

 真っ黒な空間、ところどころに光を放つ球体のものがあり、それ以外は何もない。足元には真っ白なガスが蠢いている。ゴウウウン、ゴウウウンと言う低い地鳴りのような音も聞こえている。

 ブラックコンドル・結城凱。凱は今、戻れない地獄の入口に立っていた。

「…トランはッ!?

 ふと、何かを思い出したかのように声を上げ、辺りを警戒するかのように素早く首を動かし、周りを見回した。

「あんの野郎、どこへ行きやがったッ!?

 握った右拳が、ギリギリと音を立てる。と突然、

「…ッ!?

 と小さく呻いたかと思うと、凱はその場へ急に蹲った。

「…い、…痛ってぇ…!!

 凱の右手は、自身の股間を押さえている。

「…ありえねぇだろ、…あれは…!!

 そして、ぶつぶつと独り言のように呟いた。

 次元戦団バイラムの幹部の一人、トランによってまるでおもちゃのように軽くあしらわれた凱。少年のような見てくれからは全く想像出来ないほど、狡猾な手を使い、凱を追い込んだ。そして、身動きが取れなくなった凱の一番のプライドとも呼べるべき男子としての象徴であるペニスとその下に息づく睾丸を、子供の力とは思えないほどの強さで何度も何度も蹴り上げたり、踏み付けたりしたのだ。そして、凱のプライドを更にズタズタにしようとしたのか、凱のそれをいやらしい手付きで触ったり握ったりしたのである。

「…何なんだよ、あの物凄い力はよぉ…!!

 とその時だった。

「ボクのこと、呼んだ?」

 突然、後ろから何かに抱き付かれた感覚がして、腰に腕を回されたのが分かった。

「…うわああああッッッッ!!!!

 大きなマントに包まれた手、そして、見覚えのある忌まわしい武器。それを目にした瞬間、凱は物凄い勢いで体を捻らせた。

「アハハハ…!!びっくりした?」

 後ろから抱き付いている者を振り解こうとした瞬間、その者がぱっと凱から離れ、甲高い笑い声を上げた。

「…て、…てんめえ…ッ!!

 黒いバイザー、紫色の唇。宇宙人とも見紛うその少年・トランがニヤニヤと不敵な笑みを浮かべて背後に立っていた。すると、トランは少しだけ後ずさりしたかと思うと、

「ようこそ、我らが城へ…!!

 と恭しく頭を下げた。

「…我らが、…城…?」

 その言葉を聞いた瞬間、凱の顔から血の気が引いた。

「…ここが、…バイラムの、…アジト…?」

「そう言うこと!」

 トランはそう言うと、凱の周りをトコトコと歩き始めた。

「本当はぁ、ボク達バイラムの者以外は連れて来ちゃいけないってラディゲに言われてるんだよね。でもさぁ、君だけは特別に招待してあげたくてね…!!

 ラディゲ。凱自身のライバルでもあるレッドホーク・天堂竜のライバルである男。その狡猾さと残酷さは、凱自身も目を覆いたくなるほどだった。

「…おい、トラン…」

 凱がトランに声をかける。

「なぁにぃ?」

 トランが凱の真正面に立つ。すると凱はフンと笑うと、

「…いいのかよ?…オレをこんなところへ連れて来るなんざ、ラディゲにお尻ペンペンして下さいって言っているようなもんじゃねぇのか?」

 と言い、トランに背を向けるとお尻を突き出し、軽くペシペシと叩いて見せた。競泳水着を模るような、程よく筋肉質な尻がトランの目の前にある。

「…大丈夫だよ!」

 やや間があって、トランがニッコリと微笑むとそう言った。そして、凱の尻に手を乗せた。

「凄い筋肉質なお尻だね!」

 そう言いながら、凱の尻を撫で回す。

「おッ、おいおいッ!!止めろよッ!!

 凱が尻を引っ込めようとしたその瞬間だった。凱の尻を撫でていたトランの手が振り上がったと思った瞬間、

 パァン!!

 と言う大きな音がしたと同時に、

「痛ってええええッッッッ!!!!

 と言う凱の悲鳴が響き渡り、凱はぴょんぴょんと飛び跳ねる。

「アハハハハ…!!!!

 トランの高らかな笑い声が響く。

「…んの野郎ッ!!

 思わずカッとなった凱。腰にあったブリンガーソードに手をかけた。

「こんのクソガキィッ!!叩き斬ってやるぜぇッ!!

 そう叫んだ凱が、目の前のトランに向けてブリンガーソードを振り下ろす。だが、その手に手応えがなかった。

「んなッ!?

 言葉を失う。すると、

「どこを狙ってんの?ボクならここだよ?」

 と背後から声が聞こえ、凱はぎょっとなって後ろを振り向く。

「アハハハハ…!!!!

 相変わらず高笑いを繰り返すトラン。

「んなろぉッ!!

 再びデスブリンガーを振り下ろす。だが、今度もやはり手応えがなかった。

「こっちこっちぃ!!

 少し離れたところから声がして、凱は思わず振り返った。その瞬間だった。

 バアアアアアンンンンンッッッッッ!!!!

 光り輝く光弾が目の前に迫ったと思った瞬間、それが凱の体にぶち当たり、爆発を起こしたのだ。

「うわあああああッッッッッ!!!!

 その勢いに圧されて、凱が後ろへひっくり返る。とその時だった。

 ジャララララ…ッ!!

 乾いた金属音が聞こえたかと思った瞬間、それらが物凄い力で凱の両手首に巻き付いた。

「…なッ!?…ああッ!!…ああッ!!…うわあああああッッッッッ!!!!

 突然のことに凱が悲鳴を上げる。凱の手首に巻き付いた鎖がグンと宙へ浮いたかと思うと、倒れ込んでいた凱を両腕を頭上高くへ上げた状態で無理矢理立ち上がらせたのだ。

「…なッ、何だッ、これはッ!?

 何とかして鎖を引きちぎろうと懸命にもがく凱。

「くっそおおおおッッッッ!!!!離しやがれええええッッッッ!!!!

「アハハハハ…ッ!!

 絶叫する凱の目の前で、勝ち誇ったように笑うトラン。

「…さぁ、…お前の処刑の時間だよ…!!

 

第10話へ