ちぎれた翼 第13話
「ぐぅわああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!」
冷たく薄暗い部屋に、野太い叫び声が響き渡る。
「がああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!ああッ!!ああッ!!ああッ!!ああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!」
その叫び声、いや、絶叫とも取れるその声は時に長く、時に短くを繰り返しながら、いつまでも響き渡っていた。と同時に、
ジャラッ!!!!ジャラララッッッ!!!!ジャラジャラジャラッッッ!!!!
と言う乾いた金属音も聞こえる。
「ひぐわああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!」
ブラックコンドル・結城凱。冷たく薄暗い部屋の中央に立たされ、絶叫し続けていたのである。両手両足を鎖で繋がれ、身動きが取れない。それでも手足をバタバタと動かしたり、首をブンブンと大きく振る。そして、首を大きく振るたびに、ブラックコンドルの精悍な顔つきのマスクがゆさゆさと揺れた。
そして。
そんな凱の体の中で、1ヶ所だけおかしなところがあった。
凱の2本の足の付け根。凱の男としての象徴であるペニス。それが、ブラックコンドルのバードニックスーツの中で臍へ向かって大きく勃起し、ブルブルと震えていたのである。いや、ペニス自体がブルブルと震えているのではなかった。凱の腰が何度も何度も小刻みに前後していたのだった。
「アハハハハハ…!!!!」
そんな凱の目の前で、一人の少年が腹を抱えて笑い転げていた。バイラムの幹部・超能力者のトランだ。
「…キッ、…キミの大事なところに、…またまた大変なことをしちゃったねぇ…ッ!!」
顔の半分を覆っているバイザーを上げ、目に涙を溜めて笑うトラン。
「…く…ッ!!…く…ッ…そおおおおおおッッッッッッ!!!!!!」
凱が、呻くようにそう叫んだ。
そうなのだ。
バイロックに拉致された凱。ブラックコンドルにクロスチェンジしたのは良かったが、両手と両足を長い鎖で拘束され、身動きが取れない状態で広い空間の中央に立たされた。そして、目の前にいるトランの玩具、いや、射的の的であるかのように弄ばれ、挙句の果てにはサンドバッグと称して凱の股間に拳を減り込ませたのであった。
しかも、凱の股間への攻撃は一度きりではなかった。バイロックに拉致される前にも、何度も何度も蹴り上げられていたのだ。
「…ぐ…ッ、…うううううう…ッッッッッッ…!!!!!!」
男性にしか分からない、あの独特の痛みがじわじわと広がる。
「…い、…息が…ッ、…出来ない…ッ…!!」
腹を強く殴られた時のように、息が詰まったような感覚が起こり、凱が苦しそうに言う。
「…フフフ…ッ!!」
目の前のトランはニヤニヤと不気味な笑みを零している。
「これで終わりじゃないよね、ブラックコンドルぅ?」
トコトコと凱の至近距離まで近付くと、俯き、ゼエゼエと荒い息をしている凱を見上げるように言う。
「…く…ッ…!!」
今の凱は、トランと顔を合わせる余裕すらなかった。マスクを被っているはずなのに寒い。そして、脂汗がダラダラと流れている。血の気が引いていると言うのはこう言うことを言うのかと思うほどだった。
「…何にも答えてくれないの、ブラックコンドルぅ?」
すると、トランは指先でつんつんと凱のペニスを突く。その刺激に、ピクン、ピクンと体を反応させる凱。
「あんなパンチを受けたのに、まだまだビンビンなんだね!」
「…れ…」
「え?」
その時、凱が何かを呟いたのを、トランは聞き逃さなかった。
「…止めて…くれ…!」
ゆっくりとブラックコンドルのマスクが動き、トランをじっと見つめるような格好になった。
「…何を…?」
「…ッ…!!」
分かっているくせに…!
凱の頭に血が上る。だが、そんな凱にお構いなしに、トランは少しだけ間合いを取ると、
「言わないのなら、もっとサンドバッグにしちゃおうかなぁ?」
とさらっと言ってのけた。
「やッ、止めてくれッ!!」
もうたまったものではない。自身のプライド、自身の武器とも言える性器を何度も何度も殴られたり蹴られたりするのは。
「…どうしてぇ?」
するとトランは、ぷっと顔を膨らませて凱を見上げる。
「…ッ…!!」
凱は答えに詰まる。そんな恥ずかしいことを言わせる気か、とマスク越しにトランを睨み付けた。だが、トランはフフン、と笑うと、
「答えないんなら…」
と右手で拳を握った。
「わッ、分かったッ!!分かったから…ッ!!」
その手を見た途端、再び血の気が引くような気がした。そして、ブルブルと体を震わせながら、
「…こわ…れる…」
とポツリと言った。
「え?何?」
トランが自分の耳に右手を翳し、聞こえない仕草を取る。
「…だから…ッ!!」
拘束されている両腕の拳がギリギリと音を立てる。
「…言わないのなら…」
「だから言うっつってんだろうがッ!!」
トランに何かを言わせる隙を与えないよう凱が叫ぶ。
「…壊れちまう…」
「何が?」
「…だから…ッ!!」
トランはニヤニヤと笑っているだけだ。
「…オレの、…大切なところが…だ…!!」
「大切なところってぇ?」
「…ぐ…ッ…!!」
拘束されてさえいなければ、多少ボロボロになったとしても、トランくらいなら一人で仕留められただろう…。何も出来ず、ただ、トランのされるがままになっている自分がもどかしかった。
「…ねぇ、…言えないの?」
トランが再び右手を握る。
「…オレの、…股間…が、…壊…れる…!!」
言えた、と言うより、言い切った。これでいいはずだ。凱はそう思っていた。ところが。
「ねぇ、もっとエッチな言葉で言ってよ!」
トランの信じられない言葉に、一瞬、耳を疑った。
「…て…んめえ…ッ!!」
低い声で呻くように言う凱。だが、そんな凱の言葉には耳もくれず、
「あっそ。嫌なら…」
とトランが再び右手を握り、凱の目の前へ差し出した。
「…ッ!!」
凱が歯軋りをした音が聞こえた。やがて、大きな溜め息を吐くと、
「…オレの、…チンポ…が、…壊れる…!!」
と言った。その瞬間、
「アハハハハハハ…ッッッッッッ!!!!!!」
と言うトランの甲高い声が、凱の耳を劈いた。
「コ、コ、コ、コイツッ、本当に言いやがった!!」
手を何度も何度も叩きながら、トランが狂ったように笑う。
「…ぐ…う…ッ…!!」
何も抵抗出来ない自分。凱のプライドがズタズタにされようとしていた。