ちぎれた翼 第16話
「…はぁ…ッ!!…はぁ…ッ!!」
最悪の結果になったことを、ブラックコンドル・結城凱は悟っていた。
…ジャラッ!!
凱が荒い呼吸をするたびに、彼を、彼の四肢を拘束している重い鎖が金属音を立てる。同時に、その音は凱の心に大きく突き刺さり、重く圧し掛かった。
顔が熱い。今まで散々、ブラックコンドルの精悍な顔付きのマスクの中で叫び続け、汗がたらたらと滴っていた。きちんとセットした髪はその汗でぐっしょりと濡れ、顔は真っ赤になり、目からは涙、口元からは涎が零れた跡があった。
そして、体が重い。その理由は2つ。
1つは、凱の体に1人の少年が抱き付いていたからだ。次元戦団バイラムの幹部・トラン。このトランによって、凱の運命は大きく狂わされることになる。
「…クックック…ッ!!」
そんなトランは今、俯き加減になり、肩を震わせている。その手には凱が装着していたブラックコンドルの精悍な顔付きのマスクが握られていた。
と突然、それがトランの手から無造作に投げ捨てられた。そして、ガランガランと言う乾いた音と同時に、
「アーッハッハッハッハ…ッ!!」
と言うトランの甲高い笑い声が辺り一面に響き渡った。
「…や、…やったぞ…ッ!!…ボクは、…ジェットマンの一人を倒した…ッ!!…ラディゲやマリア、グレイが成し遂げられなかったことを、ボクが一番乗りしたぞッ!!…これで、…これで誰にもボクをバカになんかさせないッ!!ざまぁみろだッ!!アーッハッハッハッハ…ッ!!」
高らかに勝ち誇った笑い声を上げるトラン。
その時、凱は、不意に自分の体が軽くなったのを感じた。
「うぐッ!?」
ジャラジャラと言う金属音が鳴り響き、バランスを崩した凱はその場に崩れるように仰向けに倒れ込んだ。
「…はぁ…ッ!!…はぁ…ッ!!」
全身の力が抜けてしまったかのような感覚。体を起こしたくても起こすことが出来ない。
「…おっと、いけない…!!」
その時、トランがはたと何かを思い出したかのようにクルリと凱の方を向いた。そして、ツカツカと凱のもとへ歩み寄って来たかと思うと、凱の足元へしゃがみ込み、ぐっしょりと濡れ、異臭を放っている凱の股間をギュッと握ったのである。
「んなッ!?」
突然のトランの攻撃に、凱は思わず顔を上げ、声を上げる。そして、
「もッ、もうッ、止めてくれッ!!こッ、これ以上は出ねぇッ!!」
と慌てた表情で言ったのだ。
普段なら、この時点で瞬時に飛び退き、トランと間合いを取ることが出来ただろう。だが、今の凱はそれが出来ずにいた。体が言うことを聞かないのだ。
これが、凱の体が重い2つ目の理由。
バイラムの幹部であり、凱よりも遥かに年下であろう少年・トランにまさに「甚振られる」と言う言葉がよく似合うほど弄ばれ、捕らえられ、凱のプライドとも言えるべき股間を時に優しく、時に激しく刺激され、快楽に追い詰められ、最後には大きく射精して果てた。しかも、一気に二度も、大量に射精させられた。いくら精力盛んな凱とは言え、その反動は相当なもので、ちょっとやそっとでは体が動かなくなってしまったのだ。
するとトランは、
「今日はもう虐めないよ!これからボクと契約してもらうのさ!」
と言い、異臭を放つ凱の精液を指で掬い取った。
「…ど、…どうする気だ…ッ!!…それに、…今日は、…って…!!」
するとトランは1枚の紙切れを取り出した。
「…何だよ、…それ…?」
見たことのない文字、いや、文字と呼べるのか分からないようなものがビッシリとその紙には書かれている。
「これ?これが契約書だよ」
と言った。
「…オ、…オレには読めねぇだろうがッ!!」
ブルブルと震える体を、渾身の力で起こす凱。その目はトランを睨み付けている。するとトランは大きく溜め息を吐き、
「…キミは直接読めなくてもいいんだよ!キミはボクの執事奴隷なんだからさ!」
と言い、凱の股間から掬い取った精液をそれの右下部分へ塗りたくった。その瞬間、それがポウッと光を放ち、丸い染みのように跡を残した。
「…い、…今、…何をしやがった…ッ!?」
凱が呆然として言うと、トランは、
「キミ達愚かな人間は、サインを使わない時は指紋や血液を使うんだろ?それに似たようなものさ。キミのサインの代わりに、キミのいやらしい液体を使ったってわけだよ!」
と言った。そして次の瞬間、凱の髪の毛を乱暴に掴み、頭を無造作に持ち上げた。
「うぐッ!?」
その痛みに、凱は思わず呻き声を上げる。
「ここに書かれていることは全部で3つ」
確かに、1つの文字と点のようなものが、つらづらと書かれている文章のようなものの前にあり、箇条書きのように3つ並んでいる。
「じゃあ、読むね!」
トランはそう言うと、凱の頭を無造作に放し、紙面をじっと見つめた。
「第1条。ブラックコンドルはボクの執事奴隷である」
「…執事、…奴隷?」
きょとんとする凱。するとトランは大きく頷き、
「そうだよ?ブラックコンドルはボクの身の回りの世話を甲斐甲斐しく、愛情を持って行い、同時に、ボクのおもちゃとなり、その体を喜んで差し出す」
と言った。
「…体を、…差し出す…?」
トランの言ったことに、少しずつ怒りが湧き上がって来る。敵であるトランの身の回りの世話を何故、自分がしなければならないのか。
「つまりぃ」
その時、トランは凱の体にそっと寄り添い、
「ボクがキミを虐めたくなったら、キミは喜んでボクのサンドバッグになるってことだよ!」
と言った。
「ふっざけんなぁッ!!」
次の瞬間、凱は物凄い勢いで立ち上がっていた。
「…な、…な、…何でオレがてめえの面倒なんか見なきゃならねぇんだッ!?…しかも、てめえのサンドバッグになるなんて…!!…馬鹿馬鹿しいッ!!…オレは帰らせてもらうぜッ!!」
凱がそう言った時だった。
ピッ!
と言うあの忌まわしい音が聞こえたかと思った次の瞬間、
「ああッ!?ああッ!!ああッ!!ああああッッッッ!!!!」
と、凱が悲鳴を上げ始め、股間を押さえて蹲った。股間を押さえている手がざわざわと上下に動いている。
「んなッ!?…なッ、何だッ、これはッ…!!…あああッッッ!!!!…やッ、…止めろオオオオッッッッ!!!!」
凱が自分で手を動かしているのではない。股間の凱の男としての象徴が、まるで別の生き物であるかのように独りで上下運動を繰り返していたのだ。
グチュッ!!グチュグチュグチュッッッ!!!!グチュグチュグチュグチュッッッッ!!!!
凱の股間が上下運動を繰り返すたびに、凱が出した、ブラックコンドルのバードニックスーツの中に残っている大量の精液が淫猥な音を立てる。
「やれやれ」
トランは大きく溜め息を吐き、頭を軽く振る。
「第2条。ブラックコンドルは主人の機嫌を損ねた時、奴隷としてお仕置きを受ける。そのお仕置きがそれだよ!」
「…とッ、…止めてくれええええッッッッ!!!!」
ガクンと膝を落とし、その場にひっくり返ってしまった凱。体を弓なりにしたり、ゴロゴロと転げ回ったりを繰り返す。グチュグチュと淫猥な音を立てて動く凱のペニスは、その刺激に再びムクムクと大きく勃起し始めていた。
「キミのオチンチンをただ触っているだけだと思ってた?僕はね、媚薬と一緒に、そこを操作する薬を同時に打ち込んだのさ!」
と言い、
「ブラックコンドルぅ。ボクの執事奴隷になってくれるよね?」
トランが勝ち誇った笑みを浮かべて凱を見下ろす。
「…わッ、…分かった…ッ!!…分かったから…ッ!!…トラン…様のッ、…奴隷になりますッ!!…なりますから…ッ!!」
とうとう言ってしまった。この辱めから逃れたいと言う思いが凱の頭を完全に支配していたのだった。
「その言葉、忘れないでね?」
トランはそう言い、
ピッ!
と言う音を立てて、凱へのお仕置きを終えた。
「…んくッ!?…はぁ…ッ、…はぁ…ッ!!」
股間への刺激が止まり、凱が荒い呼吸を続ける。
だが、この時、凱は肝心なことを忘れていた。契約書の3つ目の条項が、凱の命取りになる条項であったことを…。