ちぎれた翼U 第1話

 

 スカイキャンプ。

 鳥人戦隊ジェットマンが集う前線基地。ここを拠点に、ジェットマンとして集められた若者5人が、地球侵略を企む次元戦団バイラムと熾烈な戦いを繰り広げていた。

 その医務室のような一室の、真っ白な無機質のベッドの上に1人の若者が横たわっていた。

 布団から出ているその顔は生気がないように真っ白になっていた。その鼻から口元には人工呼吸器が取り付けられ、ピクリと動くことさえなかった。

 ブラックコンドル・結城凱。バイラムの1幹部であり、子供のようなトランにバイロックへ拉致された。そして、こともあろうに凱のプライドとも言うべきペニスを執拗に責め立てられ、何度も射精して果てた。それだけでは飽き足らず、トランは凱を自身へ隷属させ、凱の体を、心を執拗にズタズタにして行った。

 だが所詮は子供。最後は飽きたのか、凱のペニスだけではなく、その下に息づく睾丸をも潰し、その状態で地上へと返したのであった。

「…凱…」

 大きく切り取られたようなガラス越しに、戦友達が目の覚めない凱を見つめている。

「…命が助かったのは良かったけど…、…このまま目覚めない可能性もあるって…」

 時折、大人の表情を見せるようになった女子高生・早坂アコが言った。彼女はブルースワローにクロスチェンジする。

「…でも、ダメよね?…目覚めたとしても、…凱は…、…子供を作れない体になってしまったんだから…」

「馬鹿なヤツだ!一人で勝手に出かけるから、こんな目に遭うんだよ!」

 うどの大木のような巨漢。だがメガネの奥底にある瞳はきょときょとと忙しなく動き、その体は小さく震えている。イエローオウルにクロスチェンジする大石雷太だ。

「ちょっとッ、雷ちゃん!」

 アコがどんと雷太を肘打ちする。

「…あ…」

 2人の目の前では、真っ白い服を着た、2人とは雰囲気が違いそうな女性がぽつんと佇んでいた。

「…私の…、…せいですわ…」

 力なく呟くように言う。ホワイトスワンにクロスチェンジする鹿鳴館香だ。

「…私が凱に…、…いろいろなことを…、…押し付けたせいですわ…」

 香の目に、涙が浮かんでいた。

 

 結城凱と鹿鳴館香。同じジェットマンのメンバーでありながら、凱が香に一目惚れ。猛烈なアプローチを仕掛けていた。その後、2人は恋人同時になるものの、もともと生まれも育ちも違う。香が育ちのいいお嬢様に対し、凱は幼い頃からやさぐれ、常に一匹狼として生きて来た。そんな凱に、香は上流階級の作法を凱に教え込もうとしたり、香の両親でさえも、凱を枠にはめて見ようとする傾向があった。凱は、そんな彼女の生き方や、彼女の両親の価値観に嫌気がさし、別れ話を切り出したのだった。

 

「…べッ、…別に香さんのせいじゃないですよ…!」

 雷太がその場を取り繕うように必死に言う。

「そ、そうだよ、香ぃ!香が悪いわけじゃないよ!」

 アコはそう言うと、ベッドに横たわっている凱を見つめ、

「…アイツが、…凱が、…勝手に出て行った…んだから…!!

 と懸命に涙を堪えていた。

 と、その時だった。

 バンッ!!

 物凄い音でテーブルを叩かれ、3人は思わずぎょっとなる。

「…りゅ、…竜…ッ!?

 そこには3人に背を向け、両拳を握り締めている、がっしりとした体付きの男が立っていた。

 レッドホーク・天堂竜。鳥人戦隊ジェットマンのリーダーであり、香、雷太、アコ、そして凱の4人をまとめ上げる青年。そして、トランの卑劣な攻撃に倒れた凱の親友でもあった。

 性格も行動パターンも全く正反対の2人。最初は反発していた2人。竜のやることなすことがいちいち気に入らず、凱は事あるごとに竜といがみ合っていた。正義感が強く、熱血漢で強情なところがある竜に対し、何事にもいい加減で、仲間と戯れることが大嫌いな凱。その正反対の性格から、ジェットマンになった頃は喧嘩ばかりしていた2人。だが、いつの間にかお互いを認め、今では掛け替えのない親友となっていた。お互いの性格も行動パターンも良く理解し、シンクロしているかと思うほどにコンビネーションを決め、次々とバイラムが送り出す怪人・次元獣を倒して行ったのだった。

「…」

 竜はちらりと3人を見た後、ツカツカとスカイキャンプから出て行こうとした。

「りゅッ、竜ッ!?どこへ行くんだよッ!?

 雷太が慌てて竜の肩を掴む。だが竜は振り向くことなく、

「…放して…くれないか…」

 と低い声で言ったのだ。

「ちょ、ちょっと待ってよッ、竜ッ!!

 アコまでもが引き止めようとするのだが、

「放せと言ってるんだッ!!

 と竜が突然、声を荒げ、思わず身を引っ込める。

「…すまない…。…俺が、…凱の仇を取りに行く…!」

「待ってッ、竜ッ!!

 今度は香が飛び出し、竜の目の前へと回った。

「…竜…!…あなたまでいなくなったら…!」

 自分の罪の意識に苛まれるのか、香の目からは涙がはらはらと零れる。だが、竜は優しく微笑むと、

「大丈夫だ、香。俺は負けやしない!」

 と言った。

「でもッ!」

 香が何かを言いかけて、口を閉じる。そんな香をじっと見つめていた竜だったが、

「…すまない…。…今は、…香の気持ちに、…応えられない…」

 と言い、竜はスカイキャンプを後にしたのだった。

「…何か、…悪い予感がする…」

 竜の背中を見つめながら、アコが呟くように言った。

 

「トランンンンッッッッ!!!!

 寒々しい空の下、広々とした荒野の中で、竜はバイクを走らせていた。

「出て来いッ!!トランンンンンッッッッ!!!!

 凱がトランに出遭い、トランに拉致され、散々痛めつけられた挙句、捨てられた運命の場所。そんなところに、竜は来ていた。

「…どこだ…ッ、…トラン…!!

 何となくの気配を感じているのだろうか、竜はバイクを止め、キョロキョロと辺りを見回す。と、その時だった。

「呼んだぁ?」

 突然、声が聞こえたかと思うと、竜のバイクの目の前に、白と黒を基調としたローブのようなものを身に纏い、目元には大きなバイザーを付け、口は紫色をしている少年・トランがすぅっと姿を現したのである。

「…ッ!?

 竜は一瞬、驚いたような表情を見せたがすぐに元に戻り、

「…やっぱりここにいたか、トラン!」

 と言った。

「ボクの気配に気付いていたようだね?」

 ニヤニヤとしながらそう言うトラン。

「ああ。凱とは一緒にするなよ?」

 竜はそう言うと、

「クロス・チェンジャーッ!!

 と言い、右腕のエンブレムフォーメーションの中心を押した。その瞬間、眩しい光が竜を包み込んだ。

 肩から背中にかけて、鳥のようなデザインが施され、背中は赤一色。尻の部分までが赤一色で、そこから下は白。その間には黄色のラインが入っていた。

 正面は赤と白、黄色を基調とし、鳥をあしらったエンブレムと胸のVラインが入った上半身。白を基調とし、競泳水着のような形をした赤いパンツに黄色のラインが縁取られている下半身。それは全てきらきらと輝き、それを着こなしている人間の腕や足、胸などの筋肉を隆々と浮かび上がらせていた。そして、頭部には赤を基調とし、額の部分には鷹を模したデザインが施されたマスクがあった。

 レッドホーク。これが、竜のクロスチェンジした姿だった。

「…なるほどね…」

 トランがニヤリとする。

「これは面白いことになって来た…!」

 

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