ちぎれた翼U 第2話
「これは面白いことになって来た…!」
白と黒を基調としたローブのようになった着衣を身に付け、目の前にある真っ黒なバイザー越しにニヤニヤと笑う少年。次元戦団バイラムの一幹部・トラン。
「…まさか、ブラックコンドルを倒した時に言い放った言葉がそのまま現実になるなんてね…!」
「…どう言うことだ?」
そんなトランと対峙するかのように、1人の男が肩幅程度に足を開き、静かに立っていた。
肩から背中にかけて、鳥のようなデザインが施され、背中は赤一色。尻の部分までが赤一色で、そこから下は白。その間には黄色のラインが入っていた。前面は赤と白、黄色を基調とし、鳥をあしらったエンブレムと胸のVラインが入った上半身。白を基調とし、競泳水着のような形をした赤いパンツに黄色のラインが縁取られている下半身。それは全てきらきらと輝き、それを着こなしている人間の腕や足、胸などの筋肉を隆々と浮かび上がらせていた。そして、頭部には赤を基調とし、額の部分には鷹を模したデザインが施されたマスクがあった。天堂竜。鳥人戦隊ジェットマンのリーダー・レッドホーク。
「ボクはね、アイツを倒す前、『…次は、…レッドホークでも狙うかな…?』って言ったんだ。奴隷が2人もいたらさ、ボクは両側から抱き締めてもらって眠れるしさ、それに奴隷2人がエッチなことをするところを見るのも面白いなぁって思ったからさ!」
「…」
面白そうに笑うトランの言葉を、竜は静かに聞いている。
「それに、アイツとは全く正反対の性格のキミが、ボクがブラックコンドルにしたようなことをしたらどうなっちゃうのかなぁって思ってね。真面目な性格のキミが性の快楽に溺れ、壊れてしまうところをアイツだって見たかったはずだよ?」
そう言いながら、トランはゆっくりと竜に近付いて行く。
「…それなのにアイツ、『オレはどうなろうと構わねぇッ!!だがなッ、オレの大事なダチをバカにするのは、絶対に許さねぇッ!!』ってボクに立ち向かって来たわけさ。もうそうなっちゃったらどうしようもないからさ、ボクもブラックコンドルをやっつけちゃったってわけだよ!」
「…それで、…凱の…、…大切なところが…!!」
竜がブルブルと震えている。拳が握られ、真っ白なグローブがギリギリと音を立てた。するとトランは、
「そッ!」
と言い、
「アイツの大事なところに、薬を打ち込んでおいたのさ。ボクに逆らったら強制的に射精させる薬をね!何度も射精させられているのに、それでも立ち向かって来るものだからさ、さすがのボクも物凄く腹が立ってね。…彼には気の毒だったけど、…そうするしか方法がなかったんだよね…!」
と言って、竜の体に触れようとしたその時だった。
「…何…ッ!?」
トランの手は空を虚しく切っただけであった。そして次の瞬間、
ドオオオオンンンンッッッッ!!!!
と言う爆発音が大きな地響きと共に辺りに響き渡り、
「ぎゃああああああッッッッッッ!!!!!!」
と言うトランの甲高い悲鳴が響き渡った。
「…なッ、…なん…だ…ッ!?」
いきなりトランの目の前で大爆発が起こり、トランがその衝撃で吹き飛ばされてゴロゴロと転がる。と、その瞬間、
ドオオオオオオンンンンンンッッッッッッ!!!!!!
と言う爆発が更に起こり、
「ああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!」
と言うトランの絶叫が更に響き渡った。
「…お、…の…れええええ…ッッッッ!!!!」
砂塵が辺り一面を覆う中、トランがヨロヨロと立ち上がる。
「…!?」
その時、トランははっきりと見た。自分の遥か前方にファイヤーバズーカがふわふわと浮いていたのである。
「…レッドホークは…ッ!?…レッドホークはどこだぁッ!?」
さぁっと血の気が引いたのが分かった。砂塵がもくもくと舞う中で、必死に竜の気配を感じ取ろうとする。
「!?」
その時、トランは視界の片隅にキラリと輝くものを捉えた。そして次の瞬間、
ズガァッ!!
と言う衝撃音と共に、
「ひぎゃああああああッッッッッッ!!!!!!」
と言うトランの絶叫が響き渡った。トランの額に、ブリンガーソードが降り下ろされていたのだ。
「ああああああッッッッッッ!!!!!!痛いッ!!痛いイイイイイイッッッッッッ!!!!!!」
トランがごろごろと地面を転がる。そんなトランの目の前に、レッドホークにクロスチェンジした竜が静かに舞い降りたのだ。
「…お、…おのれ…え…ッ、…レッド…ホーク…ぅぅぅッッッ!!!!」
トランが物凄い形相で竜を睨み付ける。その額からは鮮血がドクドクと溢れ出て来ている。
「…全て、凱が、…アイツが…、…教えてくれたんだ…!」
静かにトランを見下ろす竜。
「…昨夜、…アイツが俺の夢の中に現れたんだ。…そして、俺に言ったんだ。…トランの攻撃には、…十分に気を付けろ、…ってな…!…夢の中なのに、…物凄く事細かに教えてくれた…。…トランに指一本触れさせるな、…トランは超能力者だから、…気を付けろ、…ってな」
そう言った竜の目の前に、ファイヤーバズーカが静かに舞い降りた。そして、照準をトランへ向けたのである。
「…ひ…ッ!?」
自身の全ての行動を見破られていたことを知り、トランは思わず悲鳴を上げる。
「…これで終わりだ、…トラン…ッ!!」
そう言った竜の指が、ファイヤーバズーカの引き金を引いた。
ドオオオオオオンンンンンンッッッッッッ!!!!!!
爆音が辺りに響き渡り、
「ひぎゃああああああああああッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!」
と言うトランの絶叫が辺り一面に響き渡った。
「…あ…ううう…ッッッ!!!!」
気が付くと、トランはかなり遠くに吹き飛んでいた。
「…お、…おのれ…え…ッ、…レッド…ホーク…ぅぅぅッッッ!!!!」
ブルブルと震える拳を握り、何とかして立ち上がろうとする。
「…ボクに、…情けをかけた…のか…ッ!?」
ブリンガーソードで切られた額以外、どこも傷を負っていないことに気付いたトラン。
「…そう言えば…」
あの時。竜がファイヤーバズーカの引き金を引いた時、僅かながらに銃口が横へ反れていた。それが偶然なのかわざとなのかは分からない。だが、そのお陰でトランは一命を取り留めたのだ。
「…もし、…ボクに、…情けをかけたのなら…!!」
体の中を、熱い何かが駆け巡る。
「…もし、…ボクが子供だからと、…情けをかけたのなら…!!」
ギラギラと光る眼差しで遠くを睨み付けるトラン。
「…だとしたら、…ボクは、…お前を…許さない…ッ!!…レッドホーク…ッ!!」
ブルブルと体を震わせるトラン。熱くおぞましいものが体の中を駆け巡るのが分かった。
「…今に…、…今に…ッ!!…今に見てろ…ッ!!」