ちぎれた翼U 第3話
その日、レッドホーク・天堂竜は独り、バイクを走らせていた。
「…」
あの日から。ブラックコンドル・結城凱がバイラムの幹部の一人、子供のような姿をしたトランに甚振られ、凱のプライドとも言えるべき股間を再起不能にしたその日から、竜は心から笑うことが出来なくなっていた。いつも、どこにいても険しい顔は崩さず、眉間に皺を寄せたままだった。
(…どうして、…こんなことに…!)
凱とは、ずっといがみ合っていた。お互いが相容れない部分がたくさんありすぎて、本当に仲間として、鳥人戦隊ジェットマンとしてやって行けるのか、一匹狼的な部分が多すぎる凱を引っ張って行けるのか、そんな不安が大きすぎた。
だが、凱がトランの狡猾な罠にかかり、倒されてからは、心にぽっかりと穴が開いたような、空虚感に苛まれていた。
『…竜…。…竜…ッ!!』
凱が再起不能の状態で発見され、運び込まれたその日、竜は夢を見た。こんな言い方をすると縁起でもないと思うかもしれないが、凱が夢枕に立ったのだ。
『…トランの攻撃には、…十分に気を付けろ…!!』
そう言った凱の顔は悲痛に歪んでいた。
『…オレは、…トランに負けたんだ…!!』
体をブルブルと震わせ、悔しそうに言う凱。仔細を聞いた瞬間、体から血の気が引いたのを竜は夢うつつに感じ取っていた。
『…トランに指一本触れさせるな…!!…トランは超能力者だから…気を付けろ…!!』
「凱ィィィッッッ!!!!」
夢の中で凱がスゥッと消えて行きそうになり、竜は思わず叫び声を上げ、そこで目が覚めた。
「…ク…ッ…!!」
暗闇の中で、竜の大きな瞳がきょときょとと忙しなく動き、その大きな瞳が俄かに潤んだかと思うと、大粒の涙がぽろぽろと竜の頬を伝った。
「…凱…ッ!!…凱…ッ!!」
どんなにいがみ合っていても、無意識の部分で2人はお互いを認め合っていた。凱の笑顔が、ブラックコンドルにクロスチェンジし、戦う凱の勇姿が竜の脳裏を駆け巡る。
「…ぅぅぅ…ッ、…うわああああああッッッッッッ!!!!!!」
防音の整った部屋の中、竜は大声で泣いた。
そして、あの日。
「…これで終わりだ、…トラン…ッ!!」
レッドホークにクロスチェンジし、対峙したトランに向かってファイヤーバズーカの引き金を引いた。
ドオオオオオオンンンンンンッッッッッッ!!!!!!
爆音が辺りに響き渡り、
「ひぎゃああああああああああッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!」
と言うトランの絶叫が辺り一面に響き渡った。
だが、この時、竜は凱の忠告を無視していた。いや、忠告を聞かなかったと言った方がいいかもしれない。
『…もし、…お前がトランと対峙することになったのなら、…トランを必ず始末しろ…!!…じゃなきゃ、…今度はお前が殺される…!!』
(まさか。…相手は子供だぜ?そこまでする必要があるのか?)
『子供だからってなめたらダメだ!!…あいつは、…何を仕掛けて来るか、…分からねぇんだから…!!』
夢の中で必死にそう言った凱。
だが竜は、トランを倒すことは出来なかった。ファイヤーバズーカから弾丸が放たれる瞬間、照準を僅かながらに外したのだ。
(そうだ。相手は子供なんだ。今はきついお仕置きが必要なだけで、きっと更生してくれる)
心のどこかで、竜はそれを願っていた。それが、結果として、竜へ最悪な結末をもたらすとも知らずに。
「…あれは…ッ!?」
唸るようなエンジン音を上げてバイクを走らせていた竜。その視線の先に、黒い物体がぬめぬめと動くのを見た。
「グリナム兵かッ!!」
慌ててバイクを止めた瞬間、黒い物体は人の形になったかと思うと、奇声を上げて襲い掛かって来たのだ。
「はあああッッッ!!!!」
威勢のいい声を上げて、竜がその中へ突っ込んで行く。そして、
「クロスチェンジャーッ!!」
と叫ぶと、竜の体が光の球となり、グリナム兵達を次々と薙ぎ倒して行った。そして、その姿が顕わになった時、竜はレッドホークへとクロスチェンジしていたのだった。
肩から背中にかけて、鳥のようなデザインが施され、背中は赤一色。尻の部分までが赤一色で、そこから下は白。その間には黄色のラインが入っていた。前面は赤と白、黄色を基調とし、鳥をあしらったエンブレムと胸のVラインが入った上半身。白を基調とし、競泳水着のような形をした赤いパンツに黄色のラインが縁取られている下半身。それは全てきらきらと輝き、それを着こなしている人間の腕や足、胸などの筋肉を隆々と浮かび上がらせていた。そして、頭部には赤を基調とし、額の部分には鷹を模したデザインが施されたマスクがあった。
「バードブラスターッ!!」
竜がレーザー銃を構え、勢い良くビーム砲を放つ。それが命中したグリナム兵は爆発し、溶けて消えて行く。
「ブリンガーソードッ!!」
竜は今度は剣を取り出し、襲い来るグリナム兵を叩き斬る。あっと言う間にグリナム兵は全て消えていた。
と、その時だった。
何かが光ったのに気付いた瞬間、竜のバードニックスーツが物凄い音を立てて爆発した。
「うわああああッッッッ!!!!」
その爆発にバランスを崩し、竜は思わずひっくり返る。
「アハハハハ…ッ!!」
目の前に現れた者を見た瞬間、竜は思わずギョッとなる。
「…ト、…トラン…ッ!!」
黒と白の大きなローブを身に纏い、ニヤニヤと佇んでいる少年・トラン。だがこの時、竜はいつもとは違う殺気を感じていた。
「この間はよくもやってくれたね、レッドホーク…!!」
いつもとは違う殺気は、いつもとは違う出で立ちのトランを見れば分かった。
いつもなら、目を覆うバイザーを付けているトラン。だが、今のトランにはそれがなかった。そんなトランの額には、この間、竜が付けたブリンガーソードの傷がクッキリと残っていたのだ。
「…ッ!!」
思わず身構える竜。するとトランは、額の傷を触りながら、
「…ボク達は体が傷付いても回復が早いんだ。だから、こんな傷だって簡単に治せるのさ」
と言う。
「でも、ボクはそれを敢えて残した!」
そう言ったトランの目がギラリと光る。
「…レッドホーク。…キミに復讐をするためにね…!!」
その時、竜は自身の体の異変に気付いた。
(…何…だ…!?…この、…足が竦むような、…感覚は…ッ!?)
足が棒のように固まり、体が妙に重い。それはトランに何かをされていると言うわけではなかった。竜自身の体が本能的に何かを感じ取っていた。
「…ッ!!」
竜の精悍な顔に、脂汗が零れていた。