ちぎれた翼U 第4話
(…な、…何だ…ッ!?…この、…異様な体の重たさは…ッ!?)
何度も目の前にしたことのある敵がいると言うのに、今までに会ったことのないような、そんな感覚さえ覚える。
「…う、…うぅ…ッ!!」
レッドホーク・天堂竜。彼は今、今までに感じたことのなかった恐怖に襲われようとしていた。
(…ヘビに睨まれたカエルとは、こんなことを言うのだろうか…)
そう思えるほど、竜の足はまるで鋼鉄の棒のように硬く、重くなり、その場から一歩も動けないでいたのだ。
「…キミに、…この間のお礼をしないとね…!」
竜の目の前に立っているのは、次元戦団バイラムの一幹部・トラン。少年のような出で立ちの彼は今、いつもとは全く違う雰囲気だった。
いつもならお調子者らしく、また、子供っぽく、それでも冷酷に接して来るのに、今の彼はいつもとは違う殺気に包まれていた。そして、いつもなら目を覆っているバイザーがなく素顔が露出していた。そして更に、トランの額には、この間の戦いで竜が付けたブリンガーソードの傷がクッキリと残っていたのだ。
「行くよッ、レッドホークッ!!」
そう言ったトランの目が光った。と同時に、トランの周りの砂利がフワフワと浮き始めたかと思うと、物凄い勢いで竜に向かって飛んで来たのだった。
「はぁッ!!でやッ!!せいッ!!」
竜はそれをブリンガーソードで叩き落として行く。
「…ッ!!…く…ッ!!」
だが、多勢に無勢とは良く言ったもので、トランから繰り出される砂利は無限に飛んで来る。そのうち、ブリンガーソードでは落とし切れなくなった砂利は、光沢のある赤と白のバードニックスーツに弾丸のようにぶち当たって行き、それがスーツとの摩擦で火花を上げるようになって行く。
パァンッ!!パァンッ!!
と言うスパーク音が辺りに響き渡り、
「うおッ!?ああッ!!ああああッッッッ!!!!」
と言う竜の悲鳴が響き渡る。
「アハハハハ…ッ!!」
トランが甲高い笑い声を上げたかと思うと、竜の周りで爆発が連発した。
「ううッ!?うわああああああッッッッッッ!!!!!!」
凄まじい爆風に煽られ、竜の体が吹き飛ぶ。
「ぐはッ!!」
そして、勢い良く地面に叩き付けられ、ゴロゴロと転がった。
「!?」
そんな竜へ、トランの攻撃は容赦なく襲い掛かる。
「ほらほら、どうしたんだよぉ、レッドホークぅ?ブラックコンドルの仇を取るんじゃなかったのかい?」
トランはそう言うと、左手に填め込んでいるキーパッドメタルトランサーに手をかけた。
ピッ!!
甲高い音が聞こえたと思った次の瞬間、
ドオオオオンンンンッッッッ!!!!
と言う爆発音が聞こえ、竜の目の前で再び爆発が起こった。
「うわああああッッッッ!!!!」
竜の叫び声が辺り一面に広がる。
「まだまだぁッ!!」
ピッ!!
ドオオオオンンンンッッッッ!!!!
ピッ!!
ドオオオオンンンンッッッッ!!!!
次から次へと起こる爆発。
「ああああッッッッ!!!!がああああッッッッ!!!!うぐわああああッッッッ!!!!」
爆音の中で響き渡る竜の甲高い叫び声。キラキラと光る赤と白のバードニックスーツが、舞い上がる砂塵に消えて行く。
「…フフフ…!!」
トランはニヤニヤとしながら、目の前の砂煙を見つめている。
「…これで終わったわけじゃないよね、…レッドホーク…?」
と、その時だった。
トランの目の前に、眩い光の弾丸が飛び出して来た。
「…ッ!?」
これにはさすがにトランも驚き、ゴロゴロと転がりながらそれを避ける。
ドオオオオンンンンッッッッ!!!!
今度はトランの周りで爆発が起き始めた。
「…クッ!!」
こうなることはトランも予想していたはず。だが、それは想像していたよりも激しく、また、スピードのあるものだった。
ドオオオオンンンンッッッッ!!!!ドオオオオンンンンッッッッ!!!!
トランは懸命にそれを避けていたのだが、とうとう避け切れなくなり、
「ああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!」
と言う悲鳴を上げて、爆発に巻き込まれた。
「…あ、…うううう…ッッッッ!!!!」
ガラガラと砂塵が舞い、その中に倒れ伏しているトラン。
「…お、…おのれええええ…ッッッッ!!!!」
何とかして起き上がろうとしたその瞬間、
「…ッ!?」
目の前に突き出された冷たく光るものを見た瞬間、トランはぎょっとした顔をして思わず見上げた。
「…レ、…レッド…ホーク…ッ!?」
赤と白、黄色を基調とし、鳥をあしらったエンブレムと胸のVラインが入った上半身。白を基調とし、競泳水着のような形をした赤いパンツに黄色のラインが縁取られている下半身。そして、頭部には赤を基調とし、額の部分には鷹を模したデザインが施されたマスク。そのマスクが、トランをじっと見下ろしていた。
「…ク…ッ!!」
トランが竜を睨み付ける。そんな竜の右手には、ブリンガーソードが握られていた。
「…ボクを、…殺す…のか…!?」
そう言った時だった。
「…ッ!!」
竜の手が小さく震え始めたのだ。
「…レ…ッド…ホーク…?」
これにはトランも驚き、呆然と竜を見上げている。
「…どうして…」
ぽつりと竜が呟く。
「…どうして、…こんな子供が、…こんなことを…!!」
戦友で大親友だったブラックコンドル・結城凱は、このトランにバイロックへ拉致された。そして、こともあろうに凱のプライドとも言うべきペニスを執拗に責め立てられ、何度も射精して果てた。それだけでは飽き足らず、トランは凱を自身へ隷属させ、凱の体を、心を執拗にズタズタにして行った。そして、最後は凱のペニスだけではなく、その下に息づく睾丸をも潰し、その状態で地上へと返したのであった。
「…どうして、…こんなことを…ッ!!」
レッドホークのマスクの中で、竜の声が嗚咽に変わる。
「…レッド…ホーク…ッ!!」
「ううッ!?うわああああああッッッッッッ!!??」
はっと我に返った瞬間、竜は今までにないほどの悲鳴を上げた。
「…やはり、…キミは、…ボクを子供扱いしていたんだね…ッ!!」
ゆらゆらと立ち上がるトラン。その体がブルブルと震えているのが分かった。そして、不気味なオーラがトランを包み込み始めたのだ。
「…あ…あ…あ…!!」
レッドホークにクロスチェンジしたまま、竜はその場で呆然と立ち尽くす。
「…いいだろう…!!…キミを、…後悔させてあげるよ…ッ!!」
そう言った瞬間、トランの体が眩しい光に包まれ始めたのだ。
「うおおおおおあああああッッッッッ!!!!!!」
トランが甲高く叫び始める。と同時に、その光の中でトランの体が少しずつ成長を始めたのだ。
「…ああ…ッ!!…うわああああああッッッッッッ!!!!!!」
竜も恐怖のあまり悲鳴を上げ、思わず後ずさる。
「ああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!ああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!ああああああああああッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!」
トランの叫び声が徐々に低くなって行き、体が大人の体付きになって行く。
「…あぁ…ッ、…あ…あぁぁ…ッッッ!!!!」
やがて目の前の光が消えた時、竜は更なる恐怖に立ち尽くしていた。
「…我が名は、…トランザ…!!」