ちぎれた翼U 第5話
「…我が名は、…トランザ…!!」
そう言って目の前に静かに立っている男。さっきまで自分の目の前にいた少年と同一人物であることをすら疑わしくなるほど、凛とした佇まい。銀色の髪、紫色の唇。鋭く、獲物を捕らえた野獣のような瞳。
「…あぁ…ッ、…あ…あぁぁ…ッッッ!!!!」
足が竦んだ理由がようやく分かった。嫌な予感が当たったとはこのことだと、レッドホーク・天童竜は思っていた。
「フッ!」
するとトランザが鼻で笑った。
「その顔は、この俺がさっきまでのガキだとは思えないようだな…!」
そう言うとトランザは、竜の方へゆっくりと歩み寄り始めた。
「…くッ、…来るな…ッ!!」
本能がそう呼び掛けている。レッドホークの、鷹のデザインをあしらったマスクの中で、竜は目を見開き、脂汗をたらたらと流していた。
「お前達には感謝するよ。この俺の成長を早めてくれたのだからな!俺は子供扱いされるのが一番嫌いなんだ。その嫌いなことを、お前達ジェットマンとラディゲ、マリア、グレイがしてくれたのだ。そのお陰で、俺は帝王トランザとなったのだ!」
するとトランザは立ち止まり、何かに心酔するかのようにウットリとした表情を見せた。
「…サナギを破り、蝶は舞う。…トランの皮を破った時、このトランザが、天に輝く…!」
その時、トランの左手が、右手に装着しているキーパッドメタルトランサーに手をかけた。
「リボンを付けて返そう、貴様達から受けた屈辱をな…!」
ピッ!!
甲高い音が聞こえ、キーパッドメタルトランサーのボタンが押されたその瞬間だった。
「…んなッ!?…ああッ!?ああッ!!」
竜が素っ頓狂な声を上げ始め、フワフワと宙に舞い始めたのだ。
「バッ、バカなッ!?トランザには指一本触れられていないはず…!!」
突然のことにバランスを取ることも出来ず、手足をブラブラさせながら宙を舞う竜。
「フハハハハ…ッ!!」
その声を聞いたトランザが不意に笑い始める。
「バカめ!俺自身が成長したのだから、俺のサイコキネシスとてパワーアップしているに決まっているじゃないか!」
そう言うとトランザは、再びキーパッドメタルトランサーのボタンを押した。
ピッ!!
再び甲高い音が聞こえた次の瞬間、
バァァァンッッッ!!!!バァァァンッッッ!!!!
と言う何かが爆発する音が聞こえ、
「ああッ!!ああああッッッッ!!!!うわああああッッッッ!!!!」
と言う竜の悲鳴が辺りに響き渡った。レッドホークのバードニックスーツに見えない弾丸が当たり、それが爆発していたのだった。竜の体の到るところから火花が飛び散った。
「ぐわああああッッッッ!!!!」
その時、竜の体が急に軽くなったかと思うと、地面目がけて一気に落下して来た。
「…ククク…ッ!!」
トランザがゆっくりと歩み寄って来る。
「…無様だな、レッドホーク…」
「…クッ…!!」
すると竜は立ち上がり、
「バードブラスターッ!!」
と叫び、右腰に提げていたレーザー銃を放つ。するとトランザは魔剣ボルトランザを取り出すと、
「フンッ!!」
と弾丸を弾き飛ばす。そして、行く当てを失った弾丸は辺りへ飛び散り、そこで爆発する。
「…クッソオオオオッッッッ!!」
我を忘れたかのようにひたすらバードブラスターからレーザーを放つ竜。だがそれはトランザの魔剣ボルトランザによって悉く弾き飛ばされて行く。そして、トランザが竜との間合いをある程度まで縮めた瞬間、
「行くぞッ、レッドホークぅぅぅッッッ!!!!」
と声を上げ、魔剣ボルトランザを振り翳し、物凄い勢いで突進して来たのだ。
「はああああッッッッ!!!!」
「うおおおおッッッッ!!!!」
キィィィンッッッ!!!!
トランザの魔剣ボルトランザと、竜のブリンガーソードがぶつかり合い、鋭い音を立てる。だがその力の差は歴然で、竜はあっと言う間に追い詰められて行く。
「はぁッ!!はぁぁぁッッッ!!」
トランザが目にも留まらない速さで魔剣ボルトランザを振り翳す。そして竜はそれを受け止めることが出来ず、光沢のある赤と白のバードニックスーツがスパークし、爆発が後から後から起きる。
「うわッ!!ああッ!!ああッ!!うわああああッッッッ!!!!」
最後の大きな爆発が起きた瞬間、竜は後方へ吹き飛ばされ、ゴロゴロと転がった。
「どうした、レッドホーク?もう終わりか?」
勝ち誇った笑みを浮かべるトランザ。
「…く…ッ…!!」
この時の竜は、完全に冷静さを失っていた。
「…だ、…だったら…ッ!!」
そう言った竜は、
「ファイヤーバズーカァァァッッッ!!!!」
と叫び、次の瞬間、右手に大きなバズーカを召喚していた。
その時だった。不意にトランザがニヤリとしたかと思うと、
「バカめッ!!俺はそいつを待ってたんだぁッ!!」
と言い、キーパッドメタルトランサーのボタンを押した。
ピッ!!
甲高い音が再び聞こえた瞬間、
「なッ!?」
と言う竜の声が聞こえたような気がした。
何と、ファイヤーバズーカが竜の手から、まるで意思を持ったかのようにすっぽりと離れ、クルリと回転したかと思うと、銃口を竜に向けていたのだ。
「…あ…あ…あ…!!」
レッドホークの精悍な顔付きのマスクの中で、竜の顔が真っ青になる。
「…ククク…!!」
勝ち誇った笑みを浮かべるトランザ。
「…この間のお礼をしてやろう、レッドホーク…!」
「…や、…止めろ…ッ!!」
ようやく口に出た言葉。その声は震え、足が竦みそうになる。ファイヤーバズーカは竜の目の前にあり、そんな至近距離から弾丸を放たれれば、大ダメージを負うことは分かり切っていた。とは言え、トランザから逃れられる術はなかった。子供だった頃の、悪戯盛りの冷酷なトランは最早そこにはいなかった。それよりも遥かにパワーアップし、力の差が歴然としている帝王がそこにはいた。
「…食らうがいい。…俺が経験した、とてつもない恐怖をな…!!」
ピッ!!
甲高い声が聞こえた瞬間、
ドオオオオンンンンッッッッ!!!!ドオオオオンンンンッッッッ!!!!
と、ファイヤーバズーカからのエネルギー弾が竜へ向かって何発も放たれた。
「うわああああッッッッ!!!!ああああッッッッ!!!!ぐわああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!」
激しい爆発が竜を襲い、その爆発音と竜の絶叫が辺り一面に響いた。