ちぎれた翼U 第6話

 

 砂塵が辺り一面に漂い、ゴォォォッ、と言う爆音がこだましている。

「…クククク…!!

 長身の男が、その砂塵を前に低い笑い声を上げていた。黒と白であしらわれた鎧のようなものを身に纏い、その肩から足元にかけては黒いマントが垂れ下がっている。髪は銀色、唇は紫色。その目は切れ長で、どこか妖艶さを浮かび上がらせていた。子供のような出で立ちのトランから急成長を遂げたトランザだった。

「…う、…く…ッ!!…ぐぅ…ッ!!

 やがて、その砂塵が少しずつ晴れて行き、目の前がはっきりとして来る。その中から現れたのは、光沢のある鮮やかな赤色と白色のバードニックスーツに身を包まれたレッドホーク・天堂竜だった。

「…ぐ…ッ、…あぁ…ッ!!

 そんな竜の目の前に、フワフワと宙に浮いているファイヤーバズーカがあった。その光弾が地面に着弾して大爆発を起こし、それに巻き込まれたのであった。

 地面に倒れ伏し、起き上がることさえ出来ない。轟音と爆風をまともに体に浴び、大ダメージを負っていることは間違いなかった。

 親友であるブラックコンドル・結城凱が、目の前にいるトランザの成長前であるトランに弄ばれ、男としての機能を失ってしまった。それに我を忘れ、仲間の制止を振り切ってスカイキャンプを飛び出した。

(…その結果が、…これか…!!

 とは言え、後悔してももう遅い。その時だった。

「どうした、レッドホーク?」

 勝ち誇った笑みを浮かべているトランザ。

「もう一発、ファイヤーバズーカをお見舞いしてやろうか?」

 トランザがそう言った時だった。ウィィィン、と言うエネルギー充填音が聞こえ始め、竜は反射的に体を起こす。目の前にあるファイヤーバズーカの銃口が光っている。

「…くッ!!

 思わず歯軋りする竜。するとトランザはニヤリと笑い、

「…食らえ…!!

 と言った瞬間、ファイヤーバズーカから光弾が放たれた。

「うおおおおッッッッ!!!!

 と言う竜の雄叫びと、

 ドォォォォンッッッッ!!!!

 と言う爆発音が同時に響いた。その瞬間、竜が砂塵の中から高く舞い上がった。

!?

 これにはトランザも驚いたようで、一瞬、怯む。

「行くぞぉッ、トランザぁッ!!

 天高く舞い上がった竜が両腕を左右へ広げた時、その肩から脇に掛けて小さな翼が現れた。ジェットウィングだ。そして、その拳は固く握られていた。

「ウィングガントレットォッ!!

 そして、物凄い勢いでトランザへ近付いた。その時だった。

「…何ッ!?

 物凄い殺気が竜を襲った。トランザの口元がニヤリと歪んだと思った次の瞬間、

 ドゴォォォォッッッッ!!!!

 と言う物凄い衝撃音と共に、

「うぐわああああああッッッッッッ!!!!!!

 と言う絶叫を上げて竜が背後へ吹き飛んだのだ。

「フハハハハッッッッ!!!!貴様の攻撃パターンなど、既にお見通しだッ、レッドホークッ!!

 そう言ったトランザの左手は、右手に装着されているキーパッドメタルトランサーのボタンを押していた。その物凄い衝撃波が、重い鉄球になり、宙を舞い、無防備な竜の腹部へまともにぶち当たったのだった。

「…ぐ、…ぐふ…ッ!!…あ、…が…ッ!!

 腹部を押さえ、地面をゴロゴロと転がる竜。レッドホークの精悍な顔付きのマスクとは裏腹に、マスクの中の竜の顔は蒼白で、目をカッと見開き、口からは涎が垂れていた。

「行くぞぉッ、レッドホークぅッ!!

 その時だった。トランザがボルトランザを振り翳し、身動きの取れない竜へ向かって突進して来たのだ。

「うおッ!!ああッ!!があッ!!

 ボルトランザの剣先がレッドホークのバードニックスーツを切り裂く。

 バアアアンッッッ!!!!バアアアンッッッ!!!!

 ボルトランザがバードニックスーツを切り付けるたびに、そこから火花が飛び散る。

「うおッ!!ああッ!!ぐわあああッッッ!!!!

 まともに抵抗出来ない竜。少しずつトランザに追い詰められて行く。

「どうしたッ、レッドホークッ!!このオレを倒すんじゃなかったのかぁッ!?

 既に勝利を確信しているかのように、トランザが笑いながら竜に切り付ける。

「フハハハハハハッッッッッッ!!!!!!

 ボルトランザの剣先が、容赦なくレッドホークのバードニックスーツに食い込んで行く。そのたびに爆発が起こり、

「ああッ!!ああッ!!ああああッッッッ!!!!

 と竜が悲鳴を上げる。

「はああああッッッッ!!!!

 次の瞬間、トランザが目を見開き、ボルトランザの剣先で竜の体を突いた。

 バアアアアアアンンンンンンッッッッッッ!!!!!!

 眩しい閃光と共に、

「ぐわああああああッッッッッッ!!!!!!

 と言う竜の絶叫が辺り一面に響き渡る。と、その時だった。

 パキィッ!!

 突然、鋭い音が聞こえたかと思うと、

 ガンッ!!ガランッ!!ガランッ!!

 と言う乾いた音も聞こえた。

「…あ、…あぁ…!!

 竜の顔にひんやりとした空気の流れがぶつかる。

「…あ…あ…あ…!!

 ところどころにうっ血の跡があり、その目がきょときょとと忙しなく動いている。

「…クククク…ッ!!

 目の前ではトランザが、竜を見下すかのように侮蔑の眼差しを向けていた。

「…無様だな、レッドホーク…」

 そう言うとトランザは静かに目を閉じた。

「…我がバイラムに刃向かう者が、このように無様だったとはな…!!

 その時、トランザの右足が大きく動き、竜の頭部を捉えた。

「うぐわああああッッッッ!!!!

 物凄い衝撃が竜の頭部を貫く。次の瞬間、竜の体は更に吹き飛ばされていた。

「…ぐは…ッ!!…う、…ぐぅ…ッ!!

 意識が薄れそうになる。目の前がぐらぐらと歪み、回っているようにも見える。と、その時だった。

 ピッ!!

 何度も聞いた、あの忌まわしい音が再び聞こえたと思った次の瞬間、

「うおッ!?ああッ!?ああッ!!ああッ!!うわああああッッッッ!!!!

 と竜は悲鳴を上げていた。

「やッ、止めろオオオオッッッッ!!!!

 竜の体が再び宙に舞っていたのだ。

「…ククク…ッ!!…レッドホークよ、…貴様を更なる地獄へ突き落してやろう…!!

 トランザがそう言った時だった。

「…ああああッッッッ!!!!

 宙を舞っている竜の体が徐々に後方へ引っ張られ始めたのだ。

「…ッ!?

 その時、竜は見た。背後に、スゥッと白い十字架が浮かび上がったのを。

「…ううッ!?うわああああッッッッ!!!!

 悲鳴しか上げることは出来なかった。

 ガシャンッ!!ガシャンッ!!

 次の瞬間、竜はその白い十字架に両手両足をしっかりと拘束されていたのであった。

 

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