ちぎれた翼U 第11話
「…あ…あ…あ…あぁ…ッ!!」
トランザの横に現れた者が実体化した瞬間、レッドホーク・天堂竜は言葉を失った。普段から大きく見開かれている瞳は更に見開かれ、顔は蒼ざめ、今にも飛び出しそうなほどになっている。その体はブルブルと震え、冷や汗が垂れた。
「…ば、…バカ…な…!!」
目の前に現れた者。黒と白、黄色を基調とし、鳥をあしらったエンブレムと胸のVラインが入った上半身。白を基調とし、競泳水着のような形をした黒いパンツに黄色のラインが縁取られている下半身。そして、頭部には黒を基調とし、額の部分にはコンドルを模したデザインが施されたマスクが。
そして、その男の股間部分。あるはずのふくよかな膨らみが見当たらなかったのである。
「…が…ッ、…凱…ッ!!」
戦友であり、親友であるブラックコンドル・結城凱。トランと言う子供の姿だった頃のトランザに、プライドとも言える自身のペニスを執拗に責め立てられ、何度も何度も射精させられ、挙句の果てにはペニスとその下に息づく睾丸をも潰され、ボロボロの姿にさせられた。彼は今、スカイキャンプの医務室で、意識がないまま横たえられていたはず…!
「…ククク…!!」
その光景を見ていたトランザが含み笑いをする。
「どうだ、レッドホーク?感動のご対面だろう?」
「…ウソだ…!!」
体が震える。いや、震えると言う表現を通り越して手足をガタガタと動かし、十字架に磔にされている体が狂ったように動く。
「ウソだッ!!ウソだウソだウソだああああああッッッッッッ!!!!!!」
俄かに信じがたい光景ではある。凱がブラックコンドルの姿で自身の股間を潰された無惨な姿で発見され、スカイキャンプに運び込まれたのを竜は見ていた。凱を診立てた医師が、凱はもう目覚めることはないかもしれない、目覚めたとしても、人間らしい生活が出来るかどうかと言っていたのを聞いていた。
そして、自分がトランザを倒すためにスカイキャンプを飛び出した時も、凱は目覚めることなく、ずっとベッドの中にいたのだから。
「…ト…ラン…ザああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!」
竜の目が怒りに燃える。
「…貴様ああああッッッッ!!!!絶対に許さんんんんッッッッ!!!!俺を自由にしろッ!!正々堂々と戦えええええッッッッ!!!!」
竜が絶叫する。だがトランザは呆れた表情を浮かべ、
「やれやれ。レッドホークは現実も受け入れられないのか…。…哀れなやつだ…!」
と言ったかと思うと、凱の腕を掴み、
「これを聞けば、ここにいるブラックコンドルが本物であると信じてくれるだろうか…?」
と言い、凱の左腕についているコレスポンダーのスイッチを押した。その時だった。
『…たッ、…大変だよおおおおッッッッ!!!!』
コレスポンダーを通して男の声が聞こえる。
「…ら、…雷太…!?」
イエローオウル・大石雷太の声だ。
『…凱が…!!…凱が消えたぁッ!!』
『な、何ですって!?』
ホワイトスワン・鹿鳴館香の声。
『ちょ、ちょっとッ、どう言うことよッ、雷ちゃんッ!?』
ブルースワロー・早坂アコ。
『ちゃんと凱を見ていてねって言ったでしょうがぁッ!!』
『…ぐ…、…ぐるじ…!!』
血気盛んなアコが雷太の首を締め上げているのだろう。雷太の苦しそうな声が聞こえる。
『…ちゃ、…ちゃんと見てたさッ!!…そしたら、…急に凱の体がスゥッと消えたんだよぉッ!!』
その時だった。ドサッと言う音が聞こえたかと思った次の瞬間、
『きゃあああッッッ!!!!香ぃッ!!』
と言うアコの悲鳴。
『かッ、香さんッ!!しっかりしてッ!!』
雷太の慌てふためく声。ショックのあまり、香が気を失って倒れたに違いない。
「…どうだ、レッドホーク?…これでも信じないと言うのかね…?」
ブラックコンドルのコレスポンダーのスイッチを切り、トランザが竜を蔑んだ眼差しで見る。
「…く…ッ!!」
竜が歯軋りをしたその時だった。
「…どうした、…ブラックコンドル…?」
それまでずっと黙っていた凱が静かに歩き出したかと思うと、身動きの取れない竜へ向かって行ったのだ。
「…凱…?」
目の前にいる凱が本物なら、この拘束から外してくれるはず、そんな安心感と、目の前にいる凱が偽者なら、自身の命はない、そんな恐怖とが入り乱れる。心臓がドキドキと高鳴る。
「…竜…」
ブラックコンドルのマスクに付いているバイザー越しに、凱は自分をじっと見ているに違いない。だが、そのバイザーはあまりに曇っていて、中の凱の表情を読み取ることが出来ないでいた。
「…凱ッ!…頼むッ!…コイツを取ってくれッ!!…一緒にトランザを倒すんだッ!!」
だが、次の瞬間、
「断るッ!!」
と言う言葉が、確かにその言葉が、竜の耳を劈いた。
「…え?」
信じがたい言葉。その言葉が聞こえたと思った次の瞬間、激痛が竜の体を駆け抜けた。
「…あ…あ…あぁ…ッ!!」
竜の股間を、凱の右腕が強く握っていたのである。
「…ぁぁぁ…!!」
竜の目が大きく見開かれ、口からは涎が零れた。
「…ああああ…!!…うぅわああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!」
上半身をボロボロに引き裂かれ、戦士の身を守るべきバードニックスーツは本来の機能を既に失っている。それゆえ、ほぼ生身に等しい体にバードニックスーツで力を何十倍もに引き出されている戦士の力が加われば、想像を絶する衝撃が加わることは容易に分かった。
「ひがああああああああああッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!」
悲鳴混じりの掠れ声を上げ、竜が絶叫する。凱のブラックコンドルのグローブの中には、真っ赤なバードニックスーツに包まれた竜の2つの球体が形を大きく変形させて握られていた。
「…どうして…」
凱がポツリと呟いた。
「…どうして、…オレの忠告を無視しやがった…ッ!?」
「…ッ!?」
顔を真っ赤にし、激痛に耐える竜は、その中で凱の声を聞いた。
「…オレは、…もし、お前がトランと対峙することになったのなら、トランを必ず始末しろと忠告したはずだ!!子供だからってなめたらダメだ、ともな!!」
「…あ、…ああああ…ッッッッ!!!!」
凱のグローブがギリギリと握られて行く。
「…だが、お前はトランを見逃した!!そして、トランはトランザになった!!…お前が、トランを追い詰めておきながら止めを刺さなかったからだッ!!」
「ぎゃああああああああああッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!」
竜の2つの球体が不気味な形に歪み始める。その時だった。
「ブラックコンドルッ!!」
不意にトランザが凱を呼び、凱の手の力が緩んだ。
「…ッ!?…はぁ…ッ、…はぁ…ッ!!」
思わず体を前のめりにさせる竜。トランザはニヤニヤと笑っている。
「…そう怒るな。…それよりも…!」
トランザの目がギラリと光った。
「…レッドホークに、快楽を…!」