ちぎれた翼V 第2話
「うぅわああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!」
スカイキャンプで光に包まれ、テレビの中に吸い込まれたイエローオウル・大石雷太。
(…どッ、…どこに繋がってるんだ…ッ!?)
パニックになっていると言うのに、不思議と頭だけは冷静に働く。周りを見ても真っ暗闇で、一寸の光もない。そんな中で、自分の体だけが宙に浮いている感覚は確かにあった。
「…あ…あ…あ…あ…!!」
その物凄い重力に、雷太自身が抱え込んでいるものがとてつもなく重く感じられ、腕が痺れ始める。
「…だ、…だめだ…ッ!!」
いつもだったらすぐに諦めてしまう雷太も、今だけは違っていた。
(ここで手放したら、二度と顔向け出来ないッ!!)
全く光のない中で、雷太はその物体をグッと抱き締めた。
ブラックコンドル・結城凱。次元戦団バイラムの幹部であるトランザにボロボロにされ、意識不明に陥っている凱の体がそこにあった。普通、ボロボロにされれば用済みのはずなのに、トランザはそんな凱を求めて来た。そして、どんな技を使ったのかは分からないが、意識の覚めない凱の体が病室のベッドから浮き上がり、テレビに吸い込まれそうになった。そして、それを止めようとした雷太もそこへ吸い込まれたのだった。
「…あ…!」
やがて、雷太の目の前に薄明かりが見えて来た。
「…な、…何だ、…あれ…?」
地面なのか、それとも雲なのか分からない。真っ白な靄がゆらゆらと揺らめいていた。と、次の瞬間、雷太の視界が急に開けた。
「うわああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!」
目の前に広がる真っ白な靄の海。それが床だと分かった時、
「…ぐ…、…おおおお…ッッッッ…!!!!」
と雷太が唸ったかと思うと、意識の覚めない、ただ落ちて行くだけの凱をしっかりと抱き締めた。そして、
「うおおおおおおおおッッッッッッッッ!!!!!!!!」
と咆えたかと思うと、体をぐりんと捻り、自らが下になった。そして次の瞬間、
ドオオオオンンンンッッッッ!!!!
と言う物凄い音を立てて、雷太は地面に激突したのである。
背面に激しい痛みを覚え、頭を打ち付けた雷太。だが、
「痛ってええええええええッッッッッッッッ!!!!!!!!」
と悲鳴を上げたかと思うと凱の体を横へ置き、ゆっくりと起き上がったのである。
「…あ…、…痛てててて…ッッッッ!!!!」
こんな時、巨漢で良かった、自分の脂肪分がクッションの代わりになって良かったと、まるで自虐的にそう思った。
「…こ、…ここは…?」
雷太は立ち上がると、辺りをきょろきょろと見回した。
ゴウウウン、ゴウウウン…。
何やら地の底から響いて来るような不気味な音。そして、その音がまるでこだまするかのように響き渡っており、雷太は自分がいる場所が空間的にかなり広いところにいるのだと直感で分かった。
…コツ…、…コツ…。
やがて、そんな中にコツコツと言う乾いた音が響き始めたのが分かった。
「!!!!」
そして、その音を立てている者が暗闇の中から現れた瞬間、雷太は目を大きく見開いた。それは向こうも同じだったようで、
「「…お、…お前は…ッ!!」」
と、滑稽だが同時に声を上げていた。
「…トッ、…トランザ…ッ!?」
「…イエロー…オウル…!?」
銀色の髪、紫色の唇の男が普段から大きな目を更に大きく見開いている。
「…おッ、…お前が、…どうしてここに…ッ!!」
「…そッ、…それはッ!!」
雷太は大きく息を飲み込むと、
「…お、…お前がッ、凱を奪おうとするからだッ!!…だッ、…だから、僕はッ、…凱の体にしがみ付いて、…一緒になってテレビの中に吸い込まれた、…ってぇ、…わけだ…ッ!!」
と大声で言うと、体をふんぞり返らせた。
するとトランザは、その光景に暫く呆気に取られていたが、
「…フッ…!!」
と口元を綻ばせた。
「…なッ、…何がおかしい…ッ!!」
懸命に虚勢を張る雷太。
だが、雷太の体はガクガクと震え、心臓は今にも口から飛び出そうなほど、バクバクと高鳴っていた。
「…やぁれやれ…。…己の弱さを知らぬバカは困る…!」
「…だッ、…誰がバカだってえッ!?」
雷太がそう言ったその時だった。その体が不意にグンと後ろへ引っ張られるような気がした。いや、気がした、ではなかった。
(!?)
そして、声を上げる間もなく、雷太は後方へ吹き飛んでいた。
ダアアアアンンンンッッッッ!!!!
と言う鈍い音と共に、
「うぐッ!?」
と雷太が呻く。
「…う、…うぅ…ッ!?」
再び背面に激痛を受け、顔を歪ませてゆっくりと起き上がる雷太。目の前には、自分を蔑んだ目で見つめているトランザが。その右手の人差し指が突き出されていた。
(…あ、…あの人差し指だけで…?)
雷太が呆然としていると、トランザは、
「…フッ…!!」
と再び笑う。
「…所詮、…貴様はレッドホークやブラックコンドルとは違う」
と言うとちょっと困ったような顔をし、
「何故、貴様がイエローオウルに選ばれたのか、俺には全く見当が付かん」
と溜め息を吐き、肩をすくめた。
「貴様のような非戦闘的な人間が、な!」
「ばッ、馬鹿にするなああああッッッッ!!!!」
普段は温厚で弱気な雷太も、この時ばかりは頭に血が上っていた。
「…ぼッ、…僕だって…ッ!!」
そう言うと雷太は右腕に装着されているエンブレムフォーメーションに手を掛けた。そして、
「クロス・チェンジャーッ!!」
と大声を上げた。
その途端、雷太の体が眩しい光に包まれた。
肩から背中にかけて、鳥のようなデザインが施され、背中は黄色一色。尻の部分までが黄色一色で、そこから下は白。その間には黒のラインが入っていた。
正面は黄色と白、黒を基調とし、鳥をあしらったエンブレムと胸のVラインが入った上半身。白を基調とし、競泳水着のような形をした黄色のパンツに黒のラインが縁取られている下半身。それは全てきらきらと輝き、それを着こなしている人間の腕や足、胸などの筋肉を隆々と浮かび上がらせていた。そして、頭部には黄色を基調とし、額の部分にはフクロウを模したデザインが施されたマスクがあった。
イエローオウル。これが、雷太のクロスチェンジした姿だった。
「…ぼッ、…僕だってッ、…ジェットマンなんだッ!!…お前を倒してッ、…竜と凱を返してもらうよッ!!」
その様子に呆気に取られていたトランザだったが、
「…ほう…!」
と言い、目をギラリとさせたかと思うと不気味な笑みを浮かべた。そして、
「…これは、…かなりの上物かもしれんな…!!」
と呟くように言ったかと思うと、紫色の唇を真っ赤な舌でゆっくりと舐め上げたのだった。