ちぎれた翼V 第4話
「…あ…あ…あ…あ…!!」
立ち上がるのが精一杯だった。
トランザの横に立っていたホークコンドル。その真っ黒な全身が灼熱の炎に包まれていたのだ。紅蓮の炎に揺らめくホークコンドルの体。そして、その鋭い眼差しがギラギラと輝いていた。
「お前も知っているだろう?こいつがレッドホークとブラックコンドルのエネルギーをブレンドし、作り出された究極の生命体であることを!」
トランザの目がギラギラと輝いている。
「…や、…止めろ…!!」
雷太の目に涙が滲む。恐怖で足がガクガクと震える。
「そして今、こいつはそのエネルギーを使い、まさに不死鳥、フェニックスへと変貌を遂げたのだ!!」
トランザはそう言うと、
「行けッ、ホークコンドルッ!!イエローオウルを焼き尽くせッ!!」
と叫んだ。その瞬間だった。
ゴオオオオオオッッッッッッ!!!!!!
ホークコンドルの体を纏う炎が一段と激しく燃え上がったかと思った時、ホークコンドルは、さながら巨大なフェニックスとなり物凄い勢いで雷太へ近付き、宙を舞うと雷太を背後から抱きすくめたのである。
「うぐわああああああああああッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!」
雷太の絶叫が、バイロックの暗闇の中に響いた。
ゴオオオオオオッッッッッッ!!!!!!
巨大魔城を揺るがすほどの不気味な轟音と、物凄い熱風が狭いのか広いのか良く分からない空間に広がって行く。
「…あ、…熱いッ!!…熱い熱いッッッッ!!!!熱いイイイイッッッッ!!!!」
雷太がその巨体を必死に動かす。
「放せッ!!放せええええッッッッ!!!!」
イエローオウルの、ふくろうを模したマスクが天を向く。その体が大きく仰け反る。
「…あ…あ…あ…あ…!!」
そのうち、ブスブスと言う音と共に、イエローオウルのバードニックスーツからしゅうしゅうと煙が立ち始めた。そして、次の瞬間、
バアアアアアアアアンンンンンンンンッッッッッッッッ!!!!!!!!ババババッッッッ!!!!ズバアアアアアアアアンンンンンンンンッッッッッッッッ!!!!!!!!
と言う物凄い爆音と共に、そこかしこが発火し、大爆発を起こした。
「ひぎゃああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!」
激しい業火の中で、雷太の絶叫が聞こえて来る。
やがて、ホークコンドルが体を包み込んでいたその炎を、まるでバーナーの栓を閉めるかのようにすぅっと消した。
「…」
そこには見るも無残な雷太の姿があった。
「…あ…あ…、…あぁぁ…!!」
光沢のある鮮やかな白と黄色を基調としたバードニックスーツはあちこちが焦げ、そこからしゅうしゅうとたんぱく質の焦げる臭いと共に煙が立ち上っていた。そして、イエローオウルのフクロウを模したマスクは、そのバイザーの部分が大きく溶け、雷太の目と鼻の部分が見え隠れしていた。
「…う…!!」
そして、雷太の体が力なく崩れ落ち、ドサッと言う音を立てて地面にうつ伏せに倒れた。
パキィィィィンンンン…ッッッッ!!!!
その時、乾いた金属音が聞こえたかと思うと、イエローオウルのマスクが弾け飛んだ。そして、
ガンッ!!パキィィィィンンンン…ッッッッ!!!!
と言う音を立てて粉々に砕け散ったのだった。
「ハーッハッハッハッハ…!!」
トランザの勝ち誇った大きな笑い声が、意識が朦朧としている雷太の耳を劈く。
「素晴らしいッ!!素晴らしいぞッ、ホークコンドルッ!!さすがは憎きジェットマンの一番の戦力とも言えるレッドホークとブラックコンドルのエネルギーをブレンドして作り出しただけのことはあるッ!!」
するとトランザはウットリと恍惚な表情を浮かべたかと思うと、
「…この俺の、…この頭の良さが怖い…!!」
と言った。
「…あ…、…あぁぁ…!!」
その時、トランザから少し離れたところに横たわっていた雷太が声を上げた。
「…トッ、…トラ…ン…ザ…!!」
顔中煤まみれで、トランザを懸命に見上げようとしている。
「…フッ!!」
だが、トランザは余裕の笑みを浮かべると、ゆっくりと雷太へと近付いて行く。そして、雷太の頭元にゆっくりと屈み込んだ。
「…俺が、これはかなりの上物かもしれんな、と言った意味が分かるか?」
「…え…?」
こんな時に何を言っているんだと雷太は思っていた。するとトランザの右手が伸びて来たかと思うと、雷太の大きな尻をグッと掴んだ。そして、ゆっくりと撫で回し始めたのだ。
「…んな…ッ!?」
突然のことに戸惑う雷太。
「…レッドホークやブラックコンドルは筋肉質な体質だった。そのごつごつとした肉付きに、このスーツは妙な感情をそそる。それはそれで素晴らしいものだったぞ。…だが、お前は違う…!」
「…な、…何を、…言って…!?」
トランザのしなやかな指が、雷太のぷりんとした尻を這うように撫でる。
「…んッ!!…んん…ッ!!」
まるで満員電車の中で痴漢行為をされているような感覚に陥る。
「…へッ、…変なこと、…する…なぁ…ッ!!」
顔を真っ赤にし、懸命にその恥辱行為に耐える。
「この弾力性が堪らなく良い。筋肉質な体とは一味違った楽しみ方が出来そうだ」
トランザはそう言ったかと思うと、
パァンッ!!
と言う音を立てて雷太の尻を叩いた。
「痛ッ!!」
雷太は思わず呻く。と、その時、自分の体がふわりと持ち上がったかと思うと、背後からしっかりと羽交い絞めにされた。雷太の両脇の下から見える真っ黒な腕を見た瞬間、その顔が一気に蒼ざめた。
「…や、…止め…!!」
また業火を浴びたりしたら、今度こそ、ひとたまりもない。丸焦げになってしまう。
「案ずるな、イエローオウル」
その時、トランザがフンと鼻で笑いながら言った。そして、
「…貴様が俺の言う通りにすれば、ホークコンドルが再びフェニックスになることはない…!」
と言いながら、雷太の体をそのしなやかな指で撫で始めた。
「…なッ、…何を…ッ!?」
雷太が再び震え始める。
「…ああ…」
いつの間にか、トランザがウットリとした表情を見せていた。
「…レッドホークやブラックコンドルとは違った、この体の弾力性…。…埋めたくなる…!!」
そう言ったかと思うと、トランザは顔を雷太の胸に埋めたのだ。
「…なッ、何やってんだよッ、トランザあッ!?」
あまりに突然のことに、悲鳴に似た大声を上げることしか出来ない。銀色に伸びたトランザの髪の毛が、雷太の顔をさわさわと淫猥に撫でて行く。
「…ああ…!」
そんな雷太にお構いなしに、トランザはウットリとした表情を見せ続ける。
「…この弾力性、…この温もり…。…これもまたいい…!」
その時、トランザが急に動いたかと思うと雷太と間合いを取り、真剣な眼差しで雷太を見つめていた。だがそれも束の間、ニヤリと不気味な笑みを浮かべたかと思うと、
「決めたぞ!貴様を俺のコレクションに加えてやる!」
と大声で言ったのだった。