ちぎれた翼V 第7話
「…俺を更に怒らせたこと、身を以って後悔させてやるぞ…ッ!!」
トランザの目付きが明らかに違っていた。
それまでは目の前でブルブルと震えていたイエローオウル・大石雷太を侮蔑、あるいは憐みの目で見ていたのが、今では怒りに燃え、その目が大きく見開かれている。
ブラックコンドル・結城凱のようにトランザの手によって雷太自身の大切な部分を握り潰され、使い物にならなくさせられるか、レッドホーク・天堂竜のようにトランザへ服従し、快楽を貪る犬に成り果てるか、はたまた、今、雷太を羽交い絞めにしているホークコンドルに焼き尽くされるか、どれかを選べと究極の選択を迫られた。だが雷太は、
「…僕は…ッ!!…僕は…ッ!!…ジェットマンなんだああああッッッッ!!!!」
と全力でその選択を拒否した。
凱も竜もある意味、トランザの人質に取られていた。そんな2人に続いて雷太自身まで無様な姿は曝け出せない。それは言い換えれば、雷太自身の精一杯の強がりとほんの小さな勇気でもあった。
だがそれは、勝利を確信し、自分の頭の良さに酔い痴れていたトランザのプライドをいとも簡単に傷付けたのは言うまでもなかった。
「やれッ、ホークコンドルッ!!」
怒りに血走った目をギラリと光らせて、トランザが雷太の背後にいたホークコンドルに命令した。
その時だった。
イエローオウルにクロスチェンジしている雷太の体が急にふわりと持ち上がったのだ。
「うわわわわああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!」
雷太は突然のことに足をバタバタとさせながら宙高く浮かんで行く。
「…はッ、…放せッ!!…放せったらああああッッッッ!!!!」
言ってからはっとなった。
(…そ、…そう…だった…)
今、雷太の体を覆っているバードニックスーツは、バードニックスーツとしての機能を持ち得ていない、ただのボロきれに近いものだった。顔を守っていた、ふくろうのデザインを模したマスクが破壊され、バードニックスーツのメインコンピューターを破壊されていたからだ。
「…い、…嫌だ…!!」
俄かに弱腰になる雷太。と、その時だった。
「はああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!」
足元にはトランザがボルトランザを雷太へ向けた。その瞬間、そこから無数の光の矢のようなものが放たれた。
パンッ!!パパパパッッッッ!!!!パアアアアンンンンッッッッ!!!!
それらは雷太のバードニックスーツに突き刺さり、小気味良い音を立てた。
「んんッ!?」
それらが雷太のむっちりとした体に突き刺さった時、チクチクとした感触を雷太に与えただけだった。
「…なッ、…何を…ッ!?」
その時、雷太は見た。トランザがニヤリと不気味な笑みを浮かべ、右腕に装着しているキーパッドメタルトランサーに手をかけた。
「…ま、…まさ…か…!?」
雷太の顔が真っ青になる。そして、
ピッ!!
と言う、竜も凱も聞いたあの忌まわしい音が雷太にも聞こえた。と、次の瞬間、それらの光の矢が更に輝きを増したかと思うと、
バアアアアンンンンッッッッ!!!!バアアアアンンンンッッッッ!!!!ババババッッッッ!!!!ズバアアアアンンンンッッッッ!!!!
と言う物凄い音を立てて爆発したのである。
「うあッ!?ああッ!?ああッ!!ああッ!!」
そのたびに雷太の体に激痛が走る。そして、その爆発音に合わせるかのように雷太が悲鳴を上げる。
ズガアアアアアアアアンンンンンンンンッッッッッッッッ!!!!!!!!
最後の衝撃が雷太の体を貫いた瞬間、
「ぐわああああああああああああッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!」
と、雷太が甲高い絶叫を上げた。その時、雷太を持ち上げていたホークコンドルがぱっとその腕を離した。その瞬間、無防備になった雷太の体は、魔城バイロックの床へと激突したのだった。
「…ぐ…、…うぅぅ…!」
床に激突した瞬間、雷太は体をブリッジするがごとく大きく仰け反らせた。
「…あ…、…が…!!」
激しい衝撃に呼吸もまともに出来ない。その時、ゆっくりとトランザが雷太のもとへ歩いて来ているのが視界に入った。
「…く、…っそおおおおッッッッ!!!!」
気力を振り絞り、何とかして体を起こすと、
「うおおおおおおおおッッッッッッッッ!!!!!!!!」
と雄叫びを上げ、トランザに突進して行ったのだ。
「バカめッ!!同じ手は食わぬわッ!!」
トランザはそう言うと、
「ホークコンドルッ!!」
と、頭上で事の成り行きを見守っていたホークコンドルを呼んだ。
ヒュッ!!
風を切る音が聞こえたと思った次の瞬間、
バシイイイイッッッッ!!!!
と言う衝撃音と共に、雷太の体が吹き飛んでいた。ホークコンドルの大きな翼が、雷太を跳ね飛ばしていたのである。
「うわああああッッッッ!!!!」
跳ね飛ばされ、ゴロゴロと転がる。
「…く、…くそ…ッ!!」
急いで立ち上がるも、その時には、ホークコンドルは既に雷太の目の前にいた。
バシイイイイッッッッ!!!!
と言う衝撃が相次ぐ。
「うぐッ!!」
「うわッ!!」
「うわああああッッッッ!!!!」
何度も何度も跳ね飛ばされ、何度も何度も転がる雷太。だが、それでも懸命に立ち上がり続けるのは、雷太の、ジェットマンとしてのプライド、その小さな勇気が心に宿っていたからだ。そして、
「うおおおおおおおおッッッッッッッッ!!!!!!!!」
と再び雄叫びを上げたかと思うと、グッと腰を落とし、足を踏ん張った。そして、
「うおおおおおおおおッッッッッッッッ!!!!!!!!」
と再び咆えたかと思うと、物凄い勢いで突進して来るホークコンドルを受け止めたのである。
「なッ、何ッ!?」
これにはトランザも驚いて声を上げた。
「ふんぬううううううううッッッッッッッッ!!!!!!!!」
ホークコンドルを受け止め、やや後ろへ後ずさる。
「…さっきまでの、…お返し…だああああッッッッ!!!!」
雷太はそう言うと、ホークコンドルを持ち上げ、
「はああああッッッッ!!!!」
と言う気合いと共に上空へ飛び上がった。そして、
「食らえええええッッッッ!!!!岩石落としイイイイッッッッ!!!!」
と、ホークコンドルを地面へ投げ落としたのである。
ドオオオオンンンンッッッッ!!!!
不意打ちを食らったホークコンドルは為す術もなく地面に叩き付けられ、不気味な悲鳴を上げた。
「…おッ、…おのれええええッッッッ!!!!」
怒り狂ったトランザが目を大きく見開き、ボルトランザを握り締めた。その手がブルブルと震えている。
「…このままでは、…済まさぬ…ッ!!…我がプライドを傷付けた、…あのイエローオウルを…ッ!!」