ちぎれた翼V 第8話

 

「…はぁ…ッ、…はぁ…ッ…!!

 イエローオウルにクロスチェンジしている雷太。フクロウを模ったマスクは完全に消え去り、その顔がはっきりと見えていた。

「…はぁ…ッ、…はぁ…ッ…!!

 煤に黒ずんだ顔には汗と涙が浮かび、メガネの奥のつぶらな瞳は呆然と目の前のものを見ていた。

「ええいッ、どけッ!!この役立たずがッ!!

 目を大きく見開き、血相を変えているトランザ。その銀色の髪が怒髪天のように逆立って見える。そして、トランザの目の前でギャッギャと不気味な声を上げていたホークコンドルを思い切り蹴飛ばした。

「…おッ、…おのれええええッッッッ!!!!…この、…くたばり損ないがああああッッッッ!!!!

 大声を上げ、

「うわああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!

 と、トランザはボルトランザを振り翳し、雷太に突進して来た。

「…く…ッ!!

 正直に言えば、今の雷太には絶体絶命の状況だった。散々ダメージを受け、ボロボロになっていた雷太に突進して来たホークコンドルを渾身の力で投げ飛ばした。それが最後の力だったのだ。

「うおおおおおおおおッッッッッッッッ!!!!!!!!

 そんなことは全く知らないトランザが狂った勢いで飛び掛って来る。そして、

「いやああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!

 とボルトランザの鋭い切先を雷太のむちっとした腹部に突き刺したのだ。その途端、

 バアアアアアアアアンンンンンンンンッッッッッッッッ!!!!!!!!

 と言う爆発音と共に、雷太のイエローオウルのバードニックスーツがスパークした。そして、

「うわああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!

 と雷太が悲鳴を上げて背後へ倒れる。

「おのれッ!!おのれッ!!おのれええええええええッッッッッッッッ!!!!!!!!

 ボルトランザを叩き付けるように雷太にぶつけるトランザ。そのたびに、

 バアンッ!!バアンッ!!バアアアアンンンンッッッッ!!!!

 とバードニックスーツがスパークする。

「ああッ!!ああッ!!ああッ!!

 頭を叩き割られたらかなわない。雷太は両腕で頭だけは必死に守っていた。

「…はぁ…ッ、…はぁ…ッ!!

「…はぁ…ッ、…はぁ…ッ!!

 いつの間にか、雷太だけではなくトランザも大きく息をしていた。

「…はぁ…ッ、…はぁ…ッ!!

 その時、トランザの目元が歪み、口元にニヤリと不気味な笑みを浮かべたかと思うと、

「…ハァァァ…!!

 と笑いとも呼吸とも取れない、何とも言えない声を上げたのである。

 トランザの視線の先にあったもの。雷太のむちっとした胸にある2つの突起。

「…え?」

 不意にトランザの右足が動いたのを見た雷太は声を上げた。その途端、

 ドスッ!!

 と言う音を立てて、トランザのその右足が雷太のこれまたむちっとした腹部に減り込んだのである。

「…ぐふ…ッ!?

 突然の衝撃に、雷太の体が思わずV字に折れ曲がる。

「…がは…ッ!!

 息が詰まり、雷太は思わずむせ返った。そして、頭上のトランザを見上げた瞬間、雷太はぎょっとした表情を見せた。

「…フッ!!

 トランザがキザったらしく、銀色の髪をそのしなやかな指で掻き上げていたのだ。

「…いかんいかん…。…俺としたことが、ついつい、我を忘れてしまった…!」

 トランザはそう言うと雷太の腹部に減り込んだ右足を離した。そして、

 ピッ!!

 と言うあの忌まわしい音と共に、キーパッドメタルトランサーを操作した。その途端、

「うわッ!?わわわわッッッッ!!!!!!??

 と言う素っ頓狂な声を上げて、雷太が宙にふわふわと浮き始めたのである。

「アハハハハハハハハッッッッッッッッ!!!!!!!!

 トランザは今度は高笑いを上げて、ふわふわと宙を浮き上がる雷太を見ている。

「…止めろ…!!

 トランザの目を見た途端、雷太は恐怖に慄いた。

 トランザの目。それはトランザと言う大人の目ではなく、トランと言う子供の頃のキラキラとした目をしていたのだ。

 無理もない。トランザはトランが子供から大人へ急成長した姿だ。その姿は大人だったとしても、心や考え方は子供のままだと言っても良かった。欲しいものは何でも手に入れ、気に入らないものはバッサリと切り捨てる。わがままな子供そのものだった。

 そして今、雷太を見るトランザの目は、目の前にあるイエローオウルと言う玩具をどうしようか、いや、既にやり方は決まっていて、しかも、残虐なやり方で雷太を甚振ろうとしていることは間違いなかった。

「…止めろオオオオッッッッ!!!!止めてくれええええッッッッ!!!!

 雷太がそう叫んだ時だった。

 不意に雷太の体がグンと下へ引っ張られるような感覚がして、次の瞬間、

 ドオオオオンンンンッッッッ!!!!

 と言う物凄い音を立てて、雷太は床に叩き付けられていた。

「…うぐ…ッ!?

 突然のことに、何が起こったのか、一瞬では理解出来なかった。だが次の瞬間には、雷太の体は再び宙へ舞い始めたのである。

「…や、…止め…ッ!!

 声を上げる間もなく、再び体が下へ引っ張られるような感覚がして、

 ドオオオオンンンンッッッッ!!!!

 と言う音を立てて床に叩き付けられた。

「…う…ぐ…あ…ッ!!

 あまりの衝撃に声を上げることすらままならない。

「…ククク…!!

 目の前ではトランザが目をギラギラと輝かせて雷太を見ている。

「…まだまだだ、…イエローオウル…!!

 フワフワ、ドオオオオンンンンッッッッ!!!!

 フワフワ、ドオオオオンンンンッッッッ!!!!

 その衝撃が何度続いただろう。

「…う…わぁ…ああああ…ッッッッ!!!!

「…うぐ…ッ!!…ぐ…うううう…ッッッッ!!!!

「ああああああああああああああああッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!

 何度目か床に叩きつけられた時、絶叫を上げて雷太は床に大の字に寝転がった。

「…」

 その目は虚ろで、どこを見ているのかも分からない。

「…ククク…!!

 その時、ゆっくりとトランザが近付いて来た。

「…さぁ、…イエローオウル…!」

 トランザが雷太の目の前にしゃがみ込む。

「…ここからは、…お前に夢を見せてやるとしよう…!」

「…」

 ぐったりと横たわり、声を上げることも出来ない雷太の頬に、一筋の涙が伝った。

 

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