ちぎれた翼V 第12話

 

「…ちゃんッ!!…雷ちゃんッ!!

 真っ暗闇の中、自分を呼ぶ声が聞こえる。

「…誰…?」

 少しずつ意識がはっきりして行き、目が覚める。

「…え?」

 ぼんやりとする意識の中、雷太は自分を疑った。

「…ここ…は…?」

 冷たく硬い床、真っ白な天井。そして目の前、いや、正確には頭上には幼さを残す女性が覗き込んでいる。ブルースワロー・早坂アコだ。

「大丈夫ッ、雷ちゃんッ!?

 アコが雷太の背中に手を入れ、巨漢の雷太をゆっくりと起こす。

「…ここは、…スカイキャンプ…?」

「ちょっとぉッ!!しっかりしなさいよッ、雷ちゃんッ!!

 そう言うとアコは、雷太の背中をバンッ、と音を立てて叩いた。

「あ痛ッ!!

 その痛みでようやく意識がはっきりする。

「…ア、…アコさんッ!?

 はっとなって視線を遠くへやる。するとそこには、雷太を呆然と見つめ、おどおどとしているホワイトスワン・鹿鳴館香が座り込んでいた。

「…ぼ、…僕…、確か、モニターの中に…!」

 そうなのだ。

 あの時。

 意識が覚めないブラックコンドル・結城凱を貰い受けようと、トランザが特殊な能力で凱の体をテレビの中へ引き摺り込もうとしたその瞬間、咄嗟に凱の体にしがみ付き、その反動で自分も一緒に吸い込まれたはずだったのに…!

「ちょっとぉ、本当に大丈夫、雷ちゃん?頭でも打ったかな?」

 アコはそう言うと、雷太の大きな頭をペチペチと叩き始めた。

「痛ッ!!い、痛いよッ、アコさんッ!!

「さっきからどうしたんですの、雷太さん?」

 今度は香がやや顔を引き攣らせながら雷太に尋ねる。

「…ど、どうしたもこうも…!!

 それだけ言うと雷太は立ち上がり、

「もうッ!!香さんもアコさんもッ、しっかりしてよッ!!トランザが、凱もコレクションに加えるって言って、そこのモニターの中に引き摺り込んだんじゃないかあッ!!

 と言った。すると香とアコがお互いに顔を見合わせていたかと思うと、いきなり笑い始めたのである。

「…え?…え?」

 当然、きょとんとする雷太。するとアコが、

「…ちょ、…ちょっとぉ、雷ちゃん…ッ!!…何言ってんのよぉッ!!

 と目に涙を溜めて言った。

「…そ、…そうですわ…!…凱なら、…そこにいますわよ…?…まだ、…意識は覚めませんけど…」

 そう言うと香は、ガラス1枚隔てた向こうの、真っ白なベッドの上に横たわっている凱を見て、寂しそうに微笑んだ。

「…あ、…あれ…?」

 目を疑った。確かに、ガラス1枚隔てた向こうの部屋には、ピッ、ピッ、と言う音を立てる器具を体中に取り付けられたブラックコンドル・結城凱が静かにベッドに横たわっていた。

 いや、確かに自分は、凱と一緒にモニターに引き摺り込まれ、トランザの根城であるバイロックに拉致され、そこでされやこれやと執拗な陵辱を受けたはずなのに…!

(…夢…だったのか…?)

 何とも変な気分の雷太。

「…とッ、とにかくッ!!…いつトランザが襲って来るか分からないんだから、気を抜いちゃダメだよッ!?

 それだけ言うと、雷太はその部屋を抜け出した。

 

「…おっかしぃなぁ〜…」

 どうにも腑に落ちない雷太。

「…僕は確かに、バイロックに引き摺り込まれて、…それで…、…そ、…それで…!!

 考えれば考えるほど、顔が熱くなる。そして、悔しさが込み上げて来る。

「…くっそぉぉぉぉ…ッッッッ!!!!

 正直に言えば、トランザにバカにされていた。バカにされながら、男としての象徴であり、プライドとも言えるべきペニスを弄られ、そして、トランザの目の前で射精させられていた。

「…うああ…ッ!!

 思い出すだけでも鳥肌が立つ。

(…恥ずかしい…ッ!!…でも…)

 その時だった。

 ドクンッ!!

 突然、雷太の心臓が大きく高鳴った。

「…ッ!?

 それに一瞬、息が詰まる。

「…んな、…な…ん…だ…ッ!?

 突然、体が熱を帯びたように熱くなり、息苦しくなる。

「…はぁ…ッ、…はぁ…ッ!!

 息が出来ないほどに心拍数が上がり、苦しくなる。

「…う…あぁぁ…!!

 あの時の光景、トランザにネチネチと自分の体を舐められたり、自身のプライドとも言えるべきペニスと、その下に息づく2つの球体を弄られたあの時のことを思い出すだけで体が熱くなり、息苦しくなった。

 そして。

「…あ…あ…あ…あ…!!

 サスペンダーに吊るされた雷太のジーパン。その中心に息づく雷太の男としての象徴。それが今、ジーパンの中で大きく勃起し、雷太に痛みを与えていたのである。

「…ぼ、…僕…ッ!!…た、…勃ってる…ッ!?

 信じたくない光景があった。

「…どッ、…どうして…ッ!?…あ、あんなに恥ずかしいことをされたのに…!!…あんなにプライドをズタズタにされたのに…ッ!!

 雷太のペニスがドクンドクンと脈打つ。そして、

 グチュッ!!

 と言う音を下着の中でさせていた。慌ててズボンのボタンを外し、ファスナーを下ろす。その途端、

「…うああ…ッ!!

 と雷太は声を震わせた。

 …グチュッ!!…グチュッ!!

 体を動かすたびに、雷太の大きく勃起したそこが音を立てる。

「…そ、…そんな、…バカな…!!

 雷太の大きく勃起したペニス。その先端部分には淫猥な液体が溢れ出し、下着をぐっしょりと濡らしていたのだ。

「…うう…ッ!!

 そのおぞましい光景に、雷太は目をギュッと閉じた。そして、

「うわああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!

 と叫び、ベッドに突っ伏したかと思うと、布団をかぶり、その中で大きな体を丸めるようにした。

「…僕は…、…僕は…ぁ…ッ!!

 その時だった。

「…ククク…ッ!!

 その低い声に、体が凍り付く。

「…いかがかな?…俺の超魔術は…!?

 そう言う声が聞こえたかと思った次の瞬間、布団が捲くられ、目の前にはトランザのギラギラとした笑みがあった。

「…ひぃ…ッ!!

 小さく悲鳴を上げた雷太。そして、

「うわああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!

 と叫び、布団を跳ね除けた。

「…あ、…あれ?」

 だが、そこにはトランザの姿はどこにもなかった。

「…夢…?」

 雷太は頬を抓ってみる。だがすぐに、

「痛てッ!!

 と声を上げた。

「…夢じゃ、…ない…?」

「そうだ。夢ではないぞ?」

 背後からそう聞こえ、雷太の体に思わず鳥肌が立つ。

「うわああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!

 雷太は悲鳴を上げ、ベッドからどすんと落ちた。

「…あ…あ…あ…あ…!!

「クックックック…!!

 目の前に笑いを浮かべて立っているトランザ。

「…さぁ、…イエローオウル…。…お前を迎えに来てやったぞ…!!

 トランザがそう言った瞬間、辺り一面、眩しい光に包まれた。

 

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