おばあちゃんの悪知恵袋 第1話
「ダンンンンンッッッッ!!!!」
また始まった、と他の仲間達は思っていた。
とあるマンションの地下。その2000m下にある不思議な空間。地下なのにオーロラが煌めき、そこに湖がある。その上に浮かんでいる神殿。そこから若々しい少年のような怒鳴り声が聞こえていた。
「もうッ、いつも言ってるだろうッ!?出したものは出しっ放しにしないでちゃんと片付けろよッ!!」
「ゴミもそこら辺に放置しないで、ちゃんとゴミ箱に捨てろよッ!!」
「ああッ、もうッ!!脱いだ洗濯物はちゃんと洗濯しろよッ!!」
朝から晩まで聞こえる怒鳴り声。それに対して決まって返って来る、
「そぉんなの、いちいち、気にすんなよ!」
と言う呑気な声。若々しい怒鳴り声よりやや大人な声だろうか。
「別に今すぐやらなくたって、死にゃあしねえよ!」
「あのねえッ!!他の人に迷惑だろッ!?見た目の問題なんだよッ!!」
「見た目ぇ?」
その全体的に青を基調とした服を身に纏い、額には青いはちまきのようなものを巻いている。その男の子は周りをぐるりと見回すと、
「見た目を気にするようなヤツは、ここにはいねえよ!」
と言った。すると、さっきから怒鳴っている、全体的に黄色を基調とした服を身に纏っている男の子が更に顔を真っ赤にし、
「いるじゃないかッ!!メイは女の子なんだぞッ!?」
と、遠くで顔を赤らめ、泣きそうな顔をしている女の子を指さして言った。
「全くッ!!僕よりも年上なのにッ、やることはみんな子供なんだから…!!」
そう言った時だった。
「あ゛あ゛んッ!?」
不意に呑気に構えていた男の子の声が険しくなり、
「おい、ボーイッ!!誰が子供だよッ!?子供のお前に子供呼ばわりされたくないねッ!!」
と眉間に皺を寄せて、ボーイと呼ばれた黄色を基調とした服を身に纏っている男の子に突っ掛かる。だがボーイも負けじと、
「ダンは僕よりも子供じゃないかッ!!当たり前のことが全く出来ないんだからッ!!あ〜あ、困ったものだねえ…」
と、ダンと呼ばれた青色を基調とした服を身に纏っている男の子を小バカにするように言った。
「何だとおおおおッッッッ!!!?冗談じゃねえよッ!!」
カッとなったダンがボーイに拳を振り上げる。だがすぐに、
「…フッ!!」
と笑い、髪をかき上げると、
「いけねえいけねえ。オレはボーイと違って、大人だからッ!!つい、お子ちゃま相手にカッとなっちまったぜ!」
と、わざと“大人”の部分を声を大にして言うと、
「お前、オナニーとかぱふぱふとか知ってるのか?」
と聞いた。その言葉に、さっきから事の成り行きを見守っている大人2人と、遠くで涙目になっている少女は大きな溜め息を吐いた。その時だった。
「そッ、そんなことくらいッ、知ってるよッ!!」
ボーイが顔を真っ赤にして怒鳴る。するとダンはふぅんと言う顔をし、ニヤリとして、
「じゃあ、ボーイぃ。これは知ってっか?」
と言うと、ボーイの右手を掴んだ。そして手のひらを上に向けさせると、そこに何やら指で文字を書き始めたのだ。
「…せ…、…っ…、…く…す…?」
きょとんとするボーイ。その顔を見た途端、ダンは、
「ほらあ!ボーイはやっぱりまだまだお子ちゃまだねッ!!」
と言うと、スキップしながらその場を離れたのだ。
「あッ!!ちょ、ちょっとッ、ダンンンンンッッッッ!!!!」
ボーイの声が地下神殿の中に響き渡った。
地下2000mにある不思議な空間の湖に浮かぶ神殿。そこには5人の若者が住んでいた。
さっきから喧嘩をしている全体的に黄色を基調とした服を身に纏っている男の子はボーイ、15歳。15歳とは言え、古代民族であるダイム族のナイトであり、希望の戦士である。元気かつ律儀で、メンバーの中で最年少ながら戦士としての意識も高い。
そして、そんなボーイに相対していた全体的に青色を基調とした服を身に纏っている男の子がダン、19歳。エトフ族ナイトであり、勇気の戦士である。斜に構えたところもあるが陽気なお調子者で、ムードメーカー的な一面も持つ。
そんな2人を顔を真っ赤にして泣きそうになりながら見ていたのがメイ、17歳。ピンク色を基調とした服を身に纏っているリシヤ族プリンセスで愛の戦士。心優しい性格で純粋。
そして、ダンとボーイと言う年下2人組が喧嘩をしていても遠くから見ていることしかしない大人2人組。赤色を基調とした服を身に纏っているゲキ、24歳はヤマト族プリンスで正義の戦士。優れた剣術と真っすぐな性格の持ち主であり、正義に燃える熱血漢のリーダー。
そして、そんなゲキを、いや、全員を支える最年長で、黒色を基調とした服を身に纏っているゴウシ、27歳。シャーマ族ナイトで知恵の戦士。冷静沈着で感情をあまり表に出さないが、本質は自然や子供を愛する穏やかで心優しい人物。
実は彼らには特殊な能力が備わっていた。それは全員のベルトのバックルに填め込まれたダイノメダルと呼ばれるメダルを使い、強化変身することが出来るのだ。
「「「「「ダイノ・バックラーッッッッ!!!!」」」」」
そのメダルにはそれぞれの守護獣と呼ばれる恐竜がデザインされており、それに合わせて、5人は体にぴったりと密着する光沢のあるスーツを身に纏う。ゲキは赤色のティラノレンジャー、ゴウシは黒色のマンモスレンジャー、ダンは青色のトリケラレンジャー、ボーイは黄色のタイガーレンジャー、そして、メイはピンク色のプテラレンジャーに変身する。
「ねえッ、ゲキッ!!ゴウシッ!!」
ダンがスキップしながらその場を離れて暫くした頃、怒りが収まらないボーイが“大人2人組”のところへやって来た。そして、
「“せっくす”って何ッ!?」
と大声で言い放ったものだから、呑気にお茶を飲んでいた“大人2人組”は盛大にお茶をぶちまけた。
「ねえねえッ!!“せっくす”って何ッ!?ねえってばッ、ゲキッ!!ゴウシッ!!」
そんなことは丁寧に説明することだろうか。おまけにそばにいたメイが更に泣きそうな表情を浮かべている。顔を真っ赤にし、モタモタとしている“大人2人組”を見たボーイは、
「…ゲキとゴウシなら、…教えてくれると思ったのに…」
とがっかりしたような表情を見せた。だがすぐに、
「もうッ、いいよッ!!2人に聞いた僕がバカだったよッ!!」
と怒鳴ると物凄い勢いで神殿を飛び出して行った。
「おばあちゃああああんんんんッッッッ!!!!」
神殿の近くにはぽつんと小さな小屋が1軒建っている。寂れた家屋と言ってもいいだろうか。だが、そこにはちゃんと人が住んでいる気配があった。
「おばあちゃんッ!!バンドーラおばあちゃああああんんんんッッッッ!!!!」
ボーイはその小屋の前に立ち、入口の扉をドンドンと叩いた。
「はいよ〜!!」
すると中から女性の皺枯れた声が聞こえ、ゴトゴトと音がしたかと思うと、ガチャリと扉が開いた。
「おや、ボーイじゃないか!今日も元気だねえッ!!」
老婆にしてはやけに化粧が濃く、大きな瞳に長いまつ毛がピンと伸びている。その両手にはたくさんの宝石が飾られ、頭の上には2本の長い角が伸びていた。
するとボーイは、
「何ッ!?おばあちゃんまで僕が子供だって言いたいのッ!?」
と食ってかかる。するとバンドーラは、
「とぉんでもない!アタシャ、そんなこと、一言も言っちゃいないよ!」
と目を大きく見開いて言うと、
「で?今日は何だい?」
とボーイに尋ねる。するとボーイは、
「聞いてよッ、おばあちゃんッ!!ダンったら酷いんだ…!!」
と、バンドーラに話し始めたのだった。