おばあちゃんの悪知恵袋 第2話
「アーッハッハッハッハ…!!」
小さな小屋の中から盛大な笑い声が聞こえて来た。
「ヒャーッハッハッハッハ…!!…ヒィーッヒッヒッヒッヒ…!!」
バンドーラが顔をクシャクシャにして笑い転げている。
「…こッ、…これは…ッ!!…傑作…だねええええ…ッッッッ!!!!…プク…ッ!!…アヒッ!!…ヒヤアアアアッハッハッハッハ…!!」
キラキラと輝く瞳。その周りをこてこての厚化粧で覆っている。その化粧が崩れるのではないかと言うほどに馬鹿笑いをして涙を零している老婆・魔女バンドーラ。
「…ヒィ…ッ!!…ヒィィィィ…ッッッッ!!!!」
腰を90度に折り曲げ、部屋中のあちこちのものをバンバンと叩き、顔を真っ赤にして息苦しそうにしている。
「…もぉぉ…。…笑い過ぎだよぉ、…おばあちゃあん…!」
そんなバンドーラの横で、ボーイがしゅんとしながら言い、息苦しそうにしているバンドーラに水を差し出しながら、その背中を擦る。
「…ヒィ…ッ!!…ヒィ…ッ!!」
グビグビと音を立てて水を飲み干すと、
「…ッ、ああ〜…。…死ぬかと思ったぁ…!!」
と、バンドーラはようやく落ち着きを取り戻したかのように言った。
「…アタシャ、まだまだ死ねないからねぇ…。…まぁ、確かに高齢でお迎えが近いかもしれないけど、アタシャ、まだまだ死ねんよ…ッ!!」
「って言うか、そんなに笑わなくたっていいだろう?…いくら、僕がお子ちゃまだからってさぁ…!!」
ぶすっと膨れて下を向いてしまうボーイ。するとバンドーラは、
「…おや…。…アタシャ、ボーイのことを笑ったわけじゃないんだよ?」
と言ったのだ。
「…え?」
意地悪く笑っているバンドーラ。
「アタシが笑ったのはダンのことだよ!」
「ダンの?」
ボーイがきょとんとする。するとバンドーラはコクンと頷き、部屋の奥から何かを取り出した。
「こんなのを見てオナニーばっかりしているチェリーボーイが、何を偉そうなことを言っているだって思ったら笑えて来ちゃってね…。…お前も知ってるだろ?ダンは女の子を見れば鼻の下を伸ばすだけで、実際に手も握れないのを!」
「…あ…」
ボーイにも記憶がある。確かに、ダンは女の子には弱いくせに、実際には手も握れないのを。それよりも、
「…それ、…何?」
と、バンドーラが手にしているものを見て、ボーイが尋ねた。
「これかい?」
バンドーラはニヤリと笑い、
「ボーイ、お前も見てみるかい?」
と言うと、テレビの下にあった箱型の機械をセットした。そして、あるスイッチを押した途端、テレビに何かが映った。
「…うわ…ッ!!」
それを見た途端、ボーイが目を大きく見開き、その場に固まる。
「…フフッ!!」
テレビに映し出されていたもの。1組の全裸の男女が体を重ね合い、揺り動かしている。そして、それに合わせるかのように女性が嬌声を上げていたのだ。
「ボーイ。これがセックスと言うものさ!!」
「…」
無言のまま、画面を見続けるボーイ。
「セックスって言うのは、男女が愛を確かめ合う行為のことさ。愛を叫び合い、お互いの気持ちを高めて絶頂へ達する。そして、男性は女性の体の奥深くへ自身の精液を注ぎ込む。そして、それが女性の卵子と結合すると、妊娠して、赤ん坊が誕生するって仕組みさ!…おや?」
その時、バンドーラは目を見開き、苦笑すると、
「…おやおや…。…ボーイには刺激が強すぎたかねぇ…!」
と言うと、ボーイにティッシュを差し出した。
「…う…う…う…う…!!」
ボーイは顔を真っ赤にし、鼻を押さえていた。そこから鮮血が溢れ出していたのだった。
「大丈夫かい?」
暫くしてボーイが落ち着きを取り戻すと、バンドーラはボーイに温かいスープを差し出した。
「…う、うん…。…ありがと…」
鼻に突っ込まれた紙縒りが滑稽でならない。ぼんやりとした瞳を投げ掛けたまま、ボーイはバンドーラが差し出したスープを飲んだ。
「…ねぇ、…おばあちゃん…」
「何だい?」
ニコニコとボーイを見つめているバンドーラ。
「…さっきの、…映像って…」
「…?…ああ、これかい?」
そう言うとバンドーラは、テレビに映されていた映像のもとを手に取った。
「この間、ダンがここに置いて行ったのさ!」
悪戯っぽく笑うバンドーラ。
「あの神殿ではゆっくりとオナニーも出来ないから、ここでゆっくりやらせて欲しいってね!」
「はあッ!?」
驚いて声も出ないボーイ。よくそんなことをバンドーラに頼めたものだと思ってしまう。
「…まぁ、分からなくもないね。ゲキとゴウシ、それにバーザにでも見つかったらとんでもないことになるからね!…あ!その時はアタシはわざと出かけるけどね!」
クックと笑うバンドーラ。
バーザとはボーイ達が住んでいる神殿の管理人のような老人で、このバンドーラとは犬猿の仲でもあった。
「…セックス…って…。…子供を作るための行為なの?」
「最終的にはね!」
「…最終的に…は?」
ボーイが眉間に皺を寄せる。するとバンドーラはコクンと頷き、
「最初は快楽を得るための行為と言った方が早いかね。お互いの気持ちを高め合い、お互いが絶頂へ達する。ボーイもオナニーくらいはしたこと、あるんだろ?」
とボーイに尋ねる。するとボーイは顔を真っ赤にして、
「…う、…うん…」
と言った。
「それを2人でやるのさ。お互いの性器を刺激し合い、一緒に絶頂へ達する。その時、男の精子と女の卵子が結び付いて、それが新たな生命を生み出すのさ」
「…ふぅん…」
「それにしても、ダンもそんなことでよくもまぁ、こんな純粋なボーイをからかえたもんだねえッ!!」
「…お…ばあ…ちゃん…?」
急にプリプリし始めるバンドーラを、きょとんとした眼差しで見つめているボーイ。
「ねぇ、ボーイ。ダンに仕返ししたくないかい?」
「え?仕返し?」
「そうさ!アンタ、いっつもダンにからかわれてるんだろ?たまにはダンに恥をかかせてやったらどうだい?」
「…ど、…どうやって…?」
目をぱちくりさせるボーイ。するとバンドーラはニヤリとすると、小さな小瓶をボーイに差し出した。中には透明な液体が入っている。
「これをダンに飲ませておやり!」
「…これは?」
ボーイが尋ねると、
「これは特別な飲み物でね。飲んだものを自分の意のままに操ることが出来る代物さ!」
と、バンドーラが悪戯っぽく笑う。
「それで、アンタがダンを思うように出来るってわけさ!」
ボーイの耳元で囁くように言うバンドーラ。
「…これで、…ダンに恥をかかせておやりよ!…どんなことをさせたいかは、…アンタ次第さ!」