おばあちゃんの悪知恵袋 第3話
「…う〜ん…」
魔女バンドーラの住んでいる小屋から神殿に戻って来たボーイ。今、ボーイはバンドーラから手渡された小さな小瓶を目の前にうんうんと唸っていた。
「…どうしよう…?」
「これをダンに飲ませておやり!」
バンドーラの言葉がボーイの頭の中をぐるぐると駆け巡る。
「これは特別な飲み物でね。飲んだものを自分の意のままに操ることが出来る代物さ!」
その時のバンドーラの表情と言ったら、目をキラキラと輝かせ、不気味に笑っているようにしか見えなかった。それはまぁ、厚化粧のせいと言うのもあっただろう。だが、心底、イタズラを楽しんでいると言ったようにも見えた。
「…これで、…ダンに恥をかかせておやりよ!…どんなことをさせたいかは、…アンタ次第さ!」
(…分かってる…。…分かってる…けど…)
毎日のように自分をからかって来るダンにこれを飲ませたら、どんなことが出来るのかと言う楽しみが半分と、本当にそれでダンが何らかの恥をかき、傷付けでもしたら…。普段からあんなにひょうきんでお調子者だけど、本当は純粋で傷付きやすい性格かもと思うと、実際に行動には移せないと言う不安半分。
「…どうしよう…かな…ぁ…」
と、その時だった。
「ようッ、ボーイ君ッ!!」
背後からポンと肩を叩かれた。
「…ッ!!」
物凄い勢いで背後を振り返る。
「んなッ、何だよッ!?」
ボーイのあまりの驚きぶりに、ダンの方が逆に驚いたようで、ダンは目を丸くし、少しだけ体を仰け反らせた。だがすぐに、
「ん?」
と言うと、
「何だ、これ?」
と、ボーイが見つめていた件の小瓶をひょいと取り上げたのだ。
「あッ、そッ、それは…!!」
ボーイが慌てて手を伸ばす。だがダンはひょいとそれを更に高く掲げ、
「何か、綺麗な瓶に入っているあたり、神秘的な力が手に入るモノだったりして!」
と言うと、その小瓶の蓋を開けた。
「やッ、止めろオオオオッッッッ!!!!」
ボーイの叫びも虚しく、次の瞬間にはその透明な液体は、
…ゴクッ!!…ゴクン…ッ!!
と言う喉が動く大きな音と共に、ダンの体内に飲み込まれていた。
「ああああああああッッッッッッッッ!!!!!!??」
顔が真っ青になるボーイ。だが、ダンは、
「…?…何だ、…これ?」
と言うと、空になった小瓶を見つめ、
「ただの水じゃねえか!つまんねえの!」
と言うと、その小瓶をポイッと床へ放り投げた。
「うわああああッッッッ!!!!」
床に落下する直前、ボーイはその小瓶を寸でのところでキャッチする。そして、
「…なッ、…何てことするんだよオオオオッッッッ!!!!ダンンンンンッッッッ!!!!」
と、ダンを睨み付けた。だが、ダンは、
「…な、…何…って…」
と言ったかと思うとすぐにニッコリとし、
「ただの水を飲んだだけだろ?気にすんなよ!」
と言うと、
「そんなことで文句言ってたら、いい大人にはなれないぜぇ、ボーイ君!」
と、わざとらしいくらいに髪をかき上げ、
「アハハハハ…ッッッッ!!!!」
と笑ってその場を後にした。
「…あ…あ…あ…あ…!!」
その時、ボーイは恐怖でガクガクと震えていた。
(…どッ、…どうしよう…ッ!?)
バンドーラが自分のためにとくれた小瓶。他人を意のままに操れる液体を、自分からダンに差し出すことなく、ダンが自ら飲み干してくれた。
(…で、…でも…)
ぶんぶんと大きく首を左右に振る。
「(…もしかしたら、…おばあちゃんが作ったこの液体が、ダンに効かなかったりして…)…う、…うん。…そんなこともあるかもしれない…!」
自分に言い聞かせるように独り言のように言うと、ボーイは立ち上がり、ダンの後を追った。
神殿内の大きな広間のようなところで、ボーイ達は思い思いに寛いでいる。
「…プッ!!…あはッ!!…アハハハハ…ッッッッ!!!!」
ダンは相変わらず、下界で購入して来た漫画を読み漁り、笑い転げている。
その時だった。
紅一点のメイが椅子から立ち上がり、トコトコと歩き始めた。
(…いちかばちか…!!)
ボーイは意を決すると、
(…ダンッ!!…メイのスカートをめくるんだ!)
と念じてみた。
「…さて…、…と…!」
不意にダンが漫画を置き、立ち上がった。そして2、3歩歩いた時だった。
「うわッ!?っと、っととと…!?」
ダンが何かに躓き、よろめいたかと思うと、
「うわああああッッッッ!!!!」
と言って倒れそうになった。その拍子に、ダンの右手がメイのスカートの後ろを掴み、思い切りそれをめくり上げたのだ。
その瞬間、メイの悲鳴が辺り一面に大きく響き渡り、ボーイの耳をも劈いた。
「…ちッ、…違うッ!!…わッ、…わざとじゃないって!!」
ダンの慌てた声が聞こえたその瞬間、
パシイイイイッッッッ!!!!
と言う乾いた音が聞こえ、
「痛ってええええええええッッッッッッッッ!!!!!!!!」
と言うダンの悲鳴が響き渡ったのと同時に、ゲキとゴウシがダンを引っ叩き始めたのだ。
「…いッ、…痛てッ!!…痛てえ…って…ええええ…ッッッッ!!!!…わ、…わざとじゃ、…ねええええッッッッ!!!!」
ダンがぎゃあぎゃあ喚く。
(…偶然…?)
メイのスカートをめくる直前、ダンは何かに躓いていた。そして、バランスを崩したダンがメイのスカートを偶然、めくっただけかもしれない。
そう思えたボーイは、
「…じゃあ、…も、…もう一度…!」
と言うと、
(…ダンッ!!…次は『ゲキのバーカ!』って言うんだ!!)
と念じた。その途端、
「わざとじゃねえっつってんだろうがッ!!」
と言うダンの怒鳴り声が聞こえたかと思うと、
「ゲキのバーカッ!!」
と言う声が聞こえた。当然、更に締め上げられるダン。
(…やっぱり、…偶然…?)
偶然なのか、それとも薬が効いているのか、今の段階ではボーイにも分からないでいた。
「…ったく…、…冗談じゃねえよッ!!」
暫くして、ダンは自室へ戻って来た。顔中を殴られたのか、あちこちが腫れている。
「…た、…たまたま、躓いてメイのスカートをめくり上げる格好になっちまっただけだろうが…!!…何で、…あんなに引っ叩かれたり、締め上げられたりしなきゃならねえんだよ…ッ!!」
ぶつぶつと文句を言うダン。その声は、ダンの部屋の前に来ていたボーイにも聞こえていた。
(…よぉしッ!!)
その時、ボーイは何かを決心していた。その顔が真っ赤になっている。そして、心なしか、体を小刻みに震わせていた。
(…ダンッ!!…僕をッ、…ぎゅううううって抱き締めてみろッ!!)
その時だった。
「…あ…れ…?」
と言うダンの声が聞こえたかと思った次の瞬間、
シュンッ!!
と言う音を立ててダンの部屋の扉が開いた。
「…あ…」
「…あ…」
部屋の目の前にはボーイが立っている。そんなボーイをじっと見つめていたダンだったが、不意に両手がボーイに伸びたかと思うと次の瞬間、ボーイはダンに強く抱き寄せられていたのだった。