おばあちゃんの悪知恵袋 第4話
「…え…?」
温もりがボーイを包み込んでいる。
「…ダ…、…ン…?」
トクン、トクン、と言う穏やかな、心地良い心臓の音が響いて来る。
「…」
思わず見上げた時、ダンはやや虚ろな表情をしていた。
「…ダン…。…ダンんんんんッッッッ!!!!」
「…え?」
その瞬間、ダンがはっと我に返ったような気がした。いや、気がした、のではなく、実際にそうだったのだ。
「…うわ…!!」
ダンが顔を俄かに真っ赤にし、引き攣らせたその瞬間、
「「うぅわああああああああああああああああッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!」」
と、ダンとボーイは一斉に悲鳴を上げていた。
「…な…ッ、…な…ッ!?」
ずざああああッ、と言う音が聞こえそうなほどに、ダンが物凄い勢いで遠ざかる。
「…な…、…何で…、…お、…お前がいるんだよッ!?」
「…しッ、…知らないよッ!!…ぼッ、僕はただ、ダンの部屋の前を通り過ぎようとしただけなのにッ、いッ、いきなり何だよッ!?」
いや、それはウソだ。
魔女バンドーラから貰った小さな小瓶。その中に入った透明な不思議な液体。
「これは特別な飲み物でね。飲んだものを自分の意のままに操ることが出来る代物さ!」
バンドーラはそう言って、悪戯っぽい眼差しをボーイに向けて来た。
それをダンに飲ませるか迷っていた矢先、ダンがボーイの手からその小瓶をひょいと取り上げ、あっと言う間に中の液体を飲み干してしまったのだ。
(…これで分かった…!!)
その時、ボーイは確信していた。
メイのスカートを捲ってみせろと念じた時、ダンは何かに躓いて不可抗力的にメイのスカートを捲ったが、それは偶然ではなかった。それから、ゲキにバカと言ってみせろと念じた時は、ダンは本当に、
「ゲキのバーカッ!!」
と言っていた。それも偶然ではなく、本気で怒ったダンが本当にそう言ったのだ。
そして、今。自分を抱いてみろと念じた時、ダンは部屋から出て来て自分を強く抱き寄せた。その目が虚ろになっていたのも見逃さなかった。
(…やっぱり…!!)
ボーイの心の中に、おぞましい感情が少しずつ湧き上がって来る。
「…フ…、…フフ…ッ!!」
その時、ボーイは笑っていた。
「…な、…何だよ…!?」
突然、ボーイが笑い始めたことに訝るダン。するとボーイは、
「…ダンさぁ、本当は僕に気があるんじゃないの?」
と言ったのだ。
「…はぁ?」
それにはさすがのダンも目を点にしていた。
「僕のことをお子ちゃま呼ばわりするのはさ、実は僕に対する愛情の裏返しなんじゃない?本当はこうやってずっと抱き締めたかったんじゃないの?(ダン、僕をもう一度、抱き締めるんだ!!)」
「じょッ、冗談じゃねえよッ!!何でお前のことなんか…」
言いかけたダンの体が不意に動く。
「…あ…、…れ…?」
まるで自分の意思とは反対に動くダンの体。そして、両手が伸びて来たかと思うと、次の瞬間、ボーイは再びダンに抱き締められていた。
「…ボー…イ…」
(やっぱりだ!!)
その目が虚ろになっている。だがすぐに、
「…ッッッッ!!!?」
と、ダンが目を見開き、息を飲んだのが分かった。そして、
「うぅわああああああああああああああああッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!」
と悲鳴を上げ、ドンとボーイを突き飛ばしていた。
「…な…な…な…な…!!」
顔を真っ赤にし、口をパクパクさせてボーイを呆然と見つめているダン。
「やっぱりぃ?」
ニヤニヤと笑うボーイ。そして、ゆっくりとダンの周りを回り始めたかと思うと、
「僕のことが好きならさぁ、好きだって言ってくれればいいじゃん!!意地悪なんかしないでさ!!」
と言うと、ダンの双丘の片方を引っ叩いていた。
「痛ってええええええええええええええええッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!」
ダンは悲鳴を上げて飛び上がる。そして、
「…てッ、…てめええええッッッッ!!!!」
と言って右手を振り上げた。
(ダンッ!!自分自身を殴るんだッ!!)
ボーイがそう念じた時だった。
ドゴオオオオオオオオッッッッッッッッ!!!!!!!!
と言う鈍い音と共に、
「へぐおおおおおおおおおううううッッッッ!!!!」
と言うダンの素っ頓狂な悲鳴が辺りに響き渡った。
「…あ…」
その光景には、さすがにボーイも顔をしかめた。
「…あ…あ…あ…あ…!!」
直前まで真っ赤だったダンの顔。それが今、真っ青になっている。
そして、彼が振り上げた右手は物凄い勢いで下りたかと思うと、自身の2本の足の付け根部分に息づく、ダンの男としての象徴であるペニスとその下に息づく2つの球体を思い切り叩き付けていたのだった。
「…ダ…、…ダン…?…大…丈夫…?」
そう聞かざるを得なかった。
「…う…う…う…う…!!」
ダンの両手がゆっくりとその部分を隠すように押さえ込む。その目は大きく見開かれ、顔中に脂汗を浮かべていた。そして次の瞬間、
「ぅぅぅぅわああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
と甲高い声を上げたかと思うと、
「痛ってええええええええええええええええええええええええええええええええッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
と絶叫しながらぴょんぴょんと辺りを飛び回ったのだ。
(…うっわぁ〜…)
目の前で起こっていることに呆然としながらも、心の中はおぞましい感情でいっぱいになっている。
(…これなら…!!)
ニヤリとするボーイ。
(…これなら、ダンにいろんな仕返しが出来るッ!!)
その目がギラリと光ったのだった。