座敷わらしの悪戯 第3話

 

「オレにいい考えがある!」

 ニンジャブルーにドロンチェンジしたサイゾウの目の前で、体を大きくふんぞり返らせて自信満々の笑みを見せている座敷わらし。

「…考え…?」

 このいかにも怪しげな、自称・座敷わらしかもしれない少年に、サイゾウの疑念はまだまだ晴れないでいた。

「…ど、…どうすんの?」

 下手に疑って、また電気アンマでもされたら堪ったものではない。自分のご自慢の武器が壊される、そう思ったサイゾウは、やや戸惑いの表情を見せながら尋ねた。

「だぁかぁらぁ!」

 ニヤニヤとしながら座敷わらしはサイゾウの肩をバンバンと叩いた。

「オレに任せとけって!」

「いや、だから、どうやって!?

 どうも腑に落ちない。だが、かなり自信満々の笑みを見せている座敷わらしも気にかかる。

「オレが見えるのはお前だけだ。だから、オレがお前らの恋のキューピッドになってやるよ!まぁ、任せとけ!」

「…そ、…そう言えば…」

 取り敢えず、任せろと言われるのなら任せるしかないだろう、サイゾウはそう考え、はたと自分の状況に気付いた。

「…いつの間にか、オレ、ニンジャブルーの変身を解いてるんだけど…」

「ああ、それか?」

 座敷わらしは、今度は意地悪く笑った。

「お前に電気アンマを掛けるなら、やっぱ、ニンジャブルーに変身してもらった方が、場が盛り上がるかなぁって思ってさ!」

「はぁッ!?

 思わず素っ頓狂な声を上げずにはいられなかった。

「…ど、…どゆことよ…ッ!?

 顔を真っ赤にして言うサイゾウ。すると座敷わらしは、

「いやさぁ、ヒーローがいやらしいことをされて悶えるってシチュエーションが堪んないなぁと思ってね!」

 とあっけらかんとして言う。

「…あ…、…う…!!

 理解不能。子供の考えることだから仕方がないのか。

「とにかくッ、オレに任せておけば、お前の想いを叶えてやるからさ!」

 座敷わらしがそう言ったその時だった。

「おーい、サイゾーウッ!!

 サスケの声が聞こえた途端、サイゾウはギクリとなり肩を竦めた。

「ほぉら、サイゾウにとってのヒーローの登場だぜぇ?」

 座敷わらしがニヤニヤする。

「…わ、…わああああッッッッ!!!!

 サイゾウが慌てるのも無理はない。壁中にはサスケの写真が!

「でえいッ!!

 顔を真っ赤にしてそう言った瞬間、壁に壁と同じ色の布が掛かった。

「忍法隠れ蓑の術の応用だぜッ!!

「サイゾウってばッ!!

 その時、サイゾウの部屋の扉が勢い良く開いたかと思うと、いつもと変わらない青いバンダナを巻いたサスケが立っていた。

「…サッ、…サスケ…ッ!?

 顔を真っ赤にしたサイゾウ。その隣りには座敷わらしが立っている。

「…?…どうしたんだよ、サイゾウ?」

 顔を真っ赤にしてきょときょととしているサイゾウを不審に思い、サスケは思わず声を掛けていた。するとサスケは、

「ああああッ、何でもないッ!!何でもないッ!!

 と作り笑いをした。そして、

「サ、サスケこそ、どうしたの?」

 と聞いてみた。するとサスケは、ややうんざりした表情を見せたかと思うと、

「鶴姫がオレとお前で買い出しに行って来いってさ!」

 と言うと、入口の方を憎々しげに睨み付けた。

「…そ、…そう…」

 ホッとしたような、だが、座敷わらしがこの後、何をするか予想も出来ず、ゆっくりと落ち着くことさえ出来なかった。

「と言うわけでだ!お前も付き合え、サイゾウ!」

 サスケはそう言うとニッコリと笑った。

「…あ、…あ、…ああ…」

 その顔にドキッとするサイゾウ。取り敢えず、平静を保とうと歩き出したその時だった。

 サイゾウの足元に、座敷わらしが足を伸ばしたのだ。その足にサイゾウは見事に引っ掛かり、

「のわああああッッッッ!!!!

 と言う素っ頓狂な声を上げて前のめりに倒れそうになった。

「サイゾウッ!?

 慌てて両手を差し伸べるサスケ。次の瞬間、サイゾウはサスケに抱かれる格好になっていた。

「…だ、…大丈夫かッ、サイゾウッ!?

 目の前に、超ドアップでサスケの顔がある。

「…き…き…き…!!

 その途端、サイゾウの顔が真っ赤になったかと思うと、

「…きぃぃぃぃやああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!

 と甲高い悲鳴を上げたのだ。これにはサスケも大いに驚き、

「うわああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!

 と同じように悲鳴を上げた。

「…はぁ…ッ、…はぁ…ッ!!

 物凄い勢いで後ずさり、サスケから離れるサイゾウ。そして、

「…んなッ…!!…なッ、…何だよ…ッ!?

 と、こちらも驚いて目を大きく見開き、胸に手を当ててゼエゼエと荒い呼吸をしているサスケがいた。

「…ごッ、…ごめんッ!!

 取り敢えず、あやまるしかない。その隣りで、座敷わらしはキャッキャと笑っている。

「…こ、…こんの…ッ!!

「…?…誰かいるのか?」

 サスケの声に怒りをも忘れ、その場で凍り付くサイゾウ。

「…へ?…え?…え?」

 見るからに不審な動きをするものだから、怪訝な顔でサスケが見つめ続ける。

「…お前、…今日は何だかおかしいぞ?」

「…べッ、…別にッ!!…そッ、そんなことないよッ!!

 そう言うとサイゾウはサスケの肩を持ち、

「か、買い出しだったよね?行くよッ!!

 と強引にサスケを引っ張った。

「うわッ!?…ちょッ、…サッ、…サイゾウッ!?

 サスケの悲鳴が響き渡った。

「…やれやれ…」

 しんと静まり返った部屋の中で、座敷わらしはぽつんと言った。

「…こりゃ、…なかなか時間が掛かりそうだな…」

 その時、座敷わらしは両手を静かに見つめた。その両手が、スゥッと実体をなくすように消えそうになった。

「…オレには、…そんなに時間が残されていない…」

 

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