座敷わらしの悪戯 第14話
「…」
目の前で突然、倒れ、声も上げない座敷わらし。その場を物凄く異様な空気が包み込んでいるのを、ニンジャレッドにドロンチェンジしているサスケも、ニンジャブルーにドロンチェンジしているサイゾウも感じ取っていた。
「…お、…おい…。…座敷…わらし…?」
座敷わらしとサイゾウによって何度も射精させられ、体に力が入らないサスケ。その目は呆然と座敷わらしを見つめていた。
「…はぁ…ッ、…はぁ…ッ…!!」
さっきまで馬鹿みたいに笑い転げていた態度から一転、顔を青白くし、荒い呼吸を繰り返している。床にべったりと付けた顔にある2つの瞳はぼんやりとし、虚ろな視線をどこかに投げ掛けていた。
その時だった。
「…ッ!?…ざッ、…座敷わらし…ッ!?」
サイゾウが悲鳴に近い声を上げ、座敷わらしの元へ駆け寄ると、ガバッと座敷わらしを抱き上げた。
「おいッ、座敷わらしッ!!座敷わらしィッ!!」
サイゾウは、何かを感じ取ったのだろう。狂ったように声を上げている。
その時だった。
「…サ、…イ…ゾ…、…ウ…」
座敷わらしが力なく笑ったその瞬間、その体がスゥッと消えそうになったのだ。
「座敷わらしッ!?」
これには驚いてサスケも何とかして起き上がり、座敷わらしの元へ駆け寄って来た。
「座敷わらしッ!!座敷わらしィィィィッッッッ!!!!」
サイゾウが目を真っ赤にして座敷わらしを揺さぶる。すると、座敷わらしはゆっくりと目を開け、
「…うる…さい…なぁ…。…聞こえて…るよ…!」
と憎まれ口を叩いた。
「…オレ、…そろそろ、…寿命かもしれない…」
「…え…?」
「…オレ、…この部屋に棲み付いてもう200年近くになるんだ。…妖怪だって、…寿命はあるんだぜ…?」
「200年もッ!?」
サイゾウが驚いて声を上げるが、サスケは、
「…だ、…だけど、この家、まだ建って20年くらいだぜ?」
と、あくまでも半信半疑の様子だ。すると座敷わらしは、
「…それは、…この建物は何度も何度も建て替えられたからさ…!」
と言った。
「…火災、…地震、…戦争…、…そして、老朽化…。…いろいろな理由でこの家は何度も何度も建て替えられた。…オレはそのたびに逃げ惑い、…そして、20年前、…ようやく落ち着いたんだ…」
サスケもサイゾウも、黙って座敷わらしの言うことを聞いている。
「…お前らがここに引っ越して来る前は、…誰もここに住んでなくてさ…。…座敷わらしってのは、…棲み付いた部屋で生活をしているヤツを幸せにしてこそ、その存在が証明されるんだ…。…そして、…お前らが引っ越して来て…」
そこまで言うと、座敷わらしはサイゾウにその小さな手を伸ばした。
「…ッ!?」
その手を握った途端、サイゾウが小さな悲鳴を上げた。
「…手が、…物凄く冷たい…!」
すると座敷わらしは、
「…だから、…言ってるだろ…?…オレは、…妖怪なんだ、…って…」
と言うと、虚ろな視線を天井へ向けた。
「…お前らが引っ越して来て、…サイゾウがこの部屋の住人になって…。…サスケが好きなことも分かって…。…サイゾウが、…サスケの写真をペタペタと壁に貼り付けているのも知って…。…これは、…オレが何とかしてあげなきゃ、…って…思ったんだけど…」
座敷わらしはそこまで言うと大きく溜め息を吐いた。
「…もう、…そんな力も…、…オレにはない…みたいだ…」
「座敷わらしッ!?」
青白い顔。その目から一筋の涙が零れ落ちたのが分かった。
「…消えてしまう前に、…お前の願い、…叶えてあげたかったん…だけど…な…」
「分かったッ!!もう分かったからッ、これ以上は喋らないでッ!!」
サイゾウがぼろぼろと涙を零しながら言う。
その時だった。
サスケがスクッと立ち上がり、サイゾウの部屋を出ようとしたのだ。
「サスケえッ!!」
サイゾウが振り向くと、サスケはいつの間にか、ドロンチェンジを解き、普段の姿に戻っていた。
「…少し…、…考えさせて…くれ…」
サスケはそう言うと、サイゾウの部屋を静かに出て行った。
「…大丈夫…だ…よ…」
座敷わらしを抱えているサイゾウに、座敷わらしが弱々しい声で言った。
「…多分、…さっき、能力を使い過ぎたせいだと思う…。…疲れたから、…少し、休ませてくれ…」
「でッ、でもッ…!!」
サイゾウがそう言うと、座敷わらしはニッコリと笑い、
「…大丈夫…だって…!…お前の恋を、…見届けるまでは、…消えられないよ…」
と言った。
「…分かった…」
サイゾウはそう言うと、サスケと同じように立ち上がった。そして、ドロンチェンジを解き、普段の姿に戻った。そして、涙の目でニッコリと微笑むと、右手の小指を差し出した。
「…?」
座敷わらしの顔が動く。
「…約束…」
「うん?」
「…オレらの行く末を見届けるまで、…絶対に、消えないって!」
「…うん…」
サイゾウの長い小指と、座敷わらしの小さく白い小指が絡み合った。その顔には笑顔が浮かんでいた。
暫くして、サイゾウが居間へ戻って来ると、サスケがじっと床を見つめたまま、ソファに凭れていた。
(…きッ、…気まずい…ッ!!)
ニンジャホワイトにドロンチェンジする鶴姫、ニンジャイエローにドロンチェンジするセイカイ、そして、ニンジャブラックにドロンチェンジするジライヤは外出していていない。つまり、この屋敷にいるのはサスケとサイゾウだけなのである。
「…」
「…」
どちらからともなく顔を合わせることはなく、ただ、ぼんやりと座り込んでいる。
やがて、
「…おい、…サイゾウ…」
とサスケが声をかけて来た。
「えッ!?…あ、…え…?」
はっと我に返り、サスケを見上げるサイゾウ。そんなサスケと目が合った。するとサスケは、
「…座敷わらしは?」
と聞いて来た。
「えッ!?…あ、…あぁ…」
何とかして笑顔を作り上げると、
「疲れているから、少し眠るって」
と言うことが出来た。
「座敷わらし、オレらの行く末を見届けるまでは消えないってさ!…約束、…してくれたんだ」
「…そっか…」
だが、サスケは相変わらず、深刻そうな、どこか困ったような表情をしたまま、じっと床を見つめるのだった。