トモダチ 第4話
「緊急事態発生、緊急事態発生…!」
俺達が仮面ライダードライブこと泊進ノ介の家を訪ねた数日後、俺達が寝泊まりしている久留間運転免許試験場の地下に造られたドライブピットに、けたたましいサイレン音とアナウンスが流れた。
「これは…!!」
その時、のほほんとお菓子を頬張っていた泊進ノ介の表情が一転、獲物を狙うかのような鋭い眼差しへと変わっていた。
「どうしたのだ、泊進ノ介?」
俺が尋ねると進ノ介は、
「事件だ!」
と言い、
「ハート、お前らも来るんだろ?」
と慌ただしく尋ねる。
「当たり前だ!ロイミュードを倒した仮面ライダー・泊進ノ介が、どんなことをしているのか、この目で確かめなくてはな!」
俺がニッコリ微笑んで言うと、泊進ノ介はカクンと膝を少しだけ折り、
「…あ、…あのさ…、…フルネームで呼ぶの、止めてくんねえか?」
と言ったのだ。
「…フルネーム?」
俺がきょとんとして言うと、
「泊進ノ介と名前を全て呼ぶことですよ!」
と俺の背後からブレンがやって来てそう言った。
「人間には、名字と名前と2つの呼び方があるそうなんです。例えば、私のコピー元である杵田光晴の『杵田』は名字、いわゆる、家族に共通する呼び方です。そして、『光晴』が名前。個人個人に付けられた呼び方のことです」
ブレンが得意気に、ホワイトボードに自分の名前を書き始めた。
「…では、…俺はどう分けられるんだ?」
俺がそう言うと、泊進ノ介がやって来て、
「ハート。お前のコピー元は志友正喜だったよな?」
と聞いて来た。
「ああ。そうだ」
「そうすると、名字が『志友』で、名前が『正喜』だ」
泊進ノ介はそう言いながら、俺のコピー元の人間である志友正喜の名前を書いた。
「…では、泊進ノ介。…お前の場合はどうなんだ?」
「…俺か?」
そう言うと泊進ノ介は自分の名前を同じようにホワイトボードに書いた。
「…分かったぞ!」
俺はポンと手を叩いた。
「名字は『泊進』で、名前は『ノ介』なのだな!?」
俺が言い放ったその言葉に、泊進ノ介だけではなく、ブレンまでも膝をカクンと折った。
「…ハ、…ハー…ト…!」
トレードマークのメガネが鼻からずれたブレンはそれを直し、何か恐ろしいものを見るような目で俺を見つめている。
「…何だ、…ブレン…?」
「…そ、…それ、…本気で仰っているのですか…!?」
「…どう言うことだ?」
「ああああ、ええっとぉッ!!」
俺がムッとしたのが分かったのか、泊進ノ介が間に入って来た。
「俺は名字が『泊』で、名前が『進ノ介』だ」
「…漢字と言う文字が2つずつではないのか?」
俺がきょとんとしていると、
「ああ、もうッ!!めんどくせえなぁッ!!」
と口の悪い大声が聞こえた。
「…詩島…剛…?」
イライラ感満載の詩島剛。彼は仮面ライダーマッハに変身する。
「名前っつってもいろいろあんだよッ!!オレは名字が『詩島』、名前が『剛』だ!ほらッ、名字が2文字で、名前が1文字だろうがッ!!」
「…ふ〜む…」
これだけでも頭が混乱しそうだ。
「…で、…これと泊進ノ介が言った言葉とはどう関係があるんだ?」
俺が尋ねると、泊進ノ介は、
「いちいちフルネームで呼ぶと長ったらしいだろ?だったら名字か名前、どちらかで呼べばいいんだよ」
と笑顔で答える。
「…どっちがいいのだ?」
すると泊進ノ介はふむ、と考え、
「ハートと俺はトモダチだからな!だったら名前で呼べばいいさ!つまり、俺のことは『進ノ介』、剛のことは『剛』ってな!」
と相変わらずキラキラした眩しい笑顔で言った。
「…分かった。…では、進ノ介、剛と呼ぶようにしよう」
『トモダチ』と言う言葉を聞き、何故だか、胸の辺りがほっこりと暖かくなった俺は、照れ隠しのようにそっぽを向くと、そう言った。その時だった。
「どうでもいいのだが…」
それまでじっと俺達の様子を見守っていたチェイスが声を上げた。彼は仮面ライダーチェイサーに変身する。
「さっきからサイレンが鳴りっぱなしなのだが…」
その途端、進ノ介と剛が顔を見合わせ、顔を真っ青にしたかと思うと、
「「うぅわああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!」」
と大声を上げ、
「やっべええええッッッッ!!!!霧子に怒られるううううッッッッ!!!!」
と進ノ介が慌てて飛び出して行く。
「…チェ、…チェイス…ッ!!」
剛は剛で、チェイスに駆け寄ると頭をスパアンと叩いた。
「そう言う大事なことは先に言えよ、なッ!!」
「…痛い…」
チェイスは叩かれた頭を押さえる。すると剛は俺とブレンの方を向き、
「おいッ、お前らも行くんだろうがッ!!さっさと来いよッ!!オラッ、チェイスも行くぞ!!」
と言って、チェイスの腕を引っ張りながらドライブピットを飛び出して行った。
「…やれやれ…。…全く、…彼らは騒々しくて、下品で、暴力的ですねえ…!」
ブレンがチェックのブランド物のハンカチで顔を拭く。
「…フッ!」
この時、俺は何故だか笑っていた。
「行くぞ、ブレン」
「はい、ハート♪」
俺達も3人の後を追った。
「…で…?」
トライドロンの助手席に俺が乗り、運転席では進ノ介が顔を引き攣らせている。
「…何だ?」
進ノ介がそんな顔をするものだから、俺まで訝しげな顔を進ノ介に向けている。眉間に皺が寄っているのが分かる。
「…お、…お前がここに乗るのか…?」
「俺達に歩けと言うのか?」
「…い、…いや…」
そう言うと進ノ介も眉間に皺を寄せた。だがすぐに、
「…そう言えば、ブレンは?」
と俺に聞いて来た。
「後ろだ」
と俺は右親指をクイッと後ろへ振った。
「…あぁ、…剛…♥」
ライドマッハーに剛が跨り、その後ろにブレンがちょこんと座っている。
「…変な真似、…すんなよ…?」
剛の顔が相当引き攣っているのが分かる。だが、ウットリとした眼差しのブレンは、
「え?何か言いましたか?」
と両腕を剛の背後からお腹の方へ回して行く。そして頭を剛の背中に載せた。その途端、
「うわああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!」
と剛が悲鳴を上げた。
「…やッ、…止めろオオオオッッッッ!!!!…オレにッ、…そんな趣味はねえッ!!」
「…進ノ介とはいつもいちゃいちゃしてるんじゃないのか?」
まるでブレンの援護射撃をするかのように、チェイスがライドチェイサーに跨ったまま、ぼそっと呟く。
「よッ、余計なことを言うなッ、チェイスッ!!」
顔を真っ赤にした剛が叫ぶ。
「…とッ、…とにかくッ、変な真似しやがったら、マジで振り落とすからなッ!!」
まるで凶暴な犬のようにガルルルと噛み付かん勢いでブレンを睨み付ける剛。
「「なぁにやってんだ、あいつら…?」」
俺と進ノ介が同時に突っ込みを入れた。
「よし、行こう!」
進ノ介がそう言った時、トライドロンとライドマッハー、そしてライドチェイサーは爆音を立てて動き出していた。