トモダチ 第5話
町外れの数階建てのビル。その最上階に、今回の犯人が立て籠っていると言う話だった。
俺達が到着した時には、犯人と言うやつが人質と言うやつを取って最上階の一室に立て籠もっているとのことだった。
「…行くぞ…!!」
進ノ介はそう言うと、剛とチェイスを連れてゆっくりと建物の中へ入って行く。その足取りはとにかく慎重で、拳銃を片手にゆっくり、ゆっくりと階段を上って行く。その後ろに、肉弾戦派の剛と、無表情で何を考えているのか分からないチェイスが続く。
「…進ノ介…」
その後ろに俺とブレンが続いている。進ノ介が視線だけを俺に向ける。
「…犯人とやらは、全部で何人なんだ?」
「…一人だと聞いている…」
「はぁ?」
俺の後ろでブレンが呆れたような声を上げた。
「…一人だったら、どうしてこんなに慎重に行かなければならないのですか?」
するとブレンはフフン、と笑って、
「この偉大で、天才で、カッコいい私がとっとと犯人を操って投降させればいいのですよね?」
「そんな簡単に行けば、苦労しねえっつの!」
剛がブレンをドンと突く。
「犯人が一人だっつっても、本当かどうかは分からない。それに、向こうだって何を持っているかも分からない。拳銃かもしれねえし、刃物かもしれねえ!」
「それに、人質を取られている以上、下手に動くわけには行かんしな…!」
チェイスまでもが厳しい眼差しで前を見据えている。
「…やれやれ…」
ブレンは大きく溜め息を吐く。
「私達ロイミュードを全滅させた仮面ライダーが、こぉんなに腰抜けだったとは…!」
「んだとぉッ!?」
剛が目を大きくし、ブレンに掴み掛かろうとする。
「こらこら、ブレン」
いちいち毒舌を吐くブレンを諌めるように、俺は声をかけていた。
「人間には人間のやり方があるのだ。いちいち、お前が口を出すようなことではない」
俺がそう言うと、
「…はぁい…」
とブレンはぶすっと膨れっ面をしたまま黙り込んだ。
「…それにしても…」
そうは言うものの、俺の心の中にはある感情が芽生えていた。
「…人質を取るなど、…正々堂々としたやり方ではない…。…最低な人間だな…!」
そう呟くように言うと、進ノ介がぽんと俺の肩を叩いた。
「…人間だって、いろいろいるのさ…」
その眼差しは、犯人のいる部屋の扉を鋭く見つめているものの、どこか憂いを帯びたような、寂しげな目をしていた。
外からは犯人に投降を呼びかける拡声器の大きな声が聞こえ、俺達がいる正面の冷たい鉄の扉の奥からは、1人の男性の怒鳴り声が聞こえる。その声だけから考えると、犯人は確かに1人のようにも思える。
「…進兄さん…」
いつの間にか、剛が進ノ介の横に来ていた。
「どうすんだよ、進兄さん…?」
剛的には早く飛び込みたくて仕方がないのか、体がうずうずとしているようだった。
「…そう言えば…」
俺は何かを思い出したかのように、進ノ介に話しかけた。
「お前達、仮面ライダーに変身しないのか?」
その言葉に、剛とチェイスははっとした表情をし、お互いに顔を見合わせた。
「…もう、…ベルトさんはいないんだ…」
その時の進ノ介の表情が妙に脳裏に焼き付いた。
微笑んではいるものの、どこか寂しげに見えた。
「お前達、ロイミュードが全滅した後、封印したんだ…」
進ノ介を仮面ライダードライブに変身させたベルト。確か、クリム・スタインベルトと言っただろうか。俺達ロイミュードが反乱を起こしたあの日、グローバルフリーズが起こったあの日、彼は死んだ。いや、正確には俺達が惨殺したと言ってもいいだろう。
そんなクリム・スタインベルトは死の間際、自分の意識をデータ化し、ドライブドライバーへ移した。そして、彼と進ノ介が出会い、俺達ロイミュードの、第2のグローバルフリーズを阻止しようと仮面ライダードライブとして立ち上がったのだった。
そして、俺達ロイミュードが全滅した後は、自身の技術が悪用されることを防ぐため、進ノ介からシフトブレスを回収し、仮面ライダーマッハに変身する剛のマッハドライバー炎と、シフトカーやトライドロン、ライドマッハ―、仮面ライダーチェイサーに変身するチェイスのライドチェイサーと共にドライブピットの地下に自らを封印し、眠りに就いた。
「…いつか私の発明が、正しいことのみに使われる未来が来たらまた会おう…、それが、ベルトさんの最後の言葉だったんだ…」
そう言った進ノ介の瞳は、やはりどこか寂しげで、そんな進ノ介を見ていた剛とチェイスも、どこかやり切れない表情を浮かべていた。
「…でも、今はもう、ロイミュードの脅威もなくなって、ドライバーに頼る必要もなくなった。…それよりも、俺達がもっと人間的にも強くならなきゃ、ベルトさんにどやされちまうよ…!」
「…進ノ介…」
「…進兄さん…」
チェイスと剛が進ノ介の名前を呼ぶものの、それ以上は何も言えないでいた。
その時だった。
冷たい扉の向こうで物凄い音が響き、中から女性の悲鳴が聞こえた。
「進兄さんッ!!」
剛が我に返り、進ノ介に声をかける。
「みんなッ、行くぞッ!!」
さっきまでの懐かしそうな笑顔は消え、鋭い眼差しの進ノ介に戻っていた。その声と共に、俺達は一斉にその部屋へ雪崩れ込んだ。
「剛とブレンは人質の保護ッ!!俺とハート、チェイスは犯人の確保だッ!!」
進ノ介が鮮やかなまでにテキパキと指示を出す。
「「「うおおおおおおおおッッッッッッッッ!!!!!!!!」」」
俺達は一斉に駆け出す。
「大丈夫ですかッ!?」
剛が人質として捕らわれていた女性に駆け寄ると、その女性は震えながらもコクンと小さく頷いた。
「よしっ!ブレンッ、行くぞッ!!」
剛がそう言うと、
「…は、…ははは、…はい…ッ!!」
とブレンは目を大きく見開きながら、
「ひええええッッッッ!!!!」
と半ばパニックになった状態でその女性を、剛の誘導で部屋の外へ連れ出す。
「よしっ!!」
進ノ介がそっちに目を奪われたその時だった。
異常に興奮状態だった犯人がナイフを取り出し、進ノ介へ突き立てようとした。
「進兄さああああんんんんッッッッ!!!!」
剛がそれに気付き、大声を上げる。それには進ノ介も気付いていたようで、
「分かってるってッ!!」
と言い、犯人の腕を捕らえたかと思うと手刀を繰り出し、その衝撃で犯人の手からナイフを叩き落とした。そして、
「うおおおおおおおおッッッッッッッッ!!!!!!!!」
と咆えて、犯人を物凄い勢いで地面に叩き付けたかと思うと、
「確保オオオオッッッッ!!!!」
と、あっと言う間に手錠を掛けたのだった。
「…う〜む…」
犯人が進ノ介の手柄によって逮捕され、パトカーと呼ばれる赤い大きなランプを載せた車に連行されて行く。
「…どうしたのですか、ハート…?」
ブランド物のハンカチで汗を拭きながら、ブレンが俺に尋ねて来た。
「…いや…」
低い声で返事をした後、俺は剛やチェイスと一緒に笑顔を浮かべている進ノ介を見つめていた。