トモダチ 第8話

 

 ある日、俺が警視庁特状課に顔を出してみると、そこにいるはずの進ノ介と剛がいないことに気付いた。

「…おい、ブレン」

 ぼんやりとしているブレンに俺は声をかける。

「あ、おはようございます、ハート!」

 ニコニコ顔ですり寄って来るブレン。俺は若干、それに引きながら、

「進ノ介と剛はどうした?」

 と尋ねる。するとブレンは、

「あの2人は今日は非番ですよ」

 と言った。メガネのフレームをクイクイと上げたり、額に浮き出た汗を拭き取ったりと忙しいヤツだ。

「…非番…?」

 正直、その言葉の意味が分からなかった。すると、

「非番とは、簡単に言ってしまえば、今日は休日と言うことだ」

 と背後から低い声が聞こえた。

「うおッ!?

 いつの間にか、チェイスがそこに突っ立っていたのだ。

「…お、…お、…お前、…いつからそこにいた?」

 俺の心臓がドキドキと早鐘を打っている。それに呼吸も荒くなっていた。するとチェイスは不思議そうな顔付きをして、

「…ずっと、ここにいたが…?」

 と言った。

「…おや…」

 その時、ブレンがニヤリとした。

「ハートも驚くことがあるんですね!いやあ、新鮮だなあ!」

「…う、…うるさい…ッ!!

 俺はそう言うと、ブレンの頭に拳をぶつけた。

「あ痛ッ!!

 ブレンが頭を抱えて蹲る。そして、

「…そ、…それにしてもハート。…最近、あなたは随分、人間らしくなって来ましたね!」

 と目を輝かせて言った。その言葉に俺は、

「…俺が、…人間らしくなった、だと?」

 と思わず聞いていた。

「ええ!今までのあなたは、冷酷で、凶暴で、ただ自分のことしか考えていない人だった。でも生まれ変わってから、…いや、…進ノ介や剛と出逢ってからは、あなたはみるみる変わって行った。…人情に厚く、…優しく、…人間らしい感情をたくさん手に入れた。今もそうです。驚くこと、そして、照れを隠すこと。どれを取っても、素晴らしい、人間としての感情です」

「…そう…言えば…」

 言われてみればそうだ。

 グローバルフリーズを起こした頃、つまり、俺が、いや、俺達ロイミュードが人間に反旗を翻した頃の俺は、ただ、本能的に動くだけの野獣だった。自分達の欲望を叶えるためならば何でもする、まさに冷酷な機会生命体そのものだった。

 だが、進ノ介達に出逢い、更に言えば、メディックに出逢い、俺は愛情や優しさと言うものを学んだ。それが俺達ロイミュードの本来あるべき姿なのだと気付かされた。人間を超えようとした俺達が、いつの間にか、人間に感化され、そして、いつの間にか、人間と共存しようとしていたのだ。

「…ハート様と、…皆様の、…永遠の友情を信じます…」

 俺達を蘇らせてくれた時に現れたメディック。それが幻だったのか、本物だったのか、今でも分からない。だが、そんな彼女の思いが、今の俺を生かしてくれていると言うことも間違いはなかった。

「…ふむ…」

 その時、俺は何気なく考えていた。

「…進ノ介の家に、遊びに行ってみるか…」

 その言葉を耳聡く聞き付けたブレンが、

「え?い、今からですか?」

 と聞いて来た。そして、

「あの、ただでさえ狭苦しく、息苦しく、不潔なあの部屋にですか?」

 と顔をしかめた。俺はフッと苦笑すると、

「まぁまぁ。それも人間と言うものだろう?」

 と言い、

「おい、チェイス。お前はどうする?」

 と聞いてみた。するとチェイスは、

「…ああ。…行こうか…」

 と相変わらず無表情なまま言った。だが、心なしか、その足取りが浮き足立っているのが分かった。

「…チェイス…?」

「…あの様子だと、…本当は嬉しいのかもしれませんね…」

 ブレンが、何か気持ち悪いものを見るかのように不気味な表情で言った。

 

 程なくして、俺達は進ノ介と剛が住む部屋の前へやって来た。

「…う、…おっほん…」

 何故か、咳払いをする俺。そして、部屋の呼び鈴に手を掛けようとしたその時だった。

「ひぎいいいいッッッッ!!!!ひぃやああああああああああああッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!

 その時、部屋の中から絶叫が聞こえ、俺達はその声に思わず体を仰け反らせた。

「…なッ!?…なッ!?

 ブレンが目を大きく見開く。

「…何だ、今のはッ!?

 俺は今朝から心臓がドキドキと高鳴りっぱなしだ。

「ああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!ああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!ああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!

 進ノ介の悲鳴が後から後から聞こえて来る。

「…開かないッ!!

 チェイスが部屋の扉をガチャガチャと揺するが、ロックされていて開きそうにない。

「おいッ、進ノ介ッ!!剛ッ!!

 俺が扉をドンドンと叩く。と、その時だった。

「…いッ、…痛てええええええええッッッッッッッッ!!!!!!!!…ごッ、…剛オオオオオオオオッッッッッッッッ!!!!!!!!…も、…もう…ッ!!…イカせてくれええええええええッッッッッッッッ!!!!!!!!

 と言う進ノ介の声と、

「まだまだだよ、進兄さん!」

 と言う剛の声が聞こえた。

「…ん?」

 その声に耳聡く反応したのが、やはりブレンだった。

「…イカせて、…くれ…?」

 そう呟いたブレン。そして、みるみるうちに顔を真っ赤にさせた。

「ど、どうしたのだ、ブレン?」

 俺が問いかけたその時だった。

「ううううううううんんんんんんんんッッッッッッッッ!!!!!!!!

 ブレンが唸ったかと思うと白目を剥き、後ろへ引っ繰り返ったのだ。

「ブッ、ブレンッ!?

 俺が驚くのも無理はない。しかもブレンは、鼻血を垂らしていた。

「ぐあッ!?ああッ!?ああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!ああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!…もッ、…もう…ッ、…止めてくれええええええええッッッッッッッッ!!!!!!!!

 その間にも、進ノ介の悲鳴が聞こえて来る。そして、

 グチュッ!!グチュグチュグチュグチュッッッッ!!!!グチュグチュグチュグチュッッッッ!!!!

 と言う淫猥な音までも。

「…はぁ…ッ、…はぁ…ッ!!

 その時、チェイスの様子がおかしいことに気付いた。

「…チェ…イ…ス…?」

 俺がチェイスを呼ぶと、チェイスも顔を真っ赤にし、胸に手を当てている。

「ど、どうしたのだ、チェイス!?

 その時、俺は目を疑った。

 チェイスのぴっちりとした紫色のズボン。その中心部分が大きく盛り上がっていたのだ。

「…うあ…!!

 それを見た俺も、心臓が更にドクンと高鳴ったのが分かった。

「…あ…あ…あ…!!

 体の奥底から熱くなり、今まで感じたことのなかった感情がぞわぞわと湧き上がって来るのが分かった。

「…な、…何…だ、…これ…は…!?

 俺まで胸に手を当てた。と、その時だった。

「…ああ…ッ、…イクッ!!…イクイクイクイクッッッッ!!!!イクッ!!イクッ!!イクウウウウウウウウッッッッッッッッ!!!!!!!!

 と言う進ノ介の絶叫が響いた。そして、

 ドビュッ!!ドビュッ!!ドビュドビュドビュドビュッッッッ!!!!ドビュドビュドビュドビュッッッッ!!!!

 と言う物凄い音も。

「進ノ介ええええッッッッ!!!!

 俺は進ノ介の部屋のドアに体当たりをし、無理矢理にそれを抉じ開けた。

「…え…?」

 目の前に広がっている光景を目にした途端、俺は目を点にしたのだった。

 

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