トモダチ 第14話
気が付いたら、朝になっていた。
(…何だったのだ、…あれは…?)
昨日、進ノ介の部屋で淫らに喘ぐ進ノ介を見た。あんな進ノ介を見たのは初めてで、それまで俺が見知っていた仮面ライダードライブとしての進ノ介とは全く違っていた。
それに驚いたもの確かなのだが、それよりも、俺自身の中に、おぞましい感情があることに気付いたのだった。
(…これは…?)
淫らに喘ぐ進ノ介を見ていた時、俺の体が熱くなったのも事実だった。何より、俺の男としての象徴であるものが大きく膨らんでいたのにも気付いていた。それは、一緒にいたブレンやチェイス、そして進ノ介の弟分でもある剛も同じだった。
(…これが、…性的興奮…と言う…やつなのか…?)
それを認めたい自分と、認めたくない自分とがいる。
(…そもそも…)
性交とは、セックスとは、男同士でも出来るものなのだろうか。いや、それは進ノ介と剛を見ていれば分かることではあるが、果たして、それが人間では一般的なのだろうか。
俺のコピー元だった志友正喜にはその記憶だけがない。正喜本人には友人はいたようではあるが、そこまで深く関わりのある人間は少なかったようだ。女性との交遊はあっても、性交の記憶は全くと言っていいほどない。根が真面目だったのか、それとも、そう言ったことに興味がなかったのか、今となっては分からない。
(…それよりも…)
今の俺は、この感情をどうしたらいいのか、正直、分からないでいた。
そんな悶々とした思いを抱えながら、警視庁特状課のドライブピットがあるフロアのトイレの前を通過した時のことだった。
「…痛て…ッ!!」
トイレの中からそんな声が聞こえた。
「…うわぁ…」
そこには、いつもと変わらない、紺色で縦ストライプのスーツを着込んだ進ノ介が立っていた。そして、何やら下半身を覗き込むようにしていた。
「どうしたのだ、進ノ介?」
「うおッ!?」
俺が声をかけた時、進ノ介は非常に驚いた様子で思わず後ずさった。
「…ハッ、…ハート…ッ!?」
いやいや、ハート、ではないだろう。俺はやれやれと溜め息を吐き、
「…進ノ介。…片付けるものだけ片付けてから、俺に声をかけてくれないか?」
と言ってやった。
「…え?…あッ!?」
進ノ介は暫く呆気に取られていたが、自分の置かれた状況に気付いたのか、俄かに顔を真っ赤にした。
それもそうだろう。進ノ介の男としての象徴がスラックスの間から顔を出したまま、ぶらぶらと揺れていたからだった。
「…そッ、…そう言うことは先に言ってくれッ!!」
「何故、逆切れする?」
「…いッ、…いや…、…その…」
「そう言えば、進ノ介のそこ、やけに赤かったように見えるが…?」
俺がそう問い掛けると、進ノ介の表情が俄かに曇り、
「…昨日、ブレンにやられたせいだ…」
と言った。そして、不意に顔を歪ませたかと思うと、
「だってさあッ、ブレンったらさあッ、何度も何度も射精させられた俺のここをさあッ、グリグリグリグリ、物凄い力を入れて刺激するんだぜええええッッッッ!!!!!!??」
と、泣きそうな表情で俺にすがり付いて来た。
「…だよな…。…そのせいで、…進ノ介は漏らしてしまった…」
「うぐ…ッ!!」
俺がじっと進ノ介を見つめると、進ノ介は言葉に詰まった。
「そのことなのだが…」
俺が真面目な表情のままだったからだろう。進ノ介はきょとんとして俺を見上げた。
「なぁ、進ノ介」
「何だよ?」
「…男同士で、…性交…出来るものなのか?」
「はあッ!?」
いきなりストレートな質問をされて、進ノ介が変な声を上げるのも無理はない。だが、俺は続けて言った。
「普通、恋愛とは、性交とは、男女間のものだと思っていた。だが、今の常識ではそんなのは通用しないのだろうな。お前と剛を見ていたら、男同士でもそう言ったことが出来るのだろうな」
「ちょちょちょッ、ちょっと待てッ、ハートッ!!」
進ノ介が相当慌てふためき、俺の両肩を掴む。だが俺は表情一つ変えずに進ノ介を見つめている。すると進ノ介は大きく溜め息を吐き、
「…ま、…まぁ、…出来ないことはない、…っつーか、…何つーか…」
とガシガシと頭を掻き始めた。
「なぁ、進ノ介」
「今度は何だよッ!?」
その時、俺は自分の心の中にある感情を出してみることにした。
「…俺にも、…してくれないか…?」
「はああああああああッッッッッッッッ!!!!!!??」
さっきよりも大きな声で、悲鳴に近い声を上げる進ノ介。そして、
「ななな、何言ってんだよッ、ハートオオオオッッッッ!!!!」
と言った。
「俺も、進ノ介にしてもらいたくなったのだ」
進ノ介は目をぱちくりさせ、あんぐりと口を開けたままでいた。
「進ノ介」
俺は進ノ介の両肩を掴んだ。そして、ゆっくりと顔を進ノ介に近付け始めた。
「…や、…止めろ…!!」
進ノ介が俄かに震え始め、強張ったのが分かった。
「…俺には、…女性とも性交した記憶がない…」
「…え?」
その言葉に、進ノ介の体の力がふっと抜けたのが分かった。
「…俺のコピー元である志友正喜は、…仕事一筋の人間だった。…友人もさほど多くもなく、ましてや、愛する女性もいなかったようだ…。…それに、…あまり性については興味なかったように見える…」
「…だッ、…だからって…ッ!!」
「ああ。変なのかもしれん。だが、今の俺は志友正喜であって志友正喜ではない!俺は、俺の本能の赴くままに、動いてみたいのだ!」
そして、
チュッ!!
と言う音が聞こえたその時、俺の唇はぷにっとした柔らかいものに触れていた。
「…ん…ッ!!」
進ノ介の体がビクンと跳ね、目を大きく見開く。俺の唇は、進ノ介の唇に触れていた。
(…ああ…)
いつの間にか、俺は静かに目を閉じていた。
(…これが、…キスと言うものなのか…)
無意識だったが、俺の腕は優しく進ノ介を抱き締めていた。そして、俺の舌がゆっくりと進ノ介の唇に触れた時だった。俺の舌がするっと進ノ介の口の中へ入った感覚がした。
…クチュッ!!…クチュクチュ…ッ、…チュッ!!…チュル…ッ!!
くすぐったい音が聞こえ、俺の舌に進ノ介の舌が絡み付いて来たのが分かった。
「…ん…、…んん…」
いつの間にか、進ノ介も目を閉じ、俺のキスを甘受していたようだ。
…クチュクチュ…!!…クチュクチュ…ッ!!
湿気のこもるトイレの中で、俺と進ノ介は静かに口付けを交わしていたのだった。