トモダチ 第19話
「…お前の手で、…俺を、…犯してくれないか…?」
真顔でそう言った俺を見つめている進ノ介。
どのくらいの時間が流れたかは分からない。だが、しんと静まり返る部屋の中で進ノ介の荒々しい呼吸だけが聞こえていたのは覚えている。
「…は?」
どのくらい経ったのか分からなくなった時、ようやく進ノ介が声を上げた。
「…い、…今、何つった?」
目をパチクリさせながら俺に尋ね返す進ノ介。
「だから、俺を犯してくれないかと言ったのだが?」
真顔で言う俺を見ていた進ノ介だったが、みるみるうちに顔を真っ赤にし、
「…んなッ、…何言ってんだよッ!?」
と急に慌て始めた。その時、俺はベッドに座り込んでいる進ノ介のもとへ近付くと、その両肩にバンッ、と両手を置いた。そして、
「俺にも分からん!」
と言ってやった。
「…へ?」
進ノ介は相変わらず目をパチクリとさせるだけだ。
「俺の感情ベースには、…いや、志友正喜の記憶の中には、志友自身が快楽を求めたと言う記憶は一切、ない。多分、本当の意味で紳士だったのだろう」
だが、その記憶とは別に、俺の感情ベースの中にある感情が湧き上がっていたのは言うまでもない。
「…だが、俺は。…ロイミュード002としての俺は、お前や剛を見ていて、その快楽と言う感情を味わってみたい、そう思うようになったのだ」
「待て待て待て待てッッッッ!!!!」
進ノ介が相当、慌てている。いや、パニックになっていると言ってもいいだろう。
「…おッ、…お前がそう言う感情を得たのは分かる!…俺と、…剛が…、…エッチなことを、…している、…場面に、…出くわ…したんだから…な!」
「だから、何故、そんなに言葉が途切れるんだ?」
「あッ、当たり前だろうがッ!!」
進ノ介の顔が真っ赤になっている。俺はやれやれと言う表情をして、
「そんなに恥ずかしいことなのか、進ノ介?」
と聞いてみた。すると進ノ介は、
「…さっ、…さっきも言っただろうッ!?」
と言うと、
「…お前が、…トモダチ…だからさ…!」
と言い、プイっとそっぽを向いた。
「…進ノ介…」
かつては敵同士だった進ノ介と俺。何度も見て来た、進ノ介の光沢のある真っ赤な仮面ライダードライブ・タイプトライドロンのライドウェア。それを今、目の前で身に纏い、そのがっしりとした2本の足の付け根部分からは、進ノ介の男としての象徴であるペニスをピンと勃起させ、その真っ赤に腫れ上がった先端部分からはトロトロと淫猥な濃白色な液体を溢れさせている。
「…それに…」
ポリポリと頭を掻きながら、ゆっくりと俺の方を振り返り、じっと見つめる進ノ介。
「…俺には、…剛がいる…」
「それも分かっている」
「だったら…ッ!!」
進ノ介はそう言いかけて、顔を真っ赤にして黙った。俺がフッと笑っていたからだろう。
「…最初に誘ったのは、…お前だぞ…?」
この時、俺自身も信じられないでいた。まさか、俺にそんな、ある意味、サディスティックな感情が芽生えていようとは…!
「特状課のトイレでキスをした時、ここじゃ嫌だ、俺を気持ち良くしてくれ、って言ったのは、お前自身だぞ、進ノ介?」
「…ッ!!」
顔を真っ赤にし、何も言い返せない進ノ介。
その時、俺は見た。
進ノ介のペニス。少しずつ落ち着きを取り戻しつつあったそれが再び息を吹き返し、ドクン、ドクンと大きく脈打ち始めていたのだ。
俺はそんな進ノ介のペニスに手を伸ばすと、再び優しく包み込んでやった。
「…あ…ッ!」
進ノ介がピクンと体を跳ねらせる。俺はゆっくりとそれをゆるゆると上下に動かし始めた。
「…あッ!!…く…ああ…ッ!!」
あれだけ散々絶頂に達したと言うのに、進ノ介はまだ感じるようだ。
「…お前だけが気持ち良くなって終わりなのか?」
「…だ、…だから…ッ!!」
「だから、何だ?もともとはお前が誘ったのに…?」
「…さッ、…誘って…なんか…ッ!!」
「俺にキスをされて、絆されたんじゃないのか?」
俺はニヤニヤしながら、進ノ介のそこを上下する手の動きを少しずつ早めて行く。すると進ノ介は、
「あッ!!あッ!!あッ!!あッ!!」
と、俺の手の動きに合わせるかのように声を上げる。
「どうなんだ、進ノ介?」
「…ハッ、…ハー…ト…ぉ…ッ…!!」
涙目の進ノ介。ここで俺はとどめの一言を放った。
「…なぁ、…進ノ介…」
「…う…ん…?」
「…俺達、…トモダチ、だろ?」
「…ッ!!」
進ノ介が目をギュッと閉じたのが分かった。そして、不意に体を起こし、
「うおおおおおおおおッッッッッッッッ!!!!!!!!」
と咆えるように叫んだかと思うと、次の瞬間、俺は一気にベッドの上に押し倒されていた。
「…はぁ…ッ、…はぁ…ッ!!」
進ノ介が顔を真っ赤にし、荒い呼吸をしながら俺を見つめている。
「…いいぞ、…進ノ介…」
俺は静かに目を閉じ、
「…お前の好きに、…してくれればそれでいい」
と言ってみせた。
…トクン、…トクン…。
こんな時でも、俺の心臓は穏やかに、一定のリズムで脈打っていた。これが、ロイミュードたる証拠なのだろうか。
「…ハート…」
ぽつりと呟くように進ノ介が声を上げた。そして、ゆっくりと俺の顔へ自身の顔を近付けて来たのが分かった。
次の瞬間、俺の唇に温かいものが触れたのが分かった。
「…ん…」
うっすらと目を開けてみる。するとそこには、目を閉じ、自分の唇を俺の唇に当てている進ノ介がいた。
(…温かい…)
進ノ介のぷにっとした、柔らかい感触の唇が俺の唇に触れている。その隙間から、進ノ介の舌がつんつんと蠢いているのが分かった。そして、俺がゆっくりと口を開けたと同時に、スルリと俺の口の中へと侵入を開始して来た。
…クチュクチュ…ッ!!…クチュクチュ…ッ!!
くすぐったい、心地よい音が聞こえて来る。
「…ん…、…んん…!」
「…んふ…ッ、…は…ああ…ッ!!」
熱く絡み合う、俺と進ノ介の吐息。
(…進ノ介…)
宿敵と思って来た相手と、まさか、このようなことをしていようとは。自分で犯してくれと言っておきながら、何だか、変な気分になってしまう。
だが、これが生きている証なのだろう。
(…進ノ介…)
ゆっくりと進ノ介の背中へ両腕を回しながら、俺は進ノ介の温もりと愛情とを感じ取っていた。