逆転有罪 第2話
「これより、ギラの判決を言い渡す」
ゴッカン国王・リタ・カニスカの静かで、だが、威厳のある低い声が響いた時、ギラは心を落ち着かせようと目を閉じ、大きく深呼吸をした。だがすぐに、
「おい、待て。僕の話は聞いてくれないのか!?」
と、ギラは目を大きく見開き、声を上げていた。
「被告人ギラは…」
「待ってくれええええッッッッ!!!!」
次の瞬間だった。
「無罪」
その言葉が聞こえた時、辺りはしんと静まり返った。
ガァンッ!!
リタはオージャカリバーを床に突き刺すようにすると、大きな音が響き渡った。それを合図に、
「…フンッ!!」
と、傍聴席に座っていたンコソパ国王・ヤンマ・ガストは鼻で笑い、その後ろの席でイシャバーナ女王・ヒメノ・ランは何を今更と言う表情で、そのカールされた髪を指に絡める。
そして、反対側の席ではトウフ国王殿様・カグラギ・ディボウスキが驚いて目を見開いていた。だが、同時に、他にも驚いている者がいた。
「…え?」
まずは被告人席のギラ。目を見開き、短い声を上げるのが精一杯だった。
そして。
「…失礼」
困ったような、何とも言えない表情を浮かべて傍聴人席で立ち上がったのがシュゴッダム国王・ラクレス・ハスティーだ。
「…よく、聞き取れなかったが…?」
するとリタは表情1つ変えずに、
「無罪だ。む・ざ・い」
と言った。
「納得の行く説明をしていただこう」
「ギラがオージャカリバーの生体認証を突破したのは、逆説的に、ギラが王の資格を持つ可能性を示している」
リタがそう言うと、ラクレスは笑みを浮かべ、
「根拠のない憶測に過ぎない」
と言った。だが、そんなラクレスの言葉を遮るように、
「いいや!!」
と言う声が上がった。ヤンマだ。ヤンマはラクレスをバカにするかのような表情を浮かべると、
「裁判長が正しい!!」
と言ってのける。
その時だった。
「レインボウ・ジュルリラ」
リタの低く威厳のある声が響いた時、ラクレスはぎょっとしたような表情を浮かべる。そして、ギラも何かを思い出したかのようにリタを見つめた。
「この料理はどこにも存在しない。だが唯一、十数年前にコーカサスカブト城で供されていた記録を発見した」
そして、次の瞬間、
「彼の本名はギラ・ハスティー。ラクレスの弟であり、シュゴッダムの王族だ!!」
と言うリタの言葉に、ヤンマ、カグラギが身を乗り出す。
そして、ギラもまた、信じられないと言う表情で後ろの傍聴席にいるラクレスを睨み付ける。するとラクレスは、やや苛立ちを見せながら、
「…何を根拠に…!?」
とリタに向かって尋ねた。
その時だった。
「この私が遺伝子照合したんだから、間違いない」
ラクレスの背後から声が聞こえた。振り返ると、そこにはヒメノが勝ち誇った笑みを浮かべ、ラクレスを見つめていた。
「…余計な真似を…!!」
「知ってて隠していたな?」
リタの低い声が響く。
「反逆者が兵器を奪い、破壊行為を行ったのではない。王族が自分のものを使い、王としてやるべきことをやった。法に則れば、何の問題もない」
この時、ラクレスの苛立ちは頂点に達していた。
「ヤツが行ったのは侵略だ!!民を守ったなどと、何故、言い切れるッ!?」
目を見開き、怒気を含んだ声で怒鳴るラクレス。だが、リタはあくまでも冷静だ。
「民がそう証言した」
「…は?」
訝し気な表情を浮かべるラクレス。するとリタは、
「被害を訴えるどころか、皆、一様に恩義を感じていた」
と静かに言う。
「…ク…ッ!!」
その時、ラクレスの顔が不気味に歪んだかと思うと、大声で笑い始めた。
「私の忠告を忘れたのか!?ヤツを解放すると言うことは、この私を敵に回すと言うことだ!!」
その表情は怒りに満ち、今にもリタに襲い掛かろうとするようだった。
だが、リタは更にその上を行った。とても静かに。
「法とは、王を穿つ鉾。法とは、民を守る盾。私が無罪と言ったら、無罪だッッッッ!!!!」
ガァンガァンガァァァァンッッッッ!!!!
リタがオージャカリバーを激しく地面に叩き付ける。その言葉に、ギラは呆然と立ち尽くし、ラクレスは怒りに肩を震わせていたが、ズカズカと言う足音を響かせてその場を出て行った。
「…許さん…ッ!!」
シュゴッダムに戻った後、ラクレスは怒りに拳をブルブルと震わせ、目を大きく見開き、歯軋りをしていた。
「どいつもこいつも、この私にひれ伏さないッ!!私はこの世界の支配者だッ!!私は世界の始まりの国の王なのだッ!!…それを…ッ、あんなひよっこのような国王達に阻止されようとは…!!」
その目が血走り、真っ赤になる。
「…ギラめ…!!」
今回の大騒動の中心人物であり、自身の弟であるギラ。
「あいつが全ての始まりなのだッ!!」
2千年の時を経て、地の底からバグナラクは蘇る。その予言通り、バグナラクが地上に姿を現し、侵攻を始めた。
「私はッ!!そのバグナラクの侵攻を止めるために、各国と5王国同盟を結ぼうとしたのに…ッ!!」
最初に反旗を翻したのは、ヤンマ・ガストだった。
「ラクレスがキングオージャーの操縦権を握るってのが、納得行かねぇ…!!」
5王国同盟を締結しようとしたその時、ヤンマはそう言うと、ラクレスを睨み付けた。
「てめえがリーダー面する道理は何だよ?」
するとラクレスは、
「始まりの国だからだ。キングオージャーはゴッドクワガタなくして蘇らない。であれば、私がその任務を担うのが当然の責務だ」
と言った。だが、そんなラクレスをヤンマは鼻で笑うと、
「2千年びくともしなかったゴッドクワガタを電子制御して動かしたのは、オレだ。てめえは予言とやらを口実に力を独占してえだけだ!!」
と言いながら、ラクレスを鋭い眼差しで睨み付けた。そして、
「…オレは下りる…」
と言うと、その場を後にした。
「…そして…。…ギラ…ッ!!」
バグナラクが侵攻を開始した時、ギラは単身、コーカサスカブト城へ乗り込んでいた。
「そこで何やってるんですか?街で人が…」
多くの国民がバグナラクの侵攻で犠牲になっているのに、呑気に城内で酒を飲んでいるラクレスに、ギラは呆然と尋ねた。
「…民を守るのが…、…王じゃないんですか…?」
そう尋ねた時だった。ラクレスの表情が俄かに豹変する。
「…民は道具…。…私が国だ…!!」
「…ふっざけるなああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!」
その瞬間、ギラはラクレスからオージャカリバーを奪い、ギラも不気味に笑いはじめ、表情を豹変させた。
「…貴様の語る正義など、下らん、つまらん、気に食わんッ!!恐怖しろッ!!そして、慄けッ!!一切の情け容赦なく、一目一層悉く、貴様を打ち滅ぼす者の名は、ギラッ!!邪悪の王となる男ッ!!オレ様がッ、世界を支配するウウウウッッッッ!!!!」