逆転有罪 第3話
「…貴様の語る正義など、下らん、つまらん、気に食わんッ!!恐怖しろッ!!そして、慄けッ!!一切の情け容赦なく、一目一層悉く、貴様を打ち滅ぼす者の名は、ギラッ!!邪悪の王となる男ッ!!オレ様がッ、世界を支配するウウウウッッッッ!!!!」
コーカサスカブト城へ突入したギラ。バグナラクの侵攻で数多くの国民が犠牲になっているのにも関わらず、のんびりと酒を嗜んでいたラクレス・ハスティーに失望し、オージャカリバーを奪った。そして、そう叫んだ時、街の中央の広場に石化していたゴッドクワガタが動き出す。
「…バカな…ッ!!…何故…ッ!?」
その光景を、ラクレスはただ、呆然と見つめるしかなかった。その間に、ギラはオージャカリバーの鍔のクワガタのスイッチを押した。
「Qua god!!」
音声が鳴り響いた時、ギラが持っていたオージャカリバーが赤く輝き始める。そして、ギラは更に鍔のトンボ、カマキリ、パピヨン、そしてハチのスイッチを押した時、オージャカリバーは眩く輝いていた。
「王鎧武装ッッッッ!!!!」
その瞬間、ギラの体を眩い繭のようなものが包み込み、その繭のようなものが消えた時、ギラの体は眩い赤色のスーツに包まれていた。
「Qua god!!オージャーッッッッ!!!!」
全身赤色のスーツ。その胸の部分には装甲が施され、右胸にはシュゴッダム国のエンブレムが施されている。体の側面は中心部に比べて濃い赤色で、マスクは大きなクワガタのデザインが模られていた。そして、左肩には王の威厳を示すマントが垂れ下がっていた。
クワガタオージャー。それが、ギラが王鎧武装した姿だった。
「…まさか…、…あの伝説のキングオージャーまで復活させるとは…!!」
ラクレスの声。心なしか、震えているようにも思える。
「降臨せよッ!!キングオージャーッッッッ!!!!」
クワガタオージャーに王鎧武装したギラがゴッドクワガタに乗り込み、他のシュゴッドをも召喚し、キングオージャーを復活させた。
「…何なのだ、あの力は…!!」
目を見開き、嫌な汗を流すラクレス。
「…これでは…。…これでは、私の地位が脅かされる…!!…ギラの記憶を消し、街の孤児院に送り込んだと言うのに…!!」
その目がギラリと光る。
「…いや…。…最初から消しておくべきだったのだ。…この世界を支配するのは、私だッ!!全ての始まりの国であり、他の王を従え、私がこの世界の頂点に君臨するはずだったのに…ッ!!」
その時、その視線がギョロッと動いたかと思うと、
「なあッ、デズナラクッッッッ!!!!」
と怒鳴ったのだ。
その時だった。
ゴボゴボッ!!ゴボゴボゴボゴボッッッッ!!!!
俄かにどこからか不気味な音が聞こえ始め、ドロドロとした汚泥の中から不気味な生命体が現れた。
「…ククク…!!」
全身黒ずくめの、ゴツゴツとした巨体。その首周りには毒々しいほどに真っ赤なミミズのような物体が纏わり付き、うようよと蠢いている。
「…久しいな、ラクレス…」
低く不気味な声。
「どう言うことだッ、デズナラクッ!?ギラの記憶を消したはずなのに、ヤツはシュゴッド達と心を通わせ、あのようにキングオージャーを呼び出してしまったではないかッ!!」
「…ふむ…」
あくまでも穏やかに、いや、ラクレスの怒りには無関心な様子のデズナラク。
「…レインボウ・ジュルリラを食わせたのがいけなかったのか…?」
「…何…、…だと…?」
「レインボウ・ジュルリラとは、記憶を操作する食べ物。それを食べ、貴様の弟は全ての記憶を失ったはずだった。…だが、それが逆に彼を純粋にしてしまった。純粋がゆえ、誰とでも心を通わせる特技を身に付けてしまった。それゆえ、シュゴッド達とも心を通わせるようになってしまったのだろう」
「何を呑気なことを…ッ!?」
苛立ちを隠せないラクレスがズカズカとデズナラクの元へ歩み寄って行く。するとデズナラクは、
「まぁ、落ち着け、ラクレス」
と言った。だが、ラクレスは、
「これが落ち着いていられるかッ!!」
と言いながら、デズナラクのそのゴツゴツとした体に縋り付くようにする。
「…このままでは…、…このままでは、私の地位が危ういのだ!!お前が言うように、ギラのあまりの純粋さは他の王達をも惹き付ける。特に、ンコソパのヤンマ・ガストは必ず、ギラと手を組むだろうッ!!そうなった時、イシャバーナのヒメノ・ランも必ずなびく。…これでは、貴様と私の計画が全て終わりになるのだぞッ!?」
目を見開き、血走らせて明らかに焦るラクレス。だが、デズナラクは、
「…ククク…!!」
と低く笑っている。
「何がおかしいッ!?」
「落ち着けと言っているんだ、ラクレス」
デズナラクの黄色の目がギラリと光る。
「そもそも、お前はそれだけの器量しかないのか?」
「何ッ!?」
その時だった。
「…神の怒り…」
デズナラクが発した言葉に、ラクレスの表情がピクリと動く。
「貴様も忘れたわけではあるまい?15年前、イシャバーナに送り込んだ大量のゴッドセミ。それによってイシャバーナが大混乱に陥った。その時、国王と国王妃が何者かに殺された。…その時に使われたのが…、…ゴッドスコーピオの毒だ…!!」
「…ま、待て!!」
何かに気付いたかのように、ラクレスが驚いて声を上げる。
「…な、…何故、貴様が国王と国王妃を殺害したのがゴッドスコーピオの毒だと知っている…!?」
「さぁ、何故かなァ…?」
「…ま…、…まさか…ッ!?」
その時だった。
スウッとデズナラクの右手が動いた時、その手には小さな小瓶が握られていた。その中には真っ青な液体が入っていた。
「神の怒りの時より、毒性は弱めてある。これを世界の指導者達に撃てッ!!」
「…何…、…だと…!?」
ラクレスは呆然とし、体をブルブルと震わせる。だがデズナラクは、
「この世界を支配する王になりたいのだろう?貴様を頂点とする理想の世界を作り上げるには、各国の王は邪魔な存在。この毒を使い、ヤツらを洗脳、操れば良い。そして、お前の弟・ギラ・ハスティーを葬り去ればいいだけのことだ…!!」
と言った。
「…だ…、…だが…」
「何を躊躇う必要がある?お前が頂点となるこの世界を見届けたら、我々は再び、大人しく地底へ戻ろう。そうすれば、お前はバグナラクを退けた王として世界中の民から讃えられ、神として崇められるだろう」
デズナラクはゆっくりと顔をラクレスに近付ける。そして、
「…お前を頂点とするこの世界がどのようなものになるのか、私も楽しみだ…!!」
と言うと、ゴボゴボと言う音と共に、再び地底へと帰って行った。
「…」
呆然と佇むラクレス。その手には真っ青な毒の液体の入った小瓶が握られている。
「…私は…」
呆然と床を見つめるラクレス。だが、その口元が不意に不気味に歪んだ。
「…ククク…!!」
大きく見開かれた目をギラギラと不気味に輝かせている。
「…そうだ…。…デズナラクの言う通りだ。…裏切りは、まずは身内から、とはよく言ったものだ。ヤンマ・ガスト、ヒメノ・ラン、リタ・カニスカ、そして、カグラギ・ディボウスキ。彼らを私の操り人形とし、ギラには最も残酷で、最も屈辱的な方法で死んでもらうとしよう…!!」
チャポチャポと言う軽快な音を立てる青い液体。
「…さて…。…誰から協力者になってもらおうか…」
ニヤニヤと不気味に笑うラクレス。心なしか、その呼吸が心なしか、荒く感じられる。
「…ギラ…。…今に見ていろ…!!」
不気味なほどにギロリと見開かれた瞳が真っ赤に光った。