逆転有罪 第5話
イシャバーナ国――。
見るもの全てが豪華絢爛で、美しさにキラキラと輝いている国。街中に色とりどりの花が咲き誇り、風が吹くと色とりどりの花びらが舞い散り、人々の心を豊かにしていると言ってもいいだろう。
また、美と医療の国だけあり、最先端の医療技術で人々の病気や怪我を治療し、他国に比べて平均寿命が長く、また、その最先端の医療は他国にも供給されている。人々の心が豊かなのは、心を込めたおもてなしと、きめ細やかな医療技術によるものであり、国民の幸福度が非常に高い国でも有名であった。
「…で?…今日は何の御用かしら…?」
その国の中心部に聳え立つ巨大な花びらに包まれた城・フラピュタル城。その玉座に体を投げ出すように座り、目の前で恭しく跪いている者の顔を見ようともせず、煌びやかなドレスを身に纏った女性が不機嫌そうに声を上げた。ヒメノ・ラン。イシャバーナ国の若き女王である。
「随分なご挨拶だな」
玉座の下で恭しく跪いていた男の口元が歪むと、フンと言う声を上げて笑った。
「当たり前でしょう?だって、私にはあなたに会う理由なんてないもの。5王国同盟を破棄しておいて、今更、どの面を下げてやって来たのよ!?」
思わず声を大きくする。だが、目の前の男・ラクレス・ハスティは穏やかな笑みを浮かべてヒメノを見ている。
「…何…?」
その穏やかな笑みに不気味さを感じたのか、ヒメノは思わず眉を顰めていた。するとラクレスは、
「我が弟のギラを差し出せ。ギラがこの国に潜伏していると言う情報を得た」
「…はぁ?」
意味不明、と言った表情をするヒメノ。
「いるわけないじゃない。第一、ギラがこの国に潜伏していると知ったら、私だって捕まえたいわ」
「…と言うと?」
「ゴッドクワガタが欲しいもの」
ヒメノがニッコリと微笑む。
「この国の全てのものが私のお気に入りなの。ゴッドクワガタも一緒に愛でたいのよ」
「…やれやれ…。…全く、我が儘な女王様だ…」
ラクレスが苦笑する。だがすぐに威厳のある表情を見せて、
「もう一度言う。ギラを差し出せ!!」
と言ったのだ。
「だから、知らないって言ってるでしょうッ!?」
そう言うと、
「セバスッ!!」
と、横に控えていた執事・セバスチャンを呼んだ。
「ラクレスにはお帰りいただいて?」
だが、セバスチャンは俯いたまま、そこから動こうとしない。
「…セバス?聞こえなかったのッ!?」
「無駄ですよ、女王様」
その時、声が聞こえた。だが、それはセバスチャンの口から発せられた言葉ではない。
「…ラクレス?」
訝し気にラクレスを見るヒメノ。そして、ラクレスが手にしているものを見た途端、ヒメノはその場に凍り付いていた。
「…ククク…!!」
「…あ、…あなた…、…まさか…ッ!?」
ラクレスの手に握られていたもの。真っ青な液体が入った小瓶。
「…これが何なのかは、あなたもご存じのはず」
「…スコピーの…」
「そう。15年前、神の怒りの災害時のどさくさに紛れてあなたの父上と母上を殺害したゴッドスコーピオの毒…」
「ちょっと待って!!」
ラクレスの言葉を遮るように、ヒメノが悲痛な声を上げた。
「…今…、…何て…?」
「…フンッ!!」
ラクレスは鼻で笑い、目をギラリと光らせる。
「…15年前、神の怒りの災害時のどさくさに紛れてあなたの父上と母上を殺害したゴッドスコーピオの毒だと言ったのだが…?」
「…それって…。…それって…!!」
俄かにヒメノの体がブルブルと震え始める。そして、その細い指をしっかりと握ると、
「…あなた…、…だったのね…?」
と言うと、目にいっぱい涙を溜めてラクレスを睨み付けた。
「あなたが私のパパとママを殺した!!その犯人だったのねッ!?」
「…そうだ。私が殺した」
「どうしてッ!?」
「…フンッ!!」
ラクレスは相変わらず余裕の笑みを浮かべている。だが、普段からギョロッとしている目を大きく見開き、
「簡単なことだ。私がこの世界を統べる王となるためだよ!!」
と言い放った。
「全ての始まりであるシュゴッダムの国王であるこの私が、この世界を支配するのは当たり前のことだ。ゴッドセミの大群をイシャバーナに仕向けたのも私だ。この国の最先端の医療技術と、それを統括するお前の父親と母親。私にはそれが邪魔で仕方がなかった!!」
「…そ…、…んな…」
「この国の医療システムを破壊してしまえば、最早、誰も私に抵抗する者はいなくなる。…だが、どうだ」
そう言う頃には、ラクレスの拳がブルブルと震え始めていた。
「…ンコソパも、イシャバーナも、ゴッカンも、トウフも…。…全ての国で代替わりをしたと言うのに、一向に我に靡こうとしない。いや、むしろ、逆らってばかりだ!!最早、こうなってしまったからには、実力を持って従わせるしかないのだ!!」
その時だった。
ガシッ!!
呆気に取られていたヒメノを、セバスチャンが羽交い絞めにしていたのだ。
「…セッ、…セバスッ!?…何を…ッ!?」
だが、セバスチャンを見た途端、ヒメノは絶句した。
「…ま…、…まさ…か…!?」
セバスチャンの瞳から光が失われている。そして、ヒメノを押さえ付ける力が異常に強い。
「…ラクレス…ッ!!…あなた、まさか…!?」
その時だった。
ドシュッ!!
「…あ…」
ヒメノが目を大きく見開き、体をビクリと跳ねらせる。
「…少し遅かったですねぇ、女王様」
ラクレスがニヤニヤと笑う。
「言ったでしょう?私に靡こうとしないのなら、実力を持って従わせるしかないと…」
「…パパ…。…ママ…」
ヒメノの目から涙が零れ落ちる。そして、ガクリと首を垂れた。
「…ククク…!!」
ラクレスが目をギラギラさせ、不気味に笑ったその時だった。
「Come and kick it!!」
ヒメノが手にしているオージャカリバーが黄色く輝いている。オージャカリバーのカマキリのスイッチを押したのだ。そして、立て続けに鍔のトンボ、パピヨン、ハチのスイッチを押した時、オージャカリバーは眩く輝いていた。
「…王鎧…、…武装…!!」
その瞬間、ヒメノの体を眩い繭のようなものが包み込み、その繭のようなものが消えた時、ヒメノの体は鮮やかな黄色のスーツに包まれていた。
「Come and kick it!!オージャーッッッッ!!!!」
全身黄色のスーツ。その胸の部分には装甲が施され、右胸にはイシャバーナ国のエンブレムが施されている。体の側面は中心部に比べてオレンジ色で、マスクはカマキリのデザインが模られていた。そして、左肩には王の威厳を示すマントが垂れ下がっていた。
カマキリオージャー。それが、ヒメノが王鎧武装した姿だった。
「…ただ我がままに…、…我が道を行く…!!」
カマキリオージャーのマスクの中でぼんやりとしているヒメノ。その瞳からは輝きが消えていた。