逆転有罪 第8話

 

 ンコソパ国――。

 パソコン1台でのし上がって来た国だけあり、世界中のIT技術の管理、掌握をしている。そのテクノロジーの水準は世界一で、全国民がIT技術に精通しており、国民を怒らせると世界中のITシステムが破壊されるとも言われている。

 そんな国だけあり、国内の文化や施設のほとんどが電子制御化されており、パソコンやスマートフォンによるアクセス操作で成り立っている。また、インフラに関係するソフトやシステム、国内外のデータ設備や通信環境のサポート、輸送機などの管理、あらゆるテクノロジーの供給を他国に対しても行っている。

 

 ベタ城。ンコソパ国の中心部に聳え立つ、激しいい雷が迸る城。

「…何だ…?」

 その中心部分。1台のテーブルの上は乱雑にものが溢れ、ゲーム椅子にどっかりと腰かける1人の男が、目の前に広げられたパソコンを胡散臭そうに見つめていた。ヤンマ・ガスト。真っ青な髪をリーゼント状に整え、ダボッとした衣類を身に着けている。見た目はいわゆるヤンキー。だが、この国の王でもあった。

「今日は何の用だと聞いているんだ、タコメンチ…!!

 めんどくさそうな声を上げ、顔をしかめてパソコンのモニターを見つめている。

『まあまあ。そんなつっけんどんに仰らずに』

 半ば苦笑して言うモニターの奥の男。カグラギ・ディボウスキだ。

『たまには皆さんで一緒に食事でも、と思いまして』

「…あ?」

 カグラギの言葉に、ヤンマの眉間に更に深い皺が刻まれる。

『たまにはヒメノ殿やリタ殿、それに、ギラ殿も交えて親交を深めるのも一興、かと』

「めんどくせえよッ!!

 はぁぁぁぁ、と大きな溜め息を吐き、手元にあったコーラの瓶を鷲掴みにすると、ヤンマはグビグビと音を立てて飲み始めた。そして、口元に垂れたそれを拭いながら、

「オレは誰ともツルまねえ。つーか、そんなの、オレの趣味じゃない。やるなら、お前らだけでやってくれ!!

『まままま、そう仰らずに!!

 画面の向こうのカグラギの顔が笑みでくしゃっとなる。その表情のあまりの不気味さに、ヤンマは顔を引き攣らせていた。

『…近頃…、…と言いますか、ずっとですが、ラクレス殿が不穏な動きを見せているでしょう?』

「…ああ…」

 それはヤンマも同じことを思っていた。

「…あのスカポンタヌキ…、…何をしでかすか、分かったもんじゃねえからな…」

『…ここだけの話なのですが…』

 不意に、モニターの奥のカグラギが周りをきょろきょろと見回すような素振りを見せたかと思うと、

『…もしかすると…、…ラクレス殿はバグナラクと手を組むのか…、…と…』

 と言った。

「…だろうな」

『おや。ヤンマ殿も同じことをお考えで?』

「ンなもん、あのおっさんの行動を見てりゃ、すぐに分かるだろうが!!

 さっきから大きな溜め息ばかり出る。

「この世界を支配するのに手段は選ばねえ。あの顔がそう言ってらあッ!!

『これはまた手厳しい』

「…あ?」

『い、いやいや、何も!!

 ニコニコと不気味な笑みを浮かべるカグラギ。

『ですので、今のうちに、我々、シュゴッダム以外の国だけでも結束を強め、対策を講じておくのが得策かと…』

「…分あった…」

『…え?』

 ヤンマの口から出た言葉に、今度はカグラギがその大きな瞳をパチパチと小刻みに瞬かせた。

「…いつだ?」

『え?』

「だあら、食事会はいつだって聞いてんだッ!!

『…そ…、…それが…』

「ったく!!さっさと言えよッ、このスカポンタヌキイッ!!

 カグラギの一挙手一投足にイライラさせられる。

『…それが…、…今…なのです…』

「ぶッ!!

 その時、ヤンマはグビグビとラッパ飲みしていたコーラを盛大に吹き出した。

「…は…、…はああああ…ッッッッ!!!?

『ちょっとッ!!いつまでも何をモタモタやってんのよッ!?

 その時、モニターの奥から大きな声が聞こえて来たかと思うと、ヒメノ・ランがにゅっと現れた。

「おわッ!?ヒッ、ヒメノちゃんッ!?

『さっさと来なさいよッ!!アンタが来ないと、何にも始まらないでしょうッ!?

 そう言うヒメノの奥では、リタ・カニスカが大きな座布団の上にちょこんと座り、口元にある防寒着の隙間に長い箸を入れ、もぐもぐと口を動かしている姿があった。

「てめええええッッッッ、カグラギイイイイイイイイッッッッッッッッ!!!!!!!!

『はい?』

 ニコニコと微笑んでいるカグラギ。その顔にヤンマは顔を真っ赤にすると、

「一番大事なことは最初に言えええええッッッッ、このスカポンタヌキイイイイイイイイッッッッッッッッ!!!!!!!!

 と怒鳴っていた。

 

「ささささッ!!まずはご一献…」

 なみなみと注がれた酒。ヤンマは無言のまま、それをグイッと呑み干す。

「あぁら、あんさん。いい飲みっぷり♥」

「…あ゛!?

 カグラギの大きな顔。その気持ち悪い笑みにヤンマは顔を仰け反らせていた。

「どうです、我が国のお酒は?豊かな大地で実った米を使って醸造したお酒はまた格別なものでしょう?」

「…あ…、…ねえッ!!

 不意にヒメノが声を上げる。

「私達、シュゴッドに乗ってここまで来たじゃない?お酒を飲むと言うことは、飲酒運転になるのかしら…?」

「何だ、そりゃ?」

 カグラギに出された酒をさっきからガブガブ飲み続けているヤンマが声を上げた。

「車とは違うんだ。シュゴッドなんだから、関係ねえだろうが!!

「…ふむ…」

 その時、もくもくと食事にありついていたリタが声を上げた。

「…シュゴッドはそもそも自らの意志を持ったもの。移動する時はただ、行き先を伝えるだけだ。となれば、自動運転と何ら変わりはない。つまり、直接操縦しているわけでもない。となれば、法的には何の問題もない」

「…だとよ!!

 そう言った時、ヤンマがふと手を止めた。

「…タコメンチはどうした?」

「…え?」

 カグラギがきょとんとする。すると、ヤンマは半ば苛立ちながら、

「あのタコメンチだよッ!!

 と言い放った。

「…ギラ殿の、こと…ですか…?」

「それ以外に誰がいるっつーんだよッ!?

「…実は…」

 ポリポリと頭を掻くと、カグラギが言った。

「…彼は、ここには呼んでいないのです…」

「…は?」

 ヤンマが一瞬、きょとんとした表情を見せた。だがすぐに、

「…どう言うことだ!?

 と、眉間に皺を寄せ、カグラギを睨み付けたのだった。

 その時だった。

「…正直に言えば…」

「…ヒメノ…ちゃん…?」

 俯き加減で、まるで思い詰めているかのような表情をしているヒメノ。膝の上に載せられている両方の拳がギュッと握られ、微かに震えている。

「…私は…。…ギラのことが信用出来ないの…」

 

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