逆転有罪 第9話
「…私は…。…ギラのことが信用出来ないの…」
ヒメノが言い放った言葉を聞いた時、
「…あ?」
と、ヤンマは一瞬、理解出来ないような表情を見せた。だがすぐに、
「…ど…、…どう言うことだよ、ヒメノちゃん…?」
と、ヒメノに尋ねる。するとヒメノは、
「…今まで、ギラにはたくさん助けてもらった。スコピーだけじゃなく、スコピーと同じく三大守護神であるゴッドカブト、ゴッドホッパーにも。…ギラは、スコピーのことをサソリーヌと呼び、ゴッドカブトはカブたん、ゴッドホッパーはバッ太って…。…ギラはシュゴッドの言葉が分かるって言ってた。でも、それって、あり得ないことじゃない?」
と、膝の上で握り締めている拳を小さく震わせながら言った。
「シュゴッドよ?シュゴッド達と心が通じ合うだけならまだしも、言葉まで理解出来るなんて、おかしいわよ!!…人間離れしてる…。…不気味だわ…!!」
「…お、…おい、ヒメノちゃん…!!」
「…それに…」
ヒメノは言葉を続ける。
「…彼は…。…ギラは、ラクレスの弟なのよ?…15年前に何があったのかは知らないけれど、ラクレスと仲違いしているって言ったって、そんなの、簡単には信じられないわ!!…彼は…、…いつかは私達を裏切る。…いえ、もう既にその手の中に私達は嵌まっているのかもしれないわ!!」
「止めろッ!!」
その時、ヤンマは大声を上げていた。そして、それまで座っていた大きな座布団の上に俄かに立ち上がると、ヒメノを半ば睨み付けるようにしていたのだ。
「…てめえ…、…何言ってやがる…!?」
「…な…、…何よ…ッ!?…そ、そんな怖い顔をしなくたっていいでしょうッ!?」
「…散々、ギラに助けられておきながら、本当の気持ちはそれかよッ!?15年前のことだって、ギラがいたからスコピーと分かり合えた。アイツがいたから、オレ達は何度も助けられて来たんじゃねぇかッ!!言ってみりゃあ、アイツはオレ達のなか…」
その時だった。
ドクンッ!!
不意に、ヤンマの心臓が大きく高鳴り、
「…うぐ…ッ!?」
と言ってその場に蹲った。
(…あ…、…れ…?)
「…ヤンマ殿?」
カグラギが訝しげに見つめる。
「ヤンマ殿?どうなされたので?」
「…いや…、…何でもねぇ…」
ドクンドクンと大きく高鳴る心臓を包み込むように、胸を押さえるヤンマ。
(…どうしちまったんだ…!?…酒の…、…せいか…?)
戸惑いを隠せない。
(…オレは…)
その視線はきょときょとと忙しなく動き、顔はほんのりと熱い。
(…オレがアイツの…、…ギラのことを仲間だと呼ぼうとした時、オレの心臓が大きく高鳴った…)
「大丈夫ですか、ヤンマ殿?」
その時、カグラギがヤンマの両肩に手をかけると、
「ささささ、落ち着いてお座りになってくだされ!!」
と言うと、ヤンマをその座布団へと再び座らせた。
「…それにぃ…。…今日はぁ、サミットとでも申しますか、シュゴッダム以外の国王だけで今後のことを話し合いたいと思いまして…」
カグラギがそう言うと、
「各国のシュゴッダムに対する対応を確認するために設けられた会だ。となれば、王でもないギラをこの場に呼ぶのは相応しくない」
と、今度はリタがカグラギを援護するように言った。
「…ギラを呼んでいないことに誤解を与えるようなことを言って申し訳ない。本当の目的は、そう言うことなのです」
そう言った時、カグラギが不意に顔を歪めた。
「それにしても、ギラ殿のあの能力は、正直なところ、不気味なものはありますなぁ…」
「…あ?」
その言葉に、ヤンマが反応する。
「…いろいろな噂が飛び交っているではないですか。…いくら、ラクレス殿の弟君とは言っても、バグナラクと繋がっているとか、強盗団の親玉と言う噂があったり、毒虫を食らう化け物とも言われておりますしぃ…。…それにぃ、彼は自身のことを邪悪の王などと称しておりますなぁ…」
「おいッ、カグラギ!!」
ヤンマが声を出すが、
「ギラがラクレスの弟であると言うこと以外、シュゴッダムの文献には何一つ、ギラに関する記録が残されていない」
と、リタが言う。
「彼は養護施設で育ったと言ったが…。…その理由は、ラクレスが王位継承のためにギラが邪魔だっただけなのか、あるいは…」
「おいッ、リタッ!!」
「そうよッ!!やっぱり、ギラには何か秘密があったのよッ!!」
ヤンマの怒鳴り声を遥かに凌ぐようなヒメノの声が響き渡る。
「きっと、ギラがバグナラクと繋がっていた。そうに違いないわッ!!」
「いい加減にしろオオオオオオオオッッッッッッッッ!!!!!!!!」
その時、ヤンマが荒い呼吸をしながら怒鳴っていた。
「てめえらッ!!それでも各国の国王かッ!?」
はぁはぁと荒い呼吸をし、顔を真っ赤にして3人を睨み付けている。だが、ヒメノ、リタ、そしてカグラギは無表情なままだ。
「…オレらがキングオージャーを召喚し、バグナラクの地上侵攻を阻止出来ているのは誰のお陰だッ!?三大守護神がオレ達の味方になってくれるのは誰のお陰だッ!?あ゛あ゛あ゛あ゛ッッッッ!!!?…みんな…、…みんな、あのタコメンチのお陰だろうがッ!!…アイツは…、…ギラは…。…バグナラクの手先でも、ラクレスの弟でも何でもねええええッッッッ!!!!…オレらの…、…仲間だああああああああああああああああッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!」
その時だった。
ドクンッ!!ドクンッ!!
「はうッ!?」
心臓が再び大きく高鳴り、ヤンマは胸を押さえ込んでその場に蹲った。
「…な…、…んだ…!?」
「…仲間…、…ねぇ…」
「…あなたの口から、そんな言葉が出て来るとは思わなかったわ…」
「…ゴッドスコーピオの毒が…、…効き始めて来たようだな…」
「…な…、…何…言って…?」
その時だった。
「…え?」
ヤンマが驚くのも無理はない。
「…ど…ッ、…どうなってんだ…ッ!?」
その場に蹲っていたヤンマの体が立ち上がり、オージャカリバーを構えていたのだ。
「Tone boy!!」
ヤンマが手にしているオージャカリバーが青く輝いている。オージャカリバーのトンボのスイッチを押したのだ。そして、立て続けに鍔のカマキリ、パピヨン、ハチのスイッチを押した時、オージャカリバーは眩く輝いていた。
「…王鎧…、…武装…!!…って、ええええッッッッ!!!?」
無意識なのか、ヤンマが王鎧武装と言った途端、ヤンマの体を眩い繭のようなものが包み込み、その繭のようなものが消えた時、ヤンマの体は鮮やかな青色のスーツに包まれていた。
「Tone boy!!オージャーッッッッ!!!!」
全身青色のスーツ。その胸の部分には装甲が施され、右胸にはンコソパ国のエンブレムが施されている。体の側面は中心部に比べて濃い青色で、マスクはトンボのデザインが模られていた。そして、左肩には王の威厳を示すマントが垂れ下がっていた。
トンボオージャー。それが、ヤンマが王鎧武装した姿だった。
「…ククク…!!」
カグラギの目がギラギラと不気味に輝いている。
「さすが、ヒメノ殿。ゴッドスコーピオの毒をいとも簡単に混ぜ合わせるとは…!!」
その時、
「…フフッ!!」
とヒメノが笑う。
「私はイシャバーナの女王よ?」
その目がギラリと不気味に輝いた。
「…あなたが飲んだお酒。その中に、スコピーの毒を混ぜておいたのよ…!!」