逆転有罪 第16話
ンコソパ国・ベタ城――。
「…ッ!?ヤンマああああッッッッ!!!!」
トンボオージャーのシュゴッド、ゴッドトンボがその長く大きな翅を小刻みに羽ばたかせながらベタ城の一角に降り立った時、それを窓から眺めていたギラが物凄い勢いで駆け出して行った。
「…ヤンマ…。…ヤンマああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!」
「よう、タコメンチ」
ニッコリとしながら右手を軽く上げるヤンマを見た時、ギラはヤンマの胸倉を掴んでいた。
「貴様ッ、どこへ行っていたッ!?シオカラに聞いても知らぬ存ぜぬの一点張りだったッ!!オレ様がどれだけ必死に探し回ったか…!!」
鼻息荒くふんふんと言うギラに対し、
「んなこたァ、オレの知ったことか、このスカポンタヌキッ!!」
と、ヤンマは面倒そうな顔付きをした。すると、その言葉にギラは、
「…そ、…それもそうだな…」
と言ったが、すぐに、
「じゃなくってええええええええッッッッッッッッ!!!!!!!!」
とすぐにヤンマの胸倉を再び掴んでいた。
「一国の王が行き先を誰にも告げることなく出かけるなんてことがあるのかあッ!?」
「…ここにいるが?」
フンと鼻で笑うヤンマ。それに対し、ギラは顔をますます真っ赤にし、
「…き…ッ、…貴様ああああああああああああああああッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!それでもッ、一国の主かああああああああああああああああッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!????」
と怒鳴っていた。すると、ヤンマも、
「るっせえなああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!このタコメンチイイイイイイイイッッッッッッッッ!!!!!!!!」
と大声を上げた。
「国王たるもの、誰にも絶対に知られちゃならねえことだってあるんだよッ!!」
「…誰にも…、…知られちゃならないこと?」
ギラはそう言うと、
「…この、オレ様にもか?」
と尋ねた。
「…あ?」
「…仲間である、オレにも話せないことなのか?」
「あ゛あ゛ッ!?」
少しだけ寂しそうな表情のギラ。その表情に面食らう。
「…オレは…。…オレは…、…ヤンマは仲間だと思っているのに…」
「…ッッッッッッッッ!!!!!!!!」
その表情に、
「ああああああああッッッッッッッッ、もうッ、めんどくせえなああああああああああああああああッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!」
と、ヤンマはガシガシと頭を掻いた。そして、不意に辺りをキョロキョロと見回すと、
「…ついて来い…」
と言ってスタスタと歩き始める。
「…え…ッ!?…ちょッ、…ちょっとッ!?ヤンマああああああああッッッッッッッッ!!!!!!??」
ギラはそう叫ぶと、急いでヤンマの後を追った。
「…ここなら、誰にも見られることはねぇな…」
ベタ城の一角に辿り着くと、ヤンマは目の前の扉を開ける。
「…ここ…、…は…?」
様々なコードや機械などが乱雑に置かれた部屋。
「…ここが…。…全ての始まりだった場所だ…」
小さなテーブル。そこに置かれた古びたマグカップ。ヤンマはそれを手に取ると、
「…オレはここからたった1人で伸し上がって来た。誰にも媚びねえ、諂わねえ、テッペン取ってやるって思った…」
と言いながら部屋の中をぐるっと見回した。その瞳に懐かしさが漂っている。
「…ここは、オレしか知らねぇ場所だ。…そして…」
「…え?」
ドクンッ!!
その時、ギラの心臓が大きく高鳴った。
「…ヤ…、…ンマ…?」
ギラを見つめるヤンマの瞳。何かを思い詰めるような、切なそうな瞳を今まで見たことがあっただろうか。
「…ど、…どうしたんだ、ヤンマ?」
「…ギラ…ッ!!」
その時、ギラはヤンマの両腕にしっかりと包まれていた。
「…ヤ…、…ヤンマ…ッ!?」
突然のことに戸惑う。
「…なッ、何をするんだッ、ヤンマッ!?…はッ、…離せ…ッ!!」
「離さねえッ!!」
突然、耳元で大声を上げられ、ギラは思わずビクリと体を跳ねらせた。
「…ギラ…。…お前は…、…お前は仲間だッ!!…シオカラや他の連中とは違う、けれど、仲間であることに変わりはねえッ!!」
すると、ヤンマは呆然としているギラを離すと、その両肩をしっかりと掴んだ。その顔が心なしか、赤らんでいる。
「…ヤ…、…ヤンマ…?…ど、…どうしたんだ、いきなり…?」
「…ギラ…。もう、無理すんな」
「…え?」
「無理に邪悪の王になることなんてない。強がることなんてないッ!!お前は本当は優しい人間なんだからよ…」
するとギラは笑みを浮かべると、
「…ぼッ、…オッ、オレ様は邪悪の王だッ!!この世界を支配する邪悪の…」
と言いかけた。その言葉を遮るかのように、
「だからッ、邪悪の王じゃなくていいつってんだろうがッ、このスカポンタヌキイイイイイイイイッッッッッッッッ!!!!!!!!」
とヤンマが怒鳴ると、ギラの頭を引っ叩いていた。
「あ痛ッ!!」
突然のことにギラが素っ頓狂な声を上げる。そして、
「…なッ、何するんだッ、ヤン…」
と、ヤンマの名前を呼ぼうとした。だがその時、ヤンマはさっきよりも強い力でギラを抱き締めていたのだ。
「…ヤッ、ヤンマッ!?…どどどど、どうしたんだよッ!?…今日のお前、何か、変だぞッ!?」
さすがのギラもパニックに陥っているようだ。
その時だった。
「オレがッ、お前をシュゴッダムの国王にしてみせるッ!!」
「…え?」
どのくらい間があっただろう。じっと見つめ合った時、ギラがようやく口に出した。すると、ヤンマは、
「オレが、お前をシュゴッダムの国王にしてみせるっつったんだよ」
と言った。その顔が心なしか赤らみ、目が潤んでいるように見える。
「…ヤン…、…マ…?」
ドクンッ!!ドクンッ!!
ギラの視線がきょときょとと忙しなく動き、顔が赤らんでいる。
「…ギラ…」
「…な、…何…?」
その時、ヤンマは大きく深呼吸をした。そして、再びじっとギラを見つめてこう言った。
「…オレは…。…お前のことが…。…ギラのことが好きだ…!!」
「…」
再び、間が空いた。目の前のギラは固まったかのように硬直している。そして、俄かに顔を引き攣らせたかと思うと、
「…は…、…はああああああああああああああああッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!????」
と悲鳴に近い声を上げていたのだった。