逆転有罪 第25話
イシャバーナ国――。
「珍しいわね、一人で来るなんて…」
全てが眩しく、キラキラと輝いて見える巨大な空間。別世界にいるのではないかと思えるほどに豪華絢爛な大広間の一番奥の中央部分に大きな玉座があり、そこに女性が優雅に腰掛けていた。
「普通だったら、ヤンマが隣りにいるのに…」
悪戯っぽく笑うヒメノ。その途端、ギラは目を見開き、
「…ぼ…、…オッ、オレ様だって1人で来ることくらいあるッ!!」
と言った。そんなギラに対し、
「何をムキになってるのよ、ギラ?冗談に決まってるでしょう?」
と、ヒメノは冷たい眼差しを送った。
「…でも…」
じっと見つめられると、ドキッとしてしまう。そのくらい、ヒメノの瞳には何かを引き付けるものがあった。
「…何かを悩んでいるような感じね?」
そう言うと、
「…これからのことかしら?」
と言った。
「…あなたがシュゴッダムの新しい国王になった。…どうやったら、民を引き付けることが出来るか、どうやったら、国を上手に治めることが出来るか…」
「…僕は…」
その時、ギラは目を伏せた。
「…僕は…。…ラクレスの弟だとは言え、ずっと、養護施設で育った。この世の中のことも、社会の仕組みも、何もかも分からない。…そんな僕が…、…いきなり王様だと言われて…」
「でも、邪悪の王になって、この世界を支配したいんじゃなかったの?…それとも…、…それはただの戯言?」
厳しい眼差しを向けるヒメノ。その時、ギラは、
「ちッ、違うッ!!戯言なんかじゃないッ!!僕はッ、本当にラクレスの政治が大嫌いだった!!民を民とも思わない、邪智暴虐の限りを尽くすアイツのことがッ!!…でも…」
と言うと、寂しげに笑った。
「…僕の記憶の中のあの人はあんなに邪智暴虐の限りを尽くすような人じゃなかった。…一人一人が国だ…、…あの人は、そう言ったんだ…」
その時だった。
「なぁんだ。ちゃんと分かってるじゃない」
「…え?」
明るい声に思わず顔を上げると、ヒメノが静かに微笑んでいる。
「…ギラ…。…あなたはあなたがやりたい通りのことをやればいいのよ。ラクレスと言う反面教師がいたんだもの。その逆のことをやればいいのよ」
「…逆の…、…こと…?」
「あなたも言ったでしょう?ラクレスが人を人とも思わなかったのであれば、あなたは人を人と思う政治をすればいいのよ」
「…」
分かったか、分からないかのような表情をして戸惑っているギラに対し、ヒメノは言葉を続ける。
「それに、あなたはシュゴッドと心を通わせる力がある。シュゴッドと話をすることが出来る。その特殊な力も、国を治めるには大事なことよ。みんな、力になってくれるわ。あなたの特殊な力で、シュゴッダムを治めればいいじゃない」
「…シュゴッドと…、…話をする力…?」
「そう。そして、そんなあなたの傍には、ヤンマもいる」
「…ッッッッ!!!?」
そんなヒメノの言葉に、思わずドキッとする。
「…フフッ!!」
ヒメノは悪戯っぽい笑みを浮かべると、
「あなたがここに来た理由。これからのことだけじゃないんでしょう?」
と言った。
「…な…ッ!?」
「…図星みたいね」
顔を真っ赤にしたギラに対し、ヒメノは相変わらず悪戯っぽい笑みを浮かべている。
「私は医者よ?患者さんが言い出せないような不安や悩みを上手く引き出してあげて、ケアしてあげないと。少しでも不安や悩み事を取り除くのが、私達医者の仕事よ?」
そこまで言うと、ヒメノは大きな溜め息を吐き、
「どうせ、アイツのことだし…。好きだとか何とか言われたんじゃないの?」
と言った。その途端、
「…えッ、ええええええええッッッッッッッッ!!!!!!??」
と、ギラが大声を上げた。
「…あら…、…その慌てふためきようだと、図星ってことかしら?」
「…あ…あ…あ…あ…!!」
その場に立ち尽くし、目を大きく見開き、口をパクパクとさせて何も言えないギラ。
「…案外、その先まで行っちゃってたりして…?」
「うぎゃああああああああああああああああッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!」
「ちょっとッ、そんなにパニックにならないでよッ!!」
ギラが上ずった声で悲鳴を上げ、頭を抱えて蹲ると、ヒメノが声を荒げた。
「…な…ッ、…何でそんなことまで分かるんだ…!?」
「だから言ったでしょうッ!?私は医者なんだからッ!!もう、本当に嫌ッ!!」
ヒメノは不機嫌気味にそう言った。
「…それで?…これからどうするのよ?」
「…ど、…どうする…って…?」
「だから、ヤンマとのことよッ!!」
「…え…、…え…っと…ぉ…」
顔を真っ赤にして口ごもるギラ。するとヒメノは、
「ヤンマとはどこまで行っちゃったのよ?」
と聞いて来た。
「…え…ッ、…ええええええええええええええええッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!????」
「だからッ、いちいち叫ばないでよッ!!もうッ、本ッ当に嫌ッ!!」
「…いッ、…嫌って言うわりには目がギラギラしてるじゃないかああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!」
「そりゃ、そうよ。そう言うことは聞いてみたいもの」
「…ッ!!」
調子が狂う。ギラは大きく溜め息を吐くと、
「…オレ様のファーストキスを奪われ…、…体も…。…ある意味、レイプ状態だった…。…それに…、…ヤンマもファーストキスだって…、…言ってた…」
と、顔を真っ赤にして言った。するとヒメノは、
「…まぁ…」
と目を見開き、口元に手をやる。そして、
「…美しい…!!」
と言ったのだ。
「…え!?」
「だってそうでしょ!?イケメンのギラとヤンマが愛し合ったのよ!?それってもう、美しい以外の何物でもないわ!!」
「…お…、…おい…、…ヒメノ…」
「…フフッ!!」
悪戯っぽく笑うと、
「いいんじゃない?頼れる存在がいるって言うのは、とぉっても素敵なことよ?形はどうあれ、あなたはヤンマに愛されているわ」
と言った。そして、
「セバス。ギラにも紅茶を淹れて差し上げて。もう少し、ヤンマとのお話を聞きたいわ」
と、傍に控えていた年配の男性風の男に言った。するとギラは、
「…べ、別に他に話したいことは…」
と、困ったように言った。だが、ヒメノは相変わらずニッコリとした笑みを浮かべ、
「いいのよ。それに、これからのこの世界のことも、いろいろとお話したいわ」
と言った。
「…そ…、…そう…なのか…?」
「ええ。いろいろお話しましょうよ。お紅茶もたくさんあるわ。美味しいお菓子もね…!!」
だがその時、ギラは気付いていなかった。ヒメノの目がギラリと真っ赤に光ったのを。