逆転有罪 第27話
シュゴッダム国――。
「…」
反逆者扱いされているギラは、辺りをキョロキョロと見回しながら物陰に隠れつつ、慎重に動いていた。ゴウウウウン、ゴウウウウン、と言う機械の重々しい音が響き渡る。
「…ラクレス…」
街を歩く人々。その面影は心なしか、沈み、目からは生気が消えているようにも見える。
「…ラクレスのせいで、人々が困窮しているのか…?」
「そうだねぇ。ラクレスは横暴の限りを尽くしているようだからねぇ…」
突然、背後から声が聞え、ギラはビクリと体を跳ねらせた。そして、思わず振り返った時、その口をいきなり塞がれた。
「おおっとぉッ!!今叫んだら、反逆者ギラがいるって大騒ぎになってしまうよ?」
「…もが…ッ!!」
目を大きく見開き、呆然とするギラだったが、その体から少しずつ力が抜けて行く。そして、口を塞いだ者・ジェラミーの手を掴むと、ゆっくりと下ろした。
「…ジェラミー…」
「…お帰り、ギラ」
ニッコリと微笑むと、ジェラミーはそう言った。
「世界中を回る旅は楽しかったかい?」
「たッ、楽しかっただなんて…」
「おおっとぉッ!!言わなくても大丈夫だよ。全く、行間を読めないヤツだなぁ…」
ジェラミーは再びニッコリと微笑むと、
「世界各国の王達に会って、話をして来たんだろう?」
と言った。するとギラは、
「…ああ…。…ヤンマも、ヒメノも、リタも、カグラギも、みんな、僕に協力してくれるって言ってくれた」
と目を輝かせて言う。するとジェラミーは、
「そうか。それは良かった」
とニッコリと微笑んだ。
「…とは言え、キミはまだまだ反逆者としてのレッテルを貼られたままだ。この国の王・ラクレスを追い出したわけでもないし、各国の王達がキミに協力を申し出てくれているとしても、キミが正式な国王と決まったわけじゃない。まだまだ、ラクレスの影響下にある、と言うことさ」
「…ああ…」
その時、ギラは厳しい眼差しでジェラミーを見つめていた。
「…ここまで来る時、人々の顔を見た。…みんな、生気を失ったかのように、ただ、ぼんやりと歩いている。それこそ、生きているのか、死んでいるのか、分からないくらいだ」
「まるで動く死体、と言ったところかな」
ジェラミーが溜め息を吐く。
「…ラクレスの横暴は激しさを増すばかりだ。増税に次ぐ増税。人々の心はどんどん疲弊して行き、争いが絶えなくなる。重い税金に苦しみ、故郷を捨てて逃げ出す人もいる。でも、逃げ出したところで次に生活するあてもない。この国は島国だからね。他の国に逃亡を計画したところで、広大な海が遮って逃げられたものじゃない。…それに、逃げようとしたところで、ラクレスの操り人形であるシュゴッダムの兵士共がどこまでも追い掛けてその者達を捕らえる。そして、捕らえられた者は次々に…」
その時、ジェラミーは自身の首に手をやると、スッと後ろから前へ振り下ろした。
「…ラクレ…ス…うううう…ッッッッ!!!!」
ギラは怒りにブルブルと震える。そして、
「許さんッ!!オレ様がッ!!絶対にこの国を支配してみせるッ!!国の民一人一人が国だッ!!ラクレスの野望を踏み躙り、子供達に未来を見せるッ!!そんな王にッ、オレはなってやるううううッッッッ!!!!」
と叫んでいた。
その声を聞いた通りすがりの者達は生気が失われた眼差しでチラリとギラを見るも、皆、再び俯き加減にふらふらと歩き始めた。
「…異常だ…」
その光景を見て、ギラが呆然とする。
「…分かったかい?」
ジェラミーが静かに言う。
「キミが邪悪の王であり、裏切り者であったとしても、最早、誰もキミのことを見向きもしない、と言うことさ。そのくらい、この国の民は疲れ切っているとしか言いようがない。…だから…」
その時、ジェラミーはギラに近付くと、その肩をぽんと叩いた。
「お前さんがこの国を変えればいい。お前さんの王道をどこまでも突き進むといい。子供達に明るい未来を見せる、そう言う未来を選んだのなら、ボクはそれを大いに語り継ぐとしよう」
そう言った時、ジェラミーが悪戯っぽい笑みを向けた。
「ところでぇ…。お前さんはヤンマと結ばれたのかい?」
「…は?」
きょとんとするギラに対し、ジェラミーは言葉を続ける。
「噂は聞いたよ?ヤンマがキミに愛の告白をしたそうだね」
「ぶッ!!」
「おおっとぉッ!!顔が真っ赤になった!!あはッ!!これは本気のようだね!!」
「…な…ッ!?…な…ッ!?」
目を激しく瞬かせ、ギラは言葉に詰まる。その顔からは湯気が出ているのではないかと言うほど真っ赤になり、しゅうしゅうと言う音が聞こえるほどだった。
「…だが、気を付けた方がいい。…表向きは協力するような素振りを見せながらも、裏では誰が誰と繋がっているか分からない」
「…え?」
じっとギラを見つめるジェラミーの視線。その視線にギラの心臓がドクンッ、と高鳴った。
「…何を…、…言って…」
「キミが頼りにしている各国の王達も、裏では…」
「止めろッ!!」
ギラはジェラミーを睨み付けている。
「…そ…、…そんなこと…。…そんなこと、あるもんかッ!!ヤンマもヒメノも、リタもカグラギもッ!!みんな、ラクレスに対して不満を持っている。みんなで一致団結して、ラクレスを追い落として、新たな5王国同盟を築いて…」
「それはキミが行間を読めていない証拠だ」
ジェラミーが静かに言う。
「…いいかい?キミが他の王達、特にヤンマを信じるのはいいことだ。…でも、その信頼が絶望に変わった時、キミはそこから抜け出すことが出来るのかい?」
「…ジェラミー…?…何、…言って…?」
その時だった。
ジャキッ!!
突然、ジェラミーがヴェノミックスシューターを取り出すと、
「バンッ!!」
と言う掛け声と共にそのトリガーを引いた。その瞬間、
バシュウウウウウウウウッッッッッッッッ!!!!!!!!
と言う音が聞こえ、ギラの体に夥しい量の蜘蛛の糸がぐるぐると巻き付いたのだ。
「…ジェッ、ジェラミーッ!?」
「…ククク…!!」
ジェラミーの目が真っ赤にギラギラと輝いている。
「…どッ、どう言うつもりだッ、ジェラミーッ!?」
ギラが怒鳴ると、
「…やれやれ…。…お前さんは行間を読むと言うことを知らないのかい?…もっと、行間を読めるようにしなきゃ…!!」
と、ジェラミーは不気味な笑みを浮かべてそう言った。
その時だった。
「…おいおい…。…何てザマしてんだ、タコメンチ…?」
…コツ…。…コツ…。
足音が聞こえ、その声の主が姿を現した時、ギラは呆然となった。
「…ヤ…、…ヤ…ンマ…?」
目の前に姿を現したヤンマ。その目が真っ赤にギラギラと輝いている。
「…フンッ!!」
そして、ギラを見るとフンと鼻で笑った。
その時だった。
…コツ…。…コツ…。
「…ッッッッッッッッ!!!!!!!!」
更なる足音が聞こえた時、ギラはその場に凍り付く。
「…久しぶりだな、ギラ…!!」
ラクレスが鋭い眼差しでギラを見つめていたのだった。