逆転有罪 第28話
1人の男が、ギラを侮蔑するように冷たい眼差しで見つめている。普段からギョロッとしたその目は静かに佇んではいるが、その瞳の奥には激しい憎悪の感情が窺えた。
「…久しぶりだな、ギラ…!!」
そう言う声にも、凍えるほどに冷たい感情が窺えた。
「…ラク…、…レス…うううう…ッッッッ!!!!」
我を忘れそうになる。そんなギラを見て、ラクレスは、
「…フンッ!!」
と鼻で笑い、
「…お前は昔から変わっていないんだな。そのカッとなりやすい性格、やはり、私が貴様を侮蔑するに値する」
と言った。そして、ギラを挑発するように目を大きく見開いたかと思うと、
「…愚かだなァ、ギラああああッッッッ!!!!」
と叫んだのだ。その瞬間、ギラはカッとなり、
「…ラぁクぅレぇスううううううううううううううううッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!」
と呻くように叫んだかと思うと、ラクレスに向かって飛び出そうとした。だが、その体を動かした時、ギラはグンッ、と何かに引っ張られるような感覚がした。
「…ッ!?」
そうだった。自分の体には、ジェラミーが持っていたヴェノミックスシューターから飛び出した無数の蜘蛛の糸がぐるぐると巻き付いていたのだ。
「…ど…ッ、…どう言うつもりだッ、ジェラミーッ!?」
「おおっとぉッ!!オレに言うのかい?」
真っ赤に光る目をギラギラと輝かせ、ジェラミーは意地悪な笑みを浮かべて素っ頓狂な声を上げる。
「…そもそも、こうしろと命令したのはラクレスなんだけどねぇ…」
「…な…、…に…?」
ギラも思わず目を見開き、信じられないと言う思いでラクレスを見つめる。
その時だった。
「…てめえ…。…まぁだ、気付かねぇのかよ…?…ったくぅ、とんだお人好しだなァ、てめえは…!!」
柄の悪い声が聞こえ、ギラは思わずその方向を見る。
「…ヤンマ…、…何…言って…?」
ンコソパ国王・ヤンマ・ガストがギラを侮蔑するかのような眼差しで見つめている。その目が真っ赤にギラリと光った時、
「…てめえは最初っから騙されてた、ってこった!!このスカポンタヌキッ!!」
と言ったのだ。
「…え?」
長い沈黙の後、ギラがようやく声を上げた。その顔は明らかに戸惑っている。
「…何…、…言って…?」
「だぁら、てめえなんざ、最初っから信用されてなかったっつってんだよッ、このスカポンタヌキッ!!」
「…どう言う…、…こと…?」
「おおっとぉッ!!キミはまぁだ、行間が読めないと言うのかい?」
ジェラミーが信じられないと言う表情でギラを見つめる。
「いいかい?世界各国の王達は、ラクレスに対して不満など1つも持っていないと言うことさ!!ラクレスに従い、ラクレスが束ねる世界で平和に暮らす。そして、バグナラクとも手を取り合い、地上と地底、全ての世界の平和を実現する、と言うことさ!!」
ジェラミーがそう言った時だった。
「…何…言って…?」
ギラがわなわなと体を震わせる。そして、今にも泣きそうな表情を見せると、
「何言ってんだよッ、ジェラミーッ!!」
と怒鳴った。
「…ラクレスが…、…束ねる世界…だと…?…バグナラクと…、…手を取り合う…、…だと…?」
その体がブルブルと震えている。
「さっきだって見ただろうッ!?ラクレスが邪知暴虐の限りを尽くし、民は疲弊している!!その顔からは生気が失われ、まるで彷徨える死体のようだ!!…そんな…、…そんな世界が、本当に平和だと言えるのか…ッ!?…それに…、…バグナラクと手を取り合うなんて、出来るわけがない!!奴らはこの地上世界をも支配しようとしているんだ!!そんなことをされたら、ますますもってこの世界がダメになってしまうじゃないかッ!!」
その時、ギラははっとした表情を浮かべると、
「…なあッ、ヤンマあッ!!…オレが…ッ!!…オレが、シュゴッダムの新たな国王になれば、世界は争いのない、平和な世界になるはずって、…5国同盟を復活させて、オレ達が手を取り合い、国境を飛び越えて仲良くすれば、民の心も付いて来るって言ってくれたのは…。…オレのことを仲間だって、好きだって言ってくれたのは、ウソだったのかああああッッッッ!!!?」
と、ヤンマに懸命に訴える。その途端、ヤンマは、
「あ゛あ゛ッ!?」
と俄かに顔を真っ赤にしたかと思うと、
「…おッ、…おま…ッ!!…よくそんな恥ずかしいことを堂々と言えるなああああッッッッ!!!!」
と言った。だがすぐに、
「…フンッ!!」
と鼻で笑うと、
「…おい、タコメンチ…」
とギラを呼ぶ。
「…何…?」
「…てめえ…。…ウソも方便って言葉、知らねえのかよ…?」
「…ッッッッ!!!?」
その瞬間、ギラは突き放されたような衝撃を受けた。
「…ククク…!!」
ヤンマが低く笑う。
「…最初っからてめえのことなんざ、どうでも良かったんだよ!!てめえのことが好きだ、てめえを守りたい、そして、てめえがシュゴッダムの国王になればいい、なんて調子のいいことをほざいて、てめえを持ち上げておけば、後が楽だろ?」
「…そ…、…それ…って…?」
呆然とするギラ。その時だった。
…コツ…。…コツ…。
何人かの足音が聞こえ、ラクレスの元へ歩み寄った者がいた。
「悪く思わんで下され、ギラ殿」
「…カグ…、…ラギ…?」
トウフ国王・カグラギ・ディボウスキがニコニコとしながら言う。だが、その目は真っ赤にギラギラと輝いている。
「最初から、仕組まれていたことなのです。全てはラクレス殿のために…!!」
「…汚らわしい…ッ!!」
イシャバーナ国女王・ヒメノ・ランは、ギラのことを何かおぞましいものを見るかのような表情で見つめている。その目も真っ赤に輝いている。
「…男同士で愛を語り合うなんて…!!」
「…しかも、体を重ね合わせたと聞く…。…もし、それがお互いの合意なくして行われたことであれば、それは強姦罪に値する…」
ゴッカン国王・リタ・カニスカが静かに言う。その目も真っ赤に輝いている。
「…それから、ギラ…」
「…な、何だよ…ッ!?」
「…我々は、お前よりも先に5王国同盟を結んでいる。ンコソパ国王・ヤンマ・ガスト、イシャバーナ国女王・ヒメノ・ラン、トウフ国大殿様・カグラギ・ディボウスキ、そして、シュゴッダム国王・ラクレス・ハスティ。この者達によって、5王国同盟は既に揺るぎないものとなっている。お前との5王国同盟など、あり得ない。書面でも交わしていないため、無効だ」
「…待って…、…くれ…」
リタの口から次々に飛び出す、耳を覆いたくなる言葉。
「…待ってくれ…。…待ってくれええええええええええええええええッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!」
思わず叫んでいた。
「…みッ、みんなッ、どうしちゃったんだよッ!!…みんな、あんなにラクレスに対して不平不満を持っていたじゃないかッ!!だから、みんなで結束してラクレスをシュゴッダムから追い出し、新たな5王国同盟でこの世界を平和にしようと誓ったんじゃないかああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!」
その時だった。
「…やれやれ…」
不意にジェラミーが声を上げた。
「…全く…。…キミは本当に行間が読めないんだねぇ…」
「…?」
ギラは思わずジェラミーを睨み付ける。するとジェラミーは、
「…本音と建て前…。…お前さんには分からないのかい?」
と静かに言ったのだった。