逆転有罪 第29話
「…本音と…、…建て前…?」
ジェラミーが言い放った言葉に、ギラはますます混乱する。
「簡単に言えば、キミは誰からも信用されていないって言うことさ。この世界の平和を導くのは、ラクレスをおいて他に誰もいないと言うことさ…!!」
「だからッ、何で…ッ!?」
その時だった。
ドクンッ!!
突然、ギラの心臓が大きく高鳴り、目の前がぐらりと歪んだ。
「…あ…、…れ…?」
眩暈がし、思わずしゃがみ込む。
「おおっとぉッ!!そんなに興奮していたのかい?」
ジェラミーが目をギラギラと輝かせて言う。
「…きゅ、…急に…、…どうした…んだ…?」
「おおおおうおうおうおうッッッッ!!!!ようやく、ギラ殿の中で毒が回り始めましたかあッ!!」
カグラギの大声が辺り一面に響き渡る。
「…汚らわしい…ッ!!」
ヒメノが大きな溜め息を吐き、そう言った。
「スコピーの毒が、ようやく効き始めるだなんて…。…あなたの体の中、一体、どんな構造をしているのよ?」
「しょうがねぇだろ」
今度はヤンマが声を上げる。
「コイツはシュゴッド達と話が出来るわ、キングオージャーを1人で操れるわ、底知れぬパワーの持ち主なんだからよ…!!」
「その底知れぬ不気味な力こそ、排除すべきものなのだ…!!」
その時、それまで黙って事の成り行きを見つめていたラクレスがようやく言葉を発した。
「…ま…、…さか…?」
ギラは呆然としたまま、しゃがみ込んだ場所で地面を見つめている。
「…まさか…」
「…ああ…。…全て、私がやったことだ…!!」
ラクレスの目がギラリと光った。
「全ての国王を我が支配下に置き、私の意のままに操った。そして、諸国を回り、王達と手を組もうとする貴様を阻止するために、コイツを使ったのだ」
ラクレスの手に、あの毒々しいほどに真っ青な液体の入った小瓶が握られていた。
「…ゴッド…、…スコーピオの…」
「そうだ。この毒が即効性があるものであることは既に証明済みだった。全ての国王には私自身が毒を盛り、貴様にはトウフ国で供された料理と、イシャバーナ国で供された紅茶の中に毒を盛った」
そう言ったラクレスの目がギラリと光り、口元には不気味な笑みが浮かんだ。
「…だが…。…やはり、貴様には即効性はなかったようだ。一体、貴様はどのような体の構造をしているの?この化け物めええええええええッッッッッッッッ!!!!!!!!」
「…ラぁクぅレぇスううううううううううううううううッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!」
あまりの衝撃にカッとなったギラが飛び出そうとする。だが、すぐに、ガクンと体が傾き、ドサッと言う音を立てて地面に這いつくばる。
ドクンッ!!ドクンッ!!
心臓が大きく高鳴り、体中から血の気が引いて行く。
「…あ…あ…あ…あ…!!」
体がガクガクと震え、立ち上がることも出来ない。
「…おやおや…」
ジェラミーが静かに言うと、
「…どうやら、立ち上がることすら出来ないようだねぇ…」
と言った。
「見れば分かるじゃない?」
ヒメノが冷たく言う。
「スコピーの毒だもの。ギラにも効果はあったってことよ」
「けど、他のヤツは1発で死ぬのに、コイツはしぶとく生きてんだもんなァ…」
ヤンマが苦笑する。
「やっぱ、コイツは化けモンだわ…!!」
「…止めろ…!!」
ギラは顔を真っ赤にし、目をギュッと閉じると、
「…もう…ッ、…止めてくれええええええええええええええええッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!」
と絶叫していた。
「…こんなの…。…こんなのって…、…ないよ…ッ!!」
その目からポロポロと涙が零れ落ちる。
「…僕は…。…僕はこの世界を本当に平和にしたくて…。…そのためには、邪知暴虐の限りを尽くすラクレスを排除しなければならないって…。…それで、…シュゴッドの力も借りて、バグナラクとも戦って…。…ヤンマやヒメノ、リタやカグラギとも手を取り合って…。…今度こそ、この世界を平和に出来るって…、…思ってたのに…!!」
「裁判長殿」
「…何だ?」
ラクレスがリタをじっと見つめている。
「…ギラを、もう一度、裁判にかけてはくれないか?」
「…え?」
その言葉に、ギラは呆然となる。
「…こやつは、私の弟とは言え、この国を転覆させようとした。いわば、国家反逆罪に当たる。そして、国王である私を排除しようとし、更にはヤンマ・ガストと密接な関係を結んだ。それが、ヤンマ・ガストの合意があったとは思い難い」
「気安く呼び捨てにすんな、ゴラアアアアアアアアッッッッッッッッ!!!!!!!!」
「黙れ、ヤンマ」
リタの静かな声がその場の空気を凍り付かせる。
「…き…、…さ…ま…ああああああああああああああああッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!」
あまりに身勝手なラクレスの言葉に、ギラは立ち上がろうとする。だが、その体には力が入らない。
「…ふむ…」
リタは一言だけそう言うと、
「…いいだろう。…ギラ・ハスティを有罪にしてやる…!!」
と言い出したのだ。
「なッ、何言ってんだよッ、リタああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!」
「うるさいッ!!気安く呼ぶなッ!!」
リタは普段聞いたこともないような大声を上げると、
「ヴァアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!」
と叫んでいた。
「被告人ギラは、極刑に処す」
ゴッカン国のキィンと冷える空気の中、リタの冷たい声が響き渡った。
「被告人ギラ・ハスティー。お前はシュゴッダム国の王家・ハスティー家の血を引きながら、自らを邪悪の王と称し、兄でありシュゴッダム国王であるラクレス・ハスティー様に刃を向けただけではなく、イシャバーナ国、トウフ国、そしてこのゴッカン国をも恐怖で支配しようとした!!」
オージャカリバーを真っ直ぐに突き立て、微動だにしないリタ。
「被告人ギラはンコソパ国王・ヤンマ・ガストを唆しただけではなく、お互いの体を重ね合わせると言ういかがわしい行為を行った!!そして、5王国同盟を破棄させようとしたッ!!そして、ンコソパ国から国家転覆を謀り、真の邪悪なる王になろうとしたッ!!その罪は極刑をもって償わなければならないッ!!」
その目がギラリと光った。
「被告人ギラ・ハスティーの極刑は明日行う。処刑人はンコソパ国王ッ、ヤンマ・ガストッ!!」
「おうよッ!!たぁっぷりと、見せ付けてやっからよッ!!」
「…ククク…!!」
その言葉に、ラクレスは低く笑う。その目はギラギラと真っ赤に輝き、その口元には不気味な笑みが浮かんでいたのだった。
「ギラの処刑執行は盛大に行うとしよう。世界中に中継し、その恥さらしな姿を世界中に見せ付けるのだ。…そして…」
ラクレスの目が更に真っ赤に輝く。
「…私がこの世界を支配するのだ…!!…世界中の民を、恐怖によって支配してやる…!!」