スティンガーの憂鬱 第2話
俺とラッキー、小太郎、そしてスパーダは当然のことだが血の繋がりはない。それぞれがそれぞれに故郷を持ち、今、こうしてリベリオンの一員として、ジャークマターと戦うために集まった。俺達は星々の力を借りて宇宙戦隊キュウレンジャーにスターチェンジする。オレはサソリオレンジ、ラッキーはシシレッド、小太郎はコグマスカイブルー、そして、スパーダはカジキイエロー。
正直に言えば、俺は誰ともつるむ気もなかった。独りでいる方が何をやるにも、気分的にも楽だ。だがいつの間にか、ラッキーや小太郎のことを放っておくことが出来なくなり、気が付けば、他のメンバーから兄弟のようだと言われるようになっていた。
「よぉっしゃ、ラッキイイイイッッッッ!!!!」
今日も喧しく響き渡るラッキーの大声。俺達が共同生活をする宇宙船・オリオン号のコンボーブリッジの真ん中で、ラッキーが右手を突き上げ、目をキラキラと輝かせて立っていた。
そして、お決まりのように、
「…ああ…、…もう…ッ!…まぁた、負けたぁ…!」
とガックリと項垂れている小太郎の姿があった。
「ラッキー、何をやっても本当に強いんだもんなぁ…!」
「へっへーん!まぁな!」
ラッキーはニコニコしながらVサインをしてみせた。
2人はさっきからじゃんけんをしていた。何度やっても、ラッキーばかりが勝つ。小太郎がうんざりするのも無理はない。
「…おい、ラッキー…!」
見るに耐えかねた俺はラッキーのもとへ行き、ぽんと右肩を掴んだ。
「お、スティンガー?」
相変わらずニコニコしているラッキー。俺は大きく溜め息を吐くと、
「…お前のラッキーは誰もが認めているし、もう、十分なほどに見届けた。…たかがじゃんけんじゃないか。少しくらい手加減してやったらどうなんだ?」
と、ラッキーの目をじっと見つめて言ってやった。その時だった。
「ダメだよッ、そんなのッ!!」
意外なところから声が聞こえ、俺は視線を思わず下げた。
「…小太郎…?」
小太郎がぷっと顔を膨らませて俺を睨み付けている。
「勝負は正々堂々だッ!手加減してもらって勝ったって、嬉しくも何ともないよッ!!」
「ハッハッハ…!こりゃあ、1本取られたね、スティンガー?」
その時、ショウ司令が俺達のところへ笑いながらやって来た。
ショウ・ロンポー司令。俺達キュウレンジャーの司令であり、共にジャークマターと戦う同胞でもある。ショウ司令はリュウコマンダーに変身する。ショウ司令は小太郎をじっと見つめると、
「ビッグベア総司令の力を託されただけある。まだまだ隠された力がありそうだね!」
と言い、小太郎の頭を撫でた。
その時だった。
「なぁんか、家族みたい」
カメレオングリーン・ハミィがニコニコしながらやって来るとそう言った。
「司令がお父さんでぇ、スティンガーが一番上のお兄さん。ラッキーがその次でぇ、小太郎が一番下の弟って感じかな!」
「おおッ!?いいなぁ、それ!!」
ラッキーが目をキラキラ輝かせると、小太郎が調子に乗って、
「スティンガー兄貴ッ!!」
と俺のことを呼んで来た。
「…な、…何言ってるんだ、バカバカしい!」
俺の顔が物凄く熱くなっているのが分かっていた。明らかに動揺していた。
「そう言えば、小太郎。スティンガーのことを前から“兄貴”って呼んでいたよね?」
スパーダまでがそう言い、俺をニヤニヤと見上げている。すると小太郎は、
「うん!だってオレ、スティンガーのことを本当に兄貴みたいに思ってるから!」
とニコニコしながら言ったのだ。
「…や、…止めろ…!」
心臓がバクバクと高鳴っている。どう接していいのか、分からなくなっていた。だがスパーダは、
「あれえ?スティンガー、顔が真っ赤になってるよぉ?もしかしてぇ、照れてるのかなぁ?」
と聞いて来た。
スパアンッ!
その時、俺は無我夢中でスパーダの頭を引っ叩いていた。そして、
「…てッ、…照れてなどいないッ!!」
と言いながら、俺の後ろに生えている尻尾をバタバタと振った。
「まあまあ、いいじゃねえか!」
そんな俺の動揺に気付いたのか、ラッキーが大声を上げた。
「オレと小太郎、スティンガーだけがそんな関係じゃないぜえッ!?」
と言うと、両手を大きく開き、
「オレ達、ここにいる全員が家族だああああッッッッ!!!!」
と言い放った。
「「「「「「「「「「家族ぅ?」」」」」」」」」」
それにはオオカミブルー・ガルもテンビンゴールド・バランスも、オウシブラック・チャンプもヘビツカイシルバー・ナーガも、ハミィもワシピンク・ラプターも、スパーダもショウ司令も、そして小太郎も反応していた。するとラッキーはニコニコして、
「ショウ司令が親父だろ?で、スパーダが一番上の兄貴。スティンガーが2番目、ナーガが3番目で、オレが4番目。そしてハミィがオレの妹、小太郎が弟だ!」
「Buona idea!(ブオナ イデア)いい考えだねッ、ラッキーッ!!」
スパーダが嬉しそうに言うと、
「おい、スパーダ。お前、暗に一番年寄りって言われてんだぞ?」
と、チャンプが静かに突っ込んだ。
「…」
最初はきょとんとしていたスパーダだったが、俄かに顔を真っ青にしたかと思うと、
「Mamma mia(マンマ ミーア)アアアアッッッッ!!!!」
と目を大きく見開いて叫び、その場にへなへなと崩れ込んだ。
「スパーダッ、大丈夫ぅッ!?」
小太郎が慌てて駆け寄る。
「え〜?ショウ司令がお父さん?」
その時、ハミィが思い切り嫌そうな顔をしていた。するとショウ司令は、
「おや?ハミィちゃん、ぼくちんではお父さんは務まらないかい?」
と尋ねた。ハミィは大きく頷くと、
「だってぇ、こぉんな頼りないお父さんなんてマジいらないんですけど!」
と言った。その言葉を聞いた途端、
「グサッ!…ちょ、…ちょっとハミィちゃん。…言うよねぇ…」
とショウ司令は冷や汗を垂らしていた。
「いやいや、そんなことないぜ?オレ達キュウレンジャーの司令なんだしよ、親父ってイメージじゃねえか!」
ラッキーが司令を庇うように言う。
「…イメージ…ねぇ…」
その横でバランスがはぁと大きく溜め息を吐き、
「僕達、司令のせいでいろいろ迷惑ばっかり掛けられていると思うんですけどぉ…!」
とぼそっと呟くように言った。それを耳聡く聞いたショウ司令が、
「グサッ!…ちょ、…ちょっとバランス。…それはないんじゃないのぉ?」
と泣きそうな声で言った。
その時だった。
「…バランス…」
「およ?」
ナーガがバランスを呼んでいた。そして、
「…家族…とは何だ…?」
と聞いたのだった。