スティンガーの憂鬱 第3話
「…家族…とは何だ…?」
ヘビツカイシルバー・ナーガのこの言葉に、
「何だ、お前?家族も知らねえのか?」
と、シシレッド・ラッキーが無神経にも問い掛ける。するとナーガは目を伏せて、
「…俺には…、…家族と呼べる者がいない…」
と静かに言った。その言葉に、コンボーブリッジがしんと静まり返った。
「…そっか…。…ナーガの一族は感情を捨てたんだっけねぇ…」
テンビンゴールド・バランスが頷きながら言う。ナーガは、
「…俺は、…物ごころついた時には一人ぼっちだった。…お前達の言う家族と言うものはなかった…」
と言った。
「でも、お前を生んでくれた両親はいたわけだろ?」
ラッキーが尋ねると、ナーガはコクンと頷き、
「父親、母親と言うものは存在した。だが、それは生物学的上の関係だけであって、俺には愛されて育ったと言う記憶がない…」
と言った。
「家族ってなぁ、本当はすっげぇものなんだよ!」
ラッキーがニコニコしながら言う。
「オレやナーガを生んでくれた親父やお袋がいて、そのまた親父やお袋がいて…。たくさんの命を繋いで、たくさんの愛情に包まれてオレ達は大人になって行く。そして、今度はオレ達がオレ達の子供へ、未来へ、たくさんの愛情を与えて行くんだ!オレ達がたくさんの星の人々をジャークマターから解放し、たくさんの人達に笑顔を取り戻すようになッ!」
「…愛情…、…命…、…未来…」
ナーガがそれぞれの言葉を噛み締めるように呟いた。
「ああ!お互いを大切に思う気持ち、お互いを愛する気持ちがあれば、きっと、世の中から争い事なんてなくなるんだ!ナーガにだって、誰かを愛したい、守りたいって言う気持ちはあるだろう?」
ラッキーがそう尋ねると、ナーガはちらりとバランスを見た。その視線に気付いたバランスが、
「…え?…ぼ、…僕?」
と戸惑った声を上げる。するとナーガは、
「…バランスや、…みんなを…、…守りたい…!」
と言った。その時だった。
「…アントン博士も同じことを言っていたな…」
オウシブラック・チャンプが遠い目をしていた。
『…いいかい、チャンプ…。戦いに心を奪われちゃいけないよ?誰かを救いたいと言う心を失えば、お前はただの機械になってしまう…』
「そう言うことだ。だから、チャンプはこぉんなに心のある、優しいロボットになったんだ!」
ラッキーはそう言うと、チャンプの肩をバンバンと叩いた。
「…やッ、…止めろよ…ッ!!…照れるじゃねぇか…ッ!!」
チャンプがそう言った時、チャンプの目に光るものがあるのを俺は見逃さなかった。
「…あの…」
その時、ワシピンク・ラプターが声を上げた。そして、
「…ヒューマンタイプではない私達は、…家族の中ではどんな存在なんでしょうか…?」
とラッキーに尋ねた。するとラッキーは、
「…そうだなぁ…」
と少し考え、
「チャンプがショウ司令の兄弟で、バランスとラプターがその子供ってのはどうだ?」
と言った。
「「「「はああああッッッッ!!!!!!??」」」」
その言葉に、チャンプ、バランス、ラプターだけではなく、リュウコマンダー・ショウ司令までもが大声を上げた。
「おいおいッ、ラッキーッ!!何で吾輩がこんないい加減な親父の兄弟なんだッ!?」
「…ちょ、…ちょっと、チャンプッ!!…そんな言い方…」
ショウ司令が首を項垂れる。
「あ、でもでも!僕とラプターが兄弟って言うのはイイネッ!!」
「…え…」
ご機嫌なバランスに対して、やや引き気味のラプター。だがすぐに、
「あ、でも、私のお父様がチャンプさんって、良いかもしれませんね…」
と恋する乙女のような視線をチャンプに投げ掛けた。
「…う…、…ぐうう…」
チャンプが顔を真っ赤にし、ふいと視線を逸らす。
「んまッ、役割なんて関係ねぇ!血の繋がりがなくたって、大切に思える人が傍にいて、1つの空間で一緒に生活してりゃ、家族も同然じゃねえか!」
「…そうだな…」
ショウ司令が静かに言った。
「…ここに、…あいつがいれば…」
「…あいつ?」
全員の視線が一気にショウ司令に注がれる。すると司令は、
「…私が、…不甲斐ないばかりに…」
と悲しげな表情を浮かべた。
「…まさか、司令ッ!?…奥様がいらっしゃったんですか…ッ!?」
ラプターだけでなく、カメレオングリーン・ハミィも呆然と司令を見つめている。
「…キョウコ…」
「「「「「「「「「キョウコォッ!?」」」」」」」」」
全員で一斉に声を上げる。と、その時だった。
「ああ、キョウコ。キョウコ。お前はどうしてキョウコなんだ?オレのどこがいけなかったと言うんだ?戻って来てくれ、キョウコ…」
コグマスカイブルー・小太郎が文庫サイズの本を手に読んでいた。その途端、
「うぎゃああああああああああああああああッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!」
と言うショウ司令の絶叫が耳を劈いた。
「…こここ、小太郎ッ!!…そそそ、…そんな大人向けの本を読んじゃダメええええッッッッ!!!!」
ショウ司令が読んでいた本は、いわゆる大人にしか読めない、そんな小説のようだった。その慌てふためいた声に、
「…なッ、…なになにッ!?」
と、小太郎までもが勢いに押されて慌てふためいている。
「…小太郎、こっちへ来い…!」
俺はやれやれと溜め息を吐き、小太郎を羽交い絞めにしてずるずると司令から引き離した。
その時だった。
「…あ、…あのぉ…」
背後から声が聞こえ、俺達は一斉に振り向く。
オオカミブルー・ガルがおずおずとしていた。
「…お、…俺は家族で言ったら、何になるガル?」
「「「「「「「「「「ペット!!!!」」」」」」」」」」
全員の声が揃った。
「…わんッ!!…って、何でじゃああああッッッッ!!!!」
ガルが吠え、ラッキー達は大声で笑っている。するとラッキーが、
「…だ、…だってよぉ、ガルは獣人だろう?だったら、ペットしかねぇじゃねぇか!それに、ペットだって立派な家族なんだぜ?」
と言った。するとハミィまでもが、
「ガルって、いっつもラッキーにベタベタじゃない?尻尾をぶんぶん振っている犬みたいに見えてかわいいけど?」
と、俺の尻尾の毒よりも強い毒を吐いた。そして更に、小太郎までもがガルの傍へ行き、
「ガルッ!お手ッ!!」
と右手を差し出した。その途端、
「わんッ!!」
と、ガルが左手を小太郎の右手に載せた。だが次の瞬間、
「何でじゃああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!」
と頭を抱えて叫んだ。それに再び笑い声を上げるラッキー達。
「…動物の本能か…」
俺は誰にも聞こえないようにぼそっと呟いた。
(…兄貴…)
大声で笑っているラッキー達を横目に、俺はその時、俺の実の兄・スコルピオのことを思い出していた。