スティンガーの憂鬱 第4話

 

♪大地に強い風がふき 宇宙(そら)に星が下りる頃

 星の砂を数えながら 光ともる明日(あす)に向かう…

 

 銀河最強と謳われるサソリ座系の惑星・ニードル。そこで俺は生まれ育った。植物さえ育たない、荒涼たる大地。ゴツゴツとした岩肌しか見えないそこには一年中、砂嵐が吹き荒れ、俺達はそんな過酷な環境の中で生きて来た。

「…兄貴…」

 瑠璃色の光を放つペンダントを取り出し、俺はじっと見つめる。今は、これは兄の形見だ。

 

 俺の兄・スコルピオはさそり座系最強の戦士だった。だが、俺にとっては優しい、ただ一人の兄だった。

「…アニキぃ…!」

 兄貴が旅に出ることが分かったその日、まだ小さかった俺は兄貴と離れることの寂しさから、行かないでとぐしぐしと泣いた。すると兄貴はニッコリと、だが、ちょっと困ったように微笑んで、

「泣くな」

 と言い、俺にこのペンダントをくれた。

「こいつを俺だと思え。俺達はいつでも一緒だ…!」

 

 そんな優しかった兄貴が狂い始めたのは、旅立つ少し前くらいだっただろうか。

 当時、俺は今のような一匹狼の性格ではなく、弱虫として同じ部族の者から苛められていた。そんな俺を、兄貴はいつも助けてくれていた。

「俺達はいつでも一緒だ…!」

 だが、そんな俺の弱さが、兄貴を狂わせたと言ってもいいだろう。兄貴は弱い者を救いたいと思い続け、力を手に入れた。だが、敵と戦う日々に何かが狂ってしまった。兄貴は力に飲まれて闇に堕ちた…!

 数日後、兄貴を探して走り回っていた俺は見てしまった。兄貴が、俺を苛めていた連中を、戦意を失ってもひたすら殴り続けていたのを。そして、そんな兄貴の口元に、不気味な笑みが浮かんでいたのを。

 それが、兄貴が力に溺れ、闇に魅入られたきっかけだった。

 

 数年の時が流れ、俺が大人になった頃、惑星ニードルに突如としてジャークマターの大軍が押し寄せて来た。俺達は故郷を守ろうと懸命に戦った。だが、その大軍の中に、兄貴がいるのを見つけた時は俄かには信じられなかった。

 宇宙最強の殺し屋となった兄・スコルピオ。あっと言う間に俺以外の仲間を皆殺しにして行った。

「…アニキイイイイッッッッ!!!!

 体中が傷付き、それでも俺は槍を杖に立ち上がり、必死に兄貴に呼びかけた。すると兄貴はゆっくりと振り向き、冷たい眼差しを俺へ向けた。

「…どうして俺達を裏切った…!?

 だが兄は、口の端をちょっとだけ歪ませると、

「…フン…!」

 と鼻で笑い、その大軍の中へ消えて行った。

「…ァァァァアニキイイイイイイイイッッッッッッッッ!!!!!!!!

 俺の叫び声だけが、真っ赤に染まった暗闇の中に響き渡った。

 

 それから俺は、兄貴をひたすら探した。だが、どこを探しても兄貴の居場所は掴めず、苛立ちともどかしさだけが募って行った。そんな時、俺はショウ司令に出逢うことになる。

「…貴様も、…ジャークマターか?」

 そう言いながら、俺は龍の姿をしたショウ司令へ襲い掛かった。だが、ショウ司令は、

「ほい!ほい!」

 と両手を後ろに組みながら、俺の攻撃をひょいひょいとかわして行く。

「…ぁぁぁぁああああッッッッ!!!!

 苛立ちが頂点に達し、殴りかかろうとしたその瞬間、ショウ司令は右手を真っ直ぐに俺の方へ突き出した。

「…ッ!?

 それに呆気に取られた俺は、次の瞬間、物凄い衝撃波と共に背後へひっくり返っていた。

「惜しいな」

 俺がサソリキュータマを持っているのに気付いたショウ司令はそう言うと、

「その力、ジャークマターを倒すために、使ってみないか?」

 とセイザブラスターを差し出した。俺がサソリオレンジになったきっかけだった。

 それから俺はスパイとしてジャークマターに潜り込み、ヤツらの動きを追った。この宇宙のどこかに、俺達を裏切った兄貴が、宇宙最強の殺し屋となったスコルピオがいると信じ、その情報を掴むこともジャークマターに潜入した理由だった。その時、惑星チキュウにとんでもないものが眠っていることを知る。

 

 宇宙を支配出来るほどの力・アルゴ船。トモキュータマ、ホキュータマ、リュウコツキュータマを揃えば、アルゴ船と言う強大な力を持つ船を復活させることが出来るとのことだった。その復活の阻止こそが、将軍ドン・アルマゲが大軍を送り込んでまでチキュウを消滅させようとした理由だった。

 そんな俺達の目の前に、将軍ドン・アルマゲの力を借りて凶悪化した兄・スコルピオが姿を現す。昔の優しさの面影もないほどに醜悪な、凶暴な姿になった兄。俺の仲間も皆、ボロボロに傷付いた。

「もうこれ以上、今の兄貴は見ていられない!…だから、…兄貴は俺が倒す!」

 ホキュータマとトモキュータマを渡すと言い、スコルピオに接近した俺は、その場で独りでスコルピオを倒そうとする。だが、そんな俺の力量を知っているスコルピオは、

「今更一人で来て、俺に勝てると思ったか?」

 と、俺の攻撃をいとも簡単にかわして行く。

(…これしか、…ないか…!)

 俺は覚悟を決めた。

「俺はキュウレンジャーではなく、サソリ座の戦士として兄貴を倒す!」

 そう言いながら、自らの胸に自らの尻尾を突き刺した。

 その瞬間、俺の体内におぞましいほどの感覚が駆け抜けた。そして、その強烈な力に意識を失いそうにもなっていた。

 サソリ座の一族に伝わる秘術・アンタレス。自らを猛毒と化し、戦闘能力を飛躍的に向上させた。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!

 野獣のように咆え、スコルピオへ突進して行く俺。一瞬、スコルピオを圧すことが出来たかと思った。だが、やはりスコルピオは戦闘能力が高い。もともとサソリ座の一族出身と言うだけではなく、ドン・アルマゲの力を借りて宇宙最強の殺し屋となってしまっている。俺が独りで立ち向かえる相手ではないことも分かっていた。

 そして更に。

「ただし、その代償は自らの命」

 アンタレスの毒は確実に俺の体を蝕んでいた。そしてそこへ、スコルピオの猛毒が更に襲い掛かり、俺は自我を忘れた。

「うがああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 狂ったように叫び、仲間へも襲い掛かる俺。

 だが、そんな俺を、仲間が、特にコグマスカイブルーの小太郎が救ってくれた。

 俺は小太郎が打ち込んでくれた解毒剤で正気を取り戻し、小太郎とシシレッドのラッキーと一緒に、スコルピオを、兄貴を打ち倒したんだ。

 

「兄貴イイイイイイイイッッッッッッッッ!!!!!!!!

 倒れて行く兄貴を、俺は無我夢中で抱きかかえた。

「強くなったな…」

 おぞましい怪物の表情の兄貴。だが、その口元にはうっすらと笑みが浮かんでいた。俺は涙を必死に堪えながら、

「…守るものを手に入れたから、…強くなれた。…昔の兄貴みたいに…!」

 と言った。すると兄貴は、

「…俺は守るべきものを捨て、…強さに魅入られた…」

 と寂しそうに言った。

 その時だった。

 ドクンッ!!

 俺の体に激痛が走った。

「ぁぁぁぁああああああああああああああああッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!

 その激しい痛みと苦しさに喘ぐ俺。その時、兄貴が力を振り絞り、起き上がったかと思うと、

「死ぬな!お前には守るべきものがある!」

 と言いながら自らの尻尾を俺に突き刺し、アンタレスの猛毒を自らの体に移し替えたんだ。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!

 今度は兄貴が猛毒に冒され、素顔の兄貴に戻りながらゆっくりと俺の腕の中に横たわった。

「…死ぬのは俺だけでいい!…お前は生きて、…誰かを守り続けろ…!!…仲間と一緒にな!!

 そう言った兄貴の目と合った。兄貴はニッコリと微笑むと、震える腕を伸ばし、俺の頭をくしゃくしゃと撫でた。そして、

「…いい仲間を持ったな!」

 と言った。俺は泣き笑いの表情で、

「…ああ…!!…最高の仲間だ…!!

 と言い返した。兄はニッコリと微笑んで、

「…最後に…。…お前を守れて、…よかった…!!

 と言い、遠い空へと上って行ったのだった。

 

(…兄貴…)

 俺の心の中には、亡き兄・スコルピオがいつもいる。そして、語りかけるんだ。

(…兄貴…。…兄貴が俺にしてくれたように、…俺はラッキーや小太郎に接すればいいのか…?)

 

第5話へ