スティンガーの憂鬱 第6話

 

 地中の奥深く――。

 言い換えれば、地底世界。そこは太陽の光も、土中の熱もない、夏でも極寒の場所。そこに俺と小太郎は落ちて来た。ゆっくりと起き上がると、俺は辺りを見回した。光も届かない真っ暗闇の世界。

「…小太郎ッ!?

 俺から少し離れた場所で倒れている小太郎。気を失っているように見えるものの、体はぐっと小さく蹲り、寒さに耐えているように思えた。

「ロキュータマ!!Say the attack!!

 俺はロキュータマを取り出し、セイザブラスターへ填め込んだ。そして、セイザブラスターのトリガーを引いた時、地面に煌々と燃え上がる焚き火が出来上がっていた。

「…ん…」

 その時、小太郎が目を覚まし、ゆっくりと起き上がった。

「…ここ…は…?」

 と言うものの、自分が何故、地底に落ちて来たのかすぐに理解したのだろう。ハッとした表情を浮かべ、勢い良く起き上がった。そして、パンパンと体に付いた土を叩き落とすと、

「よし。早くデスワームを探そう!」

 と言い出した。

「探してどうする?戦うのか?」

 その時、俺は小太郎に尋ねていた。

 小太郎の戦い方は、戦闘慣れしていないと言うこともあり、一歩間違えれば、その命を奪われかねないものでもあった。それよりも寧ろ、俺には心配事があった。

 それは、ショウ司令の上司にあたるビックベア総司令の力を授かり、コグマスカイブルーにスターチェンジ出来たことへの驕りと、力を手に入れたと言う過剰意識だった。

「は!?当たり前だろ!?せっかく戦う力を手に入れたんだ!!

「…戦う力…か…」

 予想通りの答えを返して来た小太郎に、俺は目を伏せ、小さく溜め息を吐いた。俺の脳裏を、兄・スコルピオが過ぎる。

「…俺には兄貴がいた。兄貴は弱い者を救いたいと思い続け、力を手に入れた。…だが、敵と戦う日々に何かが狂ってしまった。…兄貴は力に飲まれて闇に堕ちた…!」

 兄の二の舞に小太郎がなるのではないか、兄と同じように、強大な力を手に入れた小太郎が闇に魅入られたりしないだろうか。ただ、それだけが心配だった。

「弟がいたな。弟は大事か?」

 俺が尋ねると、

「もちろん!大事に決まってるよ!」

 と、小太郎は何を言い出すんだと言う顔付きをして、目を大きく見開いて言った。

「だったら、弟が誇れる兄でいろ!そうすれば、お前が力におぼれることはない!」

 すると小太郎は、一瞬、戸惑った表情を見せ、

「…次郎が、…誇れる…オレ…?」

 と言ったが、すぐに理解したのか、

「…うん!」

 と大きく頷いた。

 それが証拠に、小太郎の戦闘スタイルに無駄な動きや驕り高ぶった感情がなくなった。と言うか、俺の戦闘スタイルをとにかく真似するようになった。そして、

「兄貴!兄貴!」

 と常にくっ付いて来るようになったのだった。

 

 やがて、惑星チキュウにとんでもないものが眠っていると言う情報を掴んだ。

 宇宙を支配出来るほどの力・アルゴ船。トモキュータマ、ホキュータマ、リュウコツキュータマを揃えば、アルゴ船と言う強大な力を持つ船を復活させることが出来るとのことだった。その復活の阻止こそが、将軍ドン・アルマゲが大軍を送り込んでまでチキュウを消滅させようとした理由だった。

 そんな俺達の目の前に、将軍ドン・アルマゲの力を借りて凶悪化した兄・スコルピオが姿を現す。

「…兄貴は、…俺が止める…!!

 チキュウの人々をその毒でゾンビ化し、俺達を襲わせた兄貴。

「…もう、あの頃の、…優しい兄貴は、…どこにもいない…」

 瑠璃色に光るペンダントを見つめ、胸が張り裂けそうになっていたその時だった。

「兄弟で憎しみ合うなんて、本当は迷ってるんだろ?」

 俺の元へ駆け寄って来た小太郎が、俺の心を見透かすように言って来た。

「…迷いなど、…ない!」

 悟られまいと強がったが、

「嘘だ!じゃあ、何であんなこと、オレに言ったんだよッ!?

 と声を張り上げた。

「弟が誇れる兄でいろ!」

 ズキンと心が痛んだ。…自分の兄は…、…スコルピオは…。…俺の誇れる兄貴だろうか…?

「今でもお兄さんのこと、信じてるんじゃないの?」

 本当のことを言えば、兄貴のことを信じたかった。兄貴がジャークマター側に着いたのには、何か理由があったからではないのか、そのために、俺達一族を殺さなければならなかったのではないか…。

 だが、そんな俺の思いは一瞬にして砕かれることになる。

 

 スコルピオの猛攻に、俺達キュウレンジャーは傷付き、ボロボロになった。特に俺は、己の命と引き換えに、自身の毒でその戦闘力を格段に上げる秘術・アンタレスを使い、スコルピオを倒そうと単身乗り込んだ。だが、スコルピオの圧倒的な力の前に、逆にスコルピオの毒をも食らい、仲間に牙を剥いた!

 その時、俺を正気に戻してくれたのが、他でもない、小太郎だった。

「…オレは弱くなんかない。…守るものだってある。…助けてくれる仲間だっている。…チキュウ人だって戦える!お前なんかよりよっぽど強い!」

 スコルピオの毒に操られた俺だけではなく、小太郎をも侮辱したスコルピオに、小太郎はその小さな体で声を張り上げ、そう叫んでいた。そんな小太郎に、俺は猛然と襲い掛かった。

「ぐあッ!!

「うわああああッッッッ!!!!

 俺の拳が、脚が、尻尾が小太郎に容赦なく襲い掛かる。まだまだ子供の小太郎と、猛毒に冒され、戦闘力を格段に上げている俺とでは体力も雲泥の差だ。あっと言う間に追い詰められて行く小太郎。だが、どんなに俺が殴ろうが、蹴飛ばそうが、小太郎は果敢に俺に立ち向かって来た。

「スティンガーはオレに教えてくれた!弟が誇れる兄でいろって!!スティンガーは、オレが誇れる兄貴だ!!兄貴はお前なんかに絶対負けない!!だから兄貴、そんなみっともない姿、オレに見せないでくれよ!!オレの大好きな兄貴に戻ってくれええええッッッッ!!!!うわああああああああああああああああッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!

 そして、ちょッとした隙を見せた俺の体に小太郎が、俺自身が作り出した解毒剤のストックを打ち込んだ。俺はまず、スコルピオの猛毒から解放された。

「…う…!」

 だがその時、逆に体力を全て消耗した小太郎が気を失い、倒れそうになった。

「ああッ!!

 こんな小さな体のどこに、そんな力があったんだと、俺は胸がいっぱいになった。こんな小さな体で、こんな俺のために命懸けで立ち向かって来て…。俺は、なんてことを小太郎にしてしまったんだろう…!

 倒れる瞬間、俺は小太郎の右腕をしっかりと掴んでいた。

「…?」

 そんな俺をぼんやりと見つめる小太郎。

 俺の目がじんわりと熱い。そして、目の前の小太郎の顔が少しだけ歪んで見えた。俺は右手を小太郎の頭の上に載せ、くしゃくしゃと撫でた。

「強くなったな、小太郎…!」

 俺が惑星チキュウでスコルピオを探している最中、小太郎はキュウレンジャーから一時離団し、リベリオン本部で戦闘訓練を受けていた。それも、小太郎を強くした一因だろう。

「…兄貴…!」

 俺がニッコリと微笑むと、小太郎は嬉しそうに目を輝かせ、俺に抱き付いて来た。そんな小太郎を、俺は強く抱き締めた。

「何一人で抱えてんだよ?…オレ達のことがそんな信じられねぇか?」

 その時、一緒に戦っていたラッキーがやって来て俺に言った。

「…お前達に迷惑をかけたくないんだ…」

 もうこれ以上、仲間が傷付くのは見たくない。そう思っていたのに、ラッキーは、

「一緒に戦おう。オレ達は、あいつより強い!」

 と言い、一度外した俺のセイザブラスターとサソリキュータマを俺に差し出して来た。俺はそれを受け取り、

「スターチェンジッッッッ!!!!

 と、俺はサソリオレンジに、ラッキーはシシレッドに、そして、小太郎はコグマスカイブルーにスターチェンジし、

「兄貴は強い!だけど一人だ。俺には仲間がいる!アンタレスインパクトオオオオオオオオッッッッッッッ!!!!!!!!

「ポラリスインパクトオオオオオオオオッッッッッッッ!!!!!!!!

「レグルスインパクトオオオオオオオオッッッッッッッ!!!!!!!!

 と、それぞれの必殺技を繰り出し、スコルピオを倒したのだった。

 

「…兄貴…」

 真っ暗闇が外に広がるオリオン号の中で、俺は兄貴のことを思っていた。

「…俺は、…生きる…!…俺の大好きな、…仲間を、…守り続ける…!」

 その時だった。

 ガチャ…!

 コンボーブリッジのドアが開き、

「…う…、…うう…ッ!!…うええ…!!

 と、小太郎が泣きながら入って来たのだった。

 

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